【ゲームブック】感想:ゲームブック「メトロイド ゼーベス侵入指令」(塩田 信之、スタジオ・ハード/1986年)【クリア】

メトロイド―ゼーベス侵入指令 (双葉文庫―ファミコン冒険ゲームブックシリーズ)

http://www.amazon.co.jp/dp/4575760161
メトロイド―ゼーベス侵入指令 (双葉文庫ファミコン冒険ゲームブックシリーズ) 文庫 1986/12/1
塩田 信之 (著), スタジオ・ハード (編集)
出版社:双葉社 (1986/12/1)
発売日:1986/12/1
文庫:285ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

コスモ歴20X5年、外宇宙調査船が宇宙海賊に襲われた。ヤツらの目的は、謎の生命体メトロイド。異常な増殖力と恐るべきパワーを持った危険生物だ。宇宙連邦軍からスペース・ハンター、サムス・アランに緊急指令が飛んだ!!海賊の根拠地、惑星ゼーベスに侵入し、機械生命体マザーブレインを破壊せよ。ヤツらにメトロイドを利用させてはならない…。立て戦士アラン!!メトロイドを倒し、宇宙の平和を守るのはキミしかいない!さあ、新たな戦いの幕開けだ。

 

概要

 SF。1986年発売のファミコン向けアクションゲーム「メトロイド」(任天堂)を原作とする作品。


あらすじ

 遥か未来、人類が宇宙に進出し銀河連邦が確立された時代。危険な宇宙生物メトロイド」の細胞を格納した生態カプセルが宇宙海賊に強奪された。連邦警察は、宇宙海賊がメトロイド生物兵器として銀河連邦に投入する前にカプセルを奪還すべく、宇宙海賊の拠点「小惑星ゼーベス」を攻撃するものの撃退されてしまう。そのため連邦警察は、最強の宇宙戦士(スペース・ハンター)「サムス・アラン」にカプセル奪還の任務を依頼した……


ゲームシステムなど

 パラグラフ数460。

 キャラクターのパラメーター「エネルギー」有り。サイコロ振り・戦闘あり。


感想

 評価は○(終盤だけは面白かった)

 1986年に発売されたファミコン向けアクションゲーム「メトロイド」のゲームブック版。大半は面白くなかったのですが、終盤に入ると少し盛り上がったので評価はそれなりです。

 原作ゲームは1986年8月に発売されていて、このゲームブック版は同じ年の12月発売です。スタッフは、原作ゲーム発売後に入手してゲーム内容を把握し、それから作品を書き始めて12月に発売までこぎつけたわけで、かなり強行スケジュールに見えます。多分、当時、この手のゲーム原作ゲームブックは、ファミコンソフトを入手できない子供にとってゲームの代替品だった、という背景があるのだろうと思われますが、大変だったろうなぁと……


●イマイチすぎるゼーベス編

 本作の内容は原作ゲームを概ね再現しており、戦士サムスは小惑星ゼーベスに侵入して三層構造の基地内を探索し、基地のどこかに存在する中枢コンピューター「マザー・ブレイン」を破壊してメトロイドの生態カプセルを持ち帰らねばなりません。

 テーマはSF物ですが、基本的にやることはダンジョン探索です。しかしあらかじめ基地内の地図が用意されており、さらに座標として「A-1」等の記号が記入されているため基地内で迷子になる心配はなく、初心者に優しい仕様です。そして基地内は双方向移動可能なシステムで自由に探索できます。

 この基地探索で面白いのが「隠し部屋」の処理で、隠し部屋の前までやって来ると「秘密の扉があり、その向こうには隠し部屋『A-99』がある。A-99に行くならパラグラフ1●5へ進め」という様に書かれています。つまりパラグラフ番号の一文字だけ隠しているのです。そこで読者は該当しそうなパラグラフ「105」から「195」までを読んで中身を調べ、隠し部屋のパラグラフ番号を特定します。これはちょっと面白い仕組みだと思いました。

 基地内にはやたらと武器(ミサイルやビーム砲)が落ちているので、サムスは部屋を残らず歩き回り、あるだけの武器を入手する必要があります。もし最終決戦までに武器の取り残しがあると、たぶん最強の敵マザー・ブレインには歯が立たないでしょう……


 さて、作者の塩田信之氏のあとがきによると、双葉社から原作ゲームの内容を可能な限り再現してほしいと依頼があったとのことで、確かにサムスがゼーベス基地内をラスボスを求めて探索していくという雰囲気は良く出せていましたが……、しかしだからこそ面白くない……

 何せ基地内はサムス(と敵)以外誰もいないため、サムスは基地内で戦闘するか武器を拾うかしかなく、その他のイベントは皆無。例えば、誰か人間と遭遇して会話をして手掛かりをもらったり、といった事は一切起きないのですぐに飽きてしまいました。

 また基地内では一エリア移動するごとに必ず戦闘が発生し、その度にサブルーチン的に作られている戦闘専用のパラグラフ群に飛ばされてめんどくさいバトルを行う必要があります。そして勝利して元の場所に戻ってきても、また移動すると、またバトルが発生し……、の繰り返し。あまりにも戦闘が多すぎです。まあ多分原作のファミコンゲームはプレイしてこんな雰囲気なのだと思いますが、それをゲームブックで再現すると辛過ぎだと思わなかったのか……?



●SFホラーな「第二部」(仮称)

 ところで、原作ゲームではサムスがマザー・プレインを破壊しメトロイドの生態カプセルを入手すればそれで終了ですが、このゲームブックではその後、第二部(仮称)とでもいうべきストーリーが続きとして存在し、これは嬉しい驚きでした。

 その内容は、サムスが宇宙船に生態カプセルを乗せて帰還の途に就いたところ、船内でカプセルからメトロイドのミュータント「M = M」が出現してしまい、「M = M」を船から放り出すか、それともサムスが船から脱出するか……? と選択を迫られるという映画「エイリアン」的なSFホラー展開。

 そしてこれ以降は、ホラーテイストで手に汗握る展開の上、面倒なダンジョン移動は無くなり、選択肢を選んで進めていくだけの「普通のゲームブック」になるので、一気にプレイすることが可能で、それまでのだるい展開が嘘のようにプレイが楽しくなりました。

 この第二部(仮称)では、ゼーベスで見かけなかった宇宙海賊がストーリーに加わり「サムス 対 宇宙海賊 対 『M = M』」という三つ巴展開になったりして実に面白くなります。しかもその際にサムスが宇宙海賊たちに素顔をさらし、その正体が絶世の美女であることが判明するのです。サムスが女性というのは原作ゲームからの設定ですが、本作ではイラストを担当した有坂須美氏の手でサムスが黒髪のキリッとした美女として描かれており、実に魅力的でした。

 サムスは無事危機を乗り越え、地球に帰還することが出来るのか……?!



●あんまりなエピローグ

 この作品には、なんと最終パラグラフの「その後」を描く「エピローグ」が存在します。ゲームブックは名作と言われる作品でもラストがあっさり過ぎるものが多いと思うので、エピローグを別に用意するという発想は素晴らしいと思いました。

 し・か・し、その内容が酷い。第二部(仮称)の最後では、サムスは宇宙空間で海賊も「M = M」も吹き飛ばして始末し、生態カプセルを地球に持ち帰って無事任務を果たしておしまい、となっていました。

 ところが、このエピローグでは「M = M」は死んでおらず、サムスを追って地球に落下し、そのまま姿をくらました、というバッドエンドオチで締めています。もうどこのSFホラー映画だよ、みたいな(苦笑) つまりどうプレイしても結局ダークなオチにしかならない、というこの作品、あまりにもあんまりすぎる(笑)



●ラストコメント

 ということで、本作は大半の部分はつまらないのですが、オリジナルの第二部(仮称)のSFホラーパートは割と面白かったのと、有坂須美氏のサムスが美人だったので、評価はちょっとだけ持ち直しました(ひどいエピローグもインパクトは凄いし)。本作を人にお勧めする気にはまったくなりませんが、ダメ作品でもなかったという評価で締めたいと思います。