感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」2018年10月特番・第2回『天才誕生 精子バンクの衝撃』

ノーベル賞受賞者の精子バンク―天才の遺伝子は天才を生んだか (ハヤカワ文庫NF)

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

perry-r.hatenablog.com

 

科学を志す若者は、理想の人間を造ろうとして恐るべき怪物を生み出してしまった-。
人類が創り出した最も有名な怪物の物語、「フランケンシュタイン」が世に出て、ちょうど200年。科学史の闇に迫る、あの知的エンターテインメントが3週連続の特集シリーズで帰ってくる!
今回のテーマは、「理想の人間」「超人類」を創造しようとした科学者たち。加速する一方の科学技術と社会、そして倫理について考える。
ナビゲーター:吉川晃司

 

第2回 『第二夜 天才誕生 精子バンクの衝撃』 (2018年10月20日(土)放送)

 

内容

10月20日土曜
NHKBSプレミアム 午後10時30分~ 午後11時30分
フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿「天才誕生 精子バンクの衝撃」


優秀な人間だけが暮らす理想の世界を目指して「天才」精子バンクを設立したノーベル賞科学者の悲劇!生殖産業の扉を開いた驚がくの物語!天才は、IQは、遺伝するのか?


科学史の闇に迫る知的エンターテインメント、3週連続特集シリーズの第二夜!今回は、優秀な人間だけが暮らす理想の世界を目指した「天才精子バンク」!遺伝子が物質であると突き止め、操作できることを示してノーベル賞を受賞した天才遺伝学者は、なぜ天才精子バンク設立に至ったのか?生殖産業の扉を開いた驚がくの物語!最新の天才遺伝子研究、さらに人工生命も登場!人類が手にした「神の力=命のデザイン」。是か?非か?


【ナビゲーター】吉川晃司,【出演】大阪大学大学院教授…仲野徹,国立成育医療研究センター研究所 所長…松原洋一

 
 今回のテーマは優秀な人間を生み出す目的の精子バンク。


●遺伝子の発見

 遺伝学者ハーマン・マラー(1890~1967)は、遺伝子が物質であることを発見し、現代の遺伝子分野の基礎を築いた科学者である。

 20世紀初頭、メンデルの遺伝の法則により生物に何らかの遺伝をつかさどる仕組み「遺伝子」があることは解っていたが、それが実際にどういうものなのかは全く不明だった。

 当時、遺伝の研究にはショウジョウバエが使われていた。成長が早く生まれてから10日で親になる、つまり世代交代が早いので、遺伝の研究にはぴったりだったのである。当時の学者は突然変異によって遺伝の仕組みを研究していたが、突然変異はそうそう起こるものではなかった。

 マラーは「ハエは高温だと突然変異が発生しやすい」事から、温度=エネルギーと考え、ハエに高エネルギーのX線を照射することで突然変異を誘発しようとした。しかし照射する量の加減が解らず、ハエは死ぬか不妊になるだけだった。しかしマラーは粘り強く実験し、1926年に弱いX線を4回照射することで、上手く突然変異を起こすことに成功したのである。

 この事実はある重大なことを意味していた。遺伝がエネルギーによって影響できるという事は、つまり「遺伝子」は神秘的な何かではなく、物質であることを示していた。これをきっかけに猛烈な遺伝子探しが始まり、ついに1944年にDNAが発見された。マラーは1946年にノーベル賞を受賞した。



●天才の遺伝子を保存する

 第二次大戦後、核実験が繰り返され、大気中の放射線の値が上昇した。マラーは人間の遺伝子が放射線で影響を受けることを憂慮し、1961年に「優秀な人間の精子を地下深くに凍結保存すべき」と主張した。この意見は賛否両論だったが、1963年に大富豪ロバート・グラハムがマラーに意見を支持する手紙を送ってきた。

 かくしてグラハムの支援でマラーの「優秀な人間の精子を保存する精子バンク」の計画がスタートした。グラハムたちは生物学や法律の専門家などによる顧問団を組織し、実際に精子バンクを作るための準備を始めたが、議論ばかりでなかなか先に進めなかった。

 そうこうしているうちに、1964年、日本とアメリカに最初の精子バンクが作られた。これは不妊治療が目的だったが、グラハムは他の誰かが「天才精子バンク」を作るのではないかと焦った。しかもそんなグラハムの気持ちはお構いなしに、マラーは「ドナーの死後25年は様子を見るべき」と訴えた。ドナーが真の天才かどうか、死んでから時間が経たないと評価できない、というもっともな意見だったが、さっさと計画を進めたいグラハムにはとても受け入れられた話では無かった。しかもその後、マラーは、あまり拙速に話を進めるべきではない、といって計画の中止を提案した。



●天才精子バンク、始まる

 1967年、マラーは76歳で亡くなった。タガの外れたグラハムは本格的に精子バンク事業に乗り出し、ノーベル賞の受賞者たちに手紙を送って精子の提供を求めた。1980年、天才精子バンクの存在がニュースで取り上げられる。グラハムはすでに数人のノーベル賞受賞者から精子を確保していたが、ドナーの一人ショックレーは頭脳は優秀かもしれないが、人種差別を公言する人間で、精子バンクは知能はともかく人格面でどうなんだという批判を浴びた。

 グラハムは事業の方向性を変えることにして、天才の精子だけではなく、「若くてハンサムな男性の精子」も集めて顧客である女性にアピールすることを始めた。優秀な子供を作りたい女性のために、精子を売るようにしはじめたのである。

 1997年、グラハムは90歳で亡くなった。2年後、1999年に天才精子バンクは閉鎖された。19年間で217人の子供が作られたが、ノーベル賞受賞者は一人も誕生しなかった。



●その後の精子バンクビジネス

 現在の精子バンクビジネスは、女性向けにカタログ形式で精子が購入できるようになっている。サイトには、精子毎に、ドナーの人種、容姿(俳優の誰それに似ている)、といった説明が書かれており、女性はその中で気に入った精子を簡単に購入できる。



●天才は何が生み出すのか

 現在、中国は、「天才」の遺伝子を集め、シーケンサーを使って、遺伝子のどの部分が天才に関係するのかを研究している。

 とはいえ天才は遺伝子だけで決まるのか、という問題がある。遺伝の他に「環境」という要因もある。遺伝子さえあれば必ず天才が生まれるという物でもないのではないか。



●新生物の創造

 DNAは四種類の物質、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の組み合わせで出来ている。という事はそれを人間が組み合わせて人工DNAを作ることも可能である。現実に2016年にアメリカで人工DNAによる人工生命体「ミニマル・セル」が作られた。

 これはついに人間が生命の創造という神の領域に踏み込んだことを意味する。しかしこういう技術は生物兵器を作るような事にも使われかねない。


感想

 今回は期待したような「マッドサイエンティストの大暴走話」ではなく、遺伝子関係全般といった内容の回だったため、「闇」「ブラック」要素は無く、実にマイルドな内容でした。まあ「好きなタイプの子供を作るため、精子をお手軽に購入できるという現実が、もうブラックそのものだろ!」というご意見もあるかもしれませんが、今までの優生学とかロボトミーとかのえげつない話に比べれば、随分穏当な内容だったと言えましょう。

 今では精子がネット上で、雑貨を買うノリで手軽に購入できるそうで、現実は想像よりもかなり先に行っていました。ゲストの先生たちが言っていましたが、今はそういう人が少数だから変に思えるものの、精子購入派が多数になれば、これが当たり前になるかもしれないわけで。そういう時代が来るのですかねぇ。

 既に人工DNAによる新生物が現実のものになっていたとは衝撃ですな。パニック系SFの場合、必ず研究所からこの手の生物が漏れ出してしまい、人類は滅亡の危機に陥っちゃうのですが……、大丈夫なんですかね、ホント。
 
 
 

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