感想:小説「サイモン・アークの事件簿I」(エドワード・D・ホック)


 小説「サイモン・アークの事件簿I」(エドワード・D・ホック)の感想です。

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■データ(公式)
http://www.amazon.co.jp/dp/4488201083/

サイモン・アークの事件簿〈1〉 (創元推理文庫) (文庫)
エドワード・D. ホック (著), Edward D. Hoch (原著), 木村 二郎 (翻訳)
文庫: 364ページ
出版社: 東京創元社 (2008/12)
ISBN-10: 4488201083
ISBN-13: 978-4488201081
発売日: 2008/12


73人もの人間が崖から飛びおりた、謎の大量自殺事件を取材に出かけたわたしは、現場の村で不思議な男性と知り合う。悪魔や超常現象を追い求めつづけ、その年齢は二千歳とも噂される彼の名は、サイモン・アーク―。ホックのデビュー短編「死者の村」を巻頭に、世界じゅうで起こる怪奇な事件の数々に、オカルト探偵が快刀乱麻の推理力で挑む10編を収録した、待望の第一短編集。

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■データ(個人的補足)

 「サム・ホーソーン」「怪盗ニック」「レオポルド警部」等の名探偵で知られるホックの、「<オカルト探偵>サイモン・アーク」の作品をまとめた日本独自の中・短編集。

収録作品

1 死者の村(1955)
2 地獄の代理人(1956)
3 魔術師の日(1963)
4 霧の中の埋葬(1973)
5 狼男を撃った男(1979)
6 悪魔撲滅教団(1986)
7 妖精コリヤダ(1989)
8 傷跡同盟(1993)
9 奇跡の教祖(1999)
10キルトを縫わないキルター(2003)


■あらすじ/感想

 主人公サイモン・アークは、外見は70歳前後の老人で、宗教や超自然現象について豊富な知識を持つ神秘的な人物。本人は明確には語りませんが、不老不死らしく、年齢は1500歳とも2000歳とも言われています。このアークと、友人で物語の語り手「わたし」が、様々な事件の謎を解き明かしていくという、中・短編集です。

 帯のコピーには”オカルト探偵アーク”と銘打たれており、実際、デビュー作品はまさにこの名前にピッタリのキャラクターでしたが、50年に渡って活躍したキャラクターのため、途中から普通の名探偵と化しています。その変遷ぶりを感想と共にまとめてみました。

<第1期>

・死者の村(1955)

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 サイモン・アーク第一作目にしてホックの作家デビュー作。「一つの村の住民73人が全員崖から飛び降りて自殺した」という凄惨な事件の意外な真相をアークが解き明かします。事件は論理的な解決をみますが、事件の背景といい、何かしら割り切れない不気味な結末といい、アークが”オカルト探偵”と呼ばれるに相応しい作品です。


<第2期>

・地獄の代理人(1956)
・魔術師の日(1963)

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 推理小説というより「奇談」と呼ぶに相応しい作品群です。アークは神出鬼没かつ裏の世界では何故か名前が知られた人物、の様に描かれており、そのアークが関わった謎めいた事件に「わたし」が巻き込まれる、という内容です。謎解き要素は殆ど無く、ホックの”推理小説”としては期待外れでしたね(なお、奇談としても面白くありませんでした)。


<第3期>

・霧の中の埋葬(1973)
・狼男を撃った男(1979)
・悪魔撲滅教団(1986)
・妖精コリヤダ(1989)
・傷跡同盟(1993)
・奇跡の教祖(1999)
・キルトを縫わないキルター(2003)

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 この頃になると、アークの人物設定は初期作品からかなり変化し、「正体不明の怪人物」という雰囲気は影を潜め、「宗教関係に詳しい知的な老人」というキャラクターになっています。

 物語は、サイモン・アークが素人探偵役として自分が巻き込まれた様々な事件を論理的に解決する、という王道の推理小説になっています。オカルティックな要素が皆無の事件も多く、もうこの頃になると”オカルト探偵”という名前は明らかに似合わなくなっています。その代わりとして「知的パズル」としての要素は強まっており、ホックが生み出した他の探偵達の作品同様、文章の中にさりげなく書かれている記述が事件の鍵となっており、サイモン・アークがそれらを指摘して切れ味良く事件を解決する小気味よさが爽快です。


■評価

 前半の事件は「うーん、なんだこりゃ」的な話が続いて失望しましたが、「狼男を撃った男」以降の作品は他のホック作品同様、謎解きを堪能できました。どうも執筆された時期によりボルテージにかなり違いが有るようですが、いい作品を厳選してもらえれば凄く面白いと思います。第二集も期待です。


(5段階評価の)4点。


★蛇足

 364ページで980円+税ってどう考えても高すぎ! 最初ハードカバーかと思った。