【推理小説】感想:小説「あなたも名探偵」(市川憂人、米澤穂信、東川篤哉、麻耶雄嵩、法月綸太郎、白井智之/2021年)【ネタバレ】

あなたも名探偵

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あなたも名探偵 単行本 2021/2/22
市川憂人 (著), 米澤穂信 (著), 東川篤哉 (著), 麻耶雄嵩 (著), 法月綸太郎 (著), 白井智之 (著)
出版社:東京創元社 (2021/2/22)
発売日:2021/2/22
単行本:353ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 

六人の推理作家からの挑戦状 犯人は誰か
謎を解<愉しさに満ちた犯人当てアンソロジー


謎を愛し論理を貴ぶ読者の方々は、ここまでの文章を読んで事件の真相に辿り着いたでしょうか。解決に導くための手掛かりは、紙上の名探偵たち同様、皆様にも既に手渡されています。冷静な観察と論理的思考を駆使すれば犯人を、そして小説の向こう側にいる作者も出し抜くことができるかもしれません。推理する愉悦に、どうぞ存分に浸ってください。六人の推理作家から投げられる手袋はひとつ――犯人は誰か? 豪華作家陣が贈る犯人当てアンソロジー

 

概要

 犯人当て推理小説アンソロジー6作品。雑誌「ミステリーズ!」に2018~2020年に掲載された作品。


各作品のあらすじ・感想【完全ネタバレ】

●1. 市川憂人「赤鉛筆は要らない」

 1970年代前半。冬。没落した旧家。稼ぎも無いのに家族に傲慢に接する父親。そんな父親にひたすら従うだけの母親。資金援助をかさに傍若無人にふるまう叔父叔母。陰鬱な環境で父親が何者かに殺された。犯人は誰か?

※真相
 犯人は被害者の妻・語り手(一人娘)の母親。夫の暴力に耐えかねて発作的に殺害。その後娘(語り手)が証拠を隠滅した。


<感想>
 評価:×。全然ダメ。とにかく文体が鼻についてもうまともに読む気が失せましたが、さらに「50年前の昭和は地獄だった!!」とばかり、登場人物が揃いも揃ってムカつくクソみたいなキャラばかりで、もう目にすることさえ苦痛な一作でした。もう誰が殺されようが誰が犯人だろうがどうでもよかった一作。

 語り手が犯人(の一人)で、物語の中に重要なことを書いていない、というのは、某ミステリーの女王の某有名作品そのままですが、こういうのはいくらでもあるのでしょうかね?(業界の事よく知らない)



●2. 米澤穂信「伯林あげぱんの謎」

 高校の新聞部員四人が、一つだけ外れ(マスタードが入っている)の四個の揚げパンを食べたが、全員が自分は外れでは無かったと言い出した。パン屋が外れを入れ忘れたのか? それとも部員の誰かがウソをついているのか? 真相はいかに?

※真相
 四個の中に外れが入っていなかった。実は五個目のパンがあり、それが外れだったが、四人が食べる前に間違って部員以外の人間が持って行ってしまい、新聞部員はそれに気が付いていなかった。


<感想>
 評価:△。状況証拠を積み重ねていくと真相にたどり着けなくもないので、まあ悪くはない話でした。

 ただし展開がひどくまどろっこしく、読んでいてイライラさせられたのがマイナスポイントでした……、それで「米澤穂信か……、そういえばこの人の小説をアニメ化した「小市民シリーズ」というやつも同じダラダラした展開でくっそつまんなかったたなぁ……」とか思いつつ調べたら、なんとこの作品の主人公・小鳩常悟朗とはその「小市民」シリーズの主役でした。なんと知らない間にまたしても「小市民」シリーズを体験してしまったのでした…… どうりでかったるいわけですわ。アニメがダメだったのではなく、原作から合わなかったのか。

 ただ冒頭でいきなりオチをばらしている(小佐内ゆきが泣いている=実は外れパンを食って泣いていた)のはちょっと面白かったと言っておきましょう。



●3. 東川篤哉「アリバイのある容疑者たち」

 町一番の名探偵・手代木礼次郎の元に依頼が持ち込まれた。被害者が帰宅した途端、何者かに殴られて失神し、気が付いたら金庫の中から家宝の古茶碗が盗まれていたという。金庫の番号を知っているのは身内だけなので、警察に知らせずに穏便に済ませたいというのだが、容疑者四人は全員犯行時刻にアリバイが有った。果たして事件の真相は?

※真相
 犯人はいとこの玲子。被害者は帰宅時に電車の中で居眠りをしており、19:40頃帰宅したと思っていてその時間帯には全員アリバイがあったが、実際の帰宅は23:40頃で、その時間帯にアリバイが無いのは玲子だけ。


<感想>
 評価:○。面白かった!! ユーモラスな作風で、探偵と依頼人や容疑者たちの会話がコミカルで、フフっと笑いながらすいすい読めました。また探偵が実はボンクラで犯人名は当てたもののその根拠がまるで見当違いで、事務所に設置されていたア○クサ、というか、覚醒したAI「荒草アザミ」が事件の真相を完璧に言い当てる、というオチまで笑わせてもらいました。



●4. 麻耶雄嵩「紅葉の錦」

 木更津悠也と香月実朝が商店街で引き当てた福引で温泉地に旅行に出かけたが、がけ下に転落している死体を発見してしまった。明らかに殺人事件である。転落している被害者は誰か? そして犯人は?

※真相
 被害者は宿泊客の一人・奈多。犯人は同じ部屋の香椎。


<感想>
 評価:△。論理パズル。物語として読んでいてクソつまらなかったため、真面目に謎に挑むことすらしませんでした(苦笑) 『被害者がここまで来たという事は高所恐怖症ではないから……』云々とかの事実を積み上げてまず被害者を特定、さらにそこから犯人を特定、という流れで、多分筋道だってはいるのでしょうが……



●5. 法月綸太郎心理的瑕疵あり」

 法月綸太郎は知人のライター飯田から、ライター仲間の松岡が首吊り自殺したという事件の取材に付き合わされる。松岡が住んでいたのは、住人が次々と死ぬといういわくつきの部屋だった。しかし松岡の死は自殺に見せかけた他殺だと判明し、しかも松岡は何者かを強請っていたらしいことも明らかになった。果たして犯人は誰か? そして犯行現場のエアコンからフィルターを持ち去った理由は?

※真相
 犯人は宮本(犯行現場のアパートに前に住んでいた住人)。借金から逃れるため身代わりを立てて自殺を偽装し、死んだふりをしていたが、松岡に嗅ぎつけられて強請られたため殺した。犯行現場周辺の地理に明るいのは、この宮本だけ。エアコンのフィルターからDNAとか見つからないか心配して持ち去った。


<感想>
 評価:△。死んだはずの人間が犯人だという意外さは良かったですが、エアコンのフィルターを持ち去った理由がそれか? とバカバカしくなったですよ。まあクイズとしては悪くないとは思います。



●6. 白井智之「尻の青い死体」

 大学映画研究会のOBが後輩を巻き込んで自主制作ホラー映画の撮影を始めるが、ヒロイン役の女性が死体で見つかった。撮影中にこの女優が部の先輩を妊娠詐欺で自殺に追い込んだことが明らかになり、部員たちの誰もに殺害の動機が有った。果たして犯人は?

※真相
 犯人は重岡。同機は先輩を自殺に追い込んだことへの恨み。


<感想>
 評価:△。これもコツコツ積み上げ型。ゴミ箱にコンドームが入っていたから、被害者の部屋を知っているはずがないから~、といった感じで条件を絞り込んでいき犯人を特定するので、クイズとしてはまともな方でした。ただこれもあんまし小説としては面白くなかったなぁ。


総合感想

 評価:△(こんなにつまらない犯人当て本初めて)

 はぁぁぁ(溜息)。今までにも何冊か犯人当てアンソロジー本を読んできましたが、こんなに外れの本は初めてですわ。東川篤哉「アリバイのある容疑者たち」が唯一のアタリで、他はどれもこれもイマイチ。謎解きに挑むどころか、問題編を読み進めるのも苦痛の作品が多くてたまりませんでした。これはないわぁ(涙)