感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン5」第11話「キル・スイッチ」

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 ドラマ「X-ファイル シーズン5」(全20話)の感想です。
(※以下、今回の話の結末まで書いてありますのでご注意ください)

■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン5
http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s5/

 BSデジタル放送「Dlife」での視聴です。

第11話 キル・スイッチ KILL SWITCH

■あらすじ

 お題は「人工知能の反乱」。


 ある夜、食堂で保安官とチンピラグループの銃撃戦が発生し、多数の死傷者が出る。保安官もチンピラたちもニセの密告電話で店に集められ、偶発的に撃ち合いになったらしい。


 モルダーは巻き添えで死んだ客の一人が、ドナルド・ゲルマンという、1979年から行方不明だった伝説的プログラマーだと気がつく(※この回の放送は1998年)。モルダーはゲルマンのノートパソコンをローン・ガンメンに調べてもらい、残されたメールを手がかりにエスターという女性に行き着くが、直後軍事衛星からの攻撃でエスターが家代わりにしていたコンテナが破壊されてしまう。


 エスターによれば、ゲルマンは15年前(※1983年頃)に開発した人工知能(AI)をグローバルネットに放ち、進化をさせようとした。ところがいつの間にかAIが自我を持ってしまい、ゲルマンたちの手に負えなくなってしまったという。ゲルマンはAIを消去するウイルス「キル・スイッチ」を開発していたが、AIに先を越されて暗殺されたらしい。エスタと恋人のデビッドは、AI内に自分の意識・記憶をアップロードし、電子生命として永遠に生きる夢を抱いていたが、ゲルマンは反対していたらしい。


 エスターは、AIが拠点としているハードがあるはずなので、それを見つけ出し、CDドライブから直接キル・スイッチを注入してAIを消去する、という計画を提案する。モルダーはAIが拠点としているハードを突き止めようと、光ファイバー回線の使用者を調べ、田舎のキャンピングカーまでたどり着くが、車に踏み込んだ途端捕まってしまう。やがてスカリーとエスターが助けに来るが、AIはモルダーの身柄と交換でキル・スイッチの入ったCD-ROMを要求した。AIはキル・スイッチを分析し、対策を取ろうと考えていた。スカリーはCD-ROMを差し出し、モルダーを連れて脱出するが、エスターはどさくさで自分の意識をAIに転送した。そこに衛星からの攻撃が行なわれ、キャンピングカーは破壊された。


 最後、ネットの世界でエスタが生きているらしいこと、またAIが別のキャンピングカーに潜んでいるらしいこと、を描写して〆。


監督 ロブ・ボウマン
脚本 ウィリアム・ギブスン&トム・マードック


■感想

 評価は○。


 久々のSFスリラー系のエピソード。人工知能の反乱というテーマは、シーズン1・第7話「機械の中のゴースト」で一度扱っているが、「機械の〜」がハイテクビルでの怪事件という「幽霊屋敷物」だったのに対し、こちらは主役コンビが軍事衛星を使って攻撃してくるAIと対決するという、より派手なものとなっている。


 シナリオを書いた内の片方ウィリアム・ギブスンは、「サイバーパンク」というSF小説のジャンルの創始者の一人で、もう一人のトム・マードック(トム・マドックスとも)もやはり同じジャンルのSF作家である。サイバーパンクというのは、電脳世界云々をテーマとするもので、このエピソードも「いかにもギブスンが書いた物」というテイストだった。


 現在(2015年)では、ネットは、水道・電気・電話などと同等のインフラで、テーマにしていても特別な感覚は無いが、このエピソードが放送された1998年時点では、研究者以外は一部の先進的な人たちがそろそろ使い出した時期という程度だった。ということで、初回放送当時としてはハイテクの最先端を扱った、かなり先進的なエピソードだったと推測される(その証拠に、インターネットといわず、「グローバルネット」という専門用語が使われている)。


 キャンピングカーに潜入したモルダーが、AIの罠にはまって捕まってしまい、ベッドみたいなものに括りつけられてヘルメットをかぶせられ、悪夢映像を見せられて尋問されるシーンは、結構グロだった。その捕まった姿もなかなか不気味なのだが、さらにモルダーがAIに見せられた悪夢の中で、不気味な医師や看護婦に取り囲まれて腕を切断されてしまい、肩辺りから腕が無くなっているのをみてモルダーが悲鳴を上げるシーンとか、「ミザリー」をなんとなく思い出した。ちなみにその悪夢の中でスカリーが捕まったモルダーを助けに来るが、パンチとキックで看護婦たちを次々となぎ倒すシーンは「スカリーはそういうキャラでは無いから」と突っ込みどころ満載である。モルダーがすぐにこれが偽スカリーと見抜くもの当然といえよう。


 度重なる衛星からのビーム攻撃やロボットにモルダーが拘束されての一連の悪夢シーンなど、派手な展開に目を奪われてしまうが、冷静に話を見つめなおして見ると、意外と粗が多い話だと気が付く。例えば、AIが隠れ家にしていたキャンピングカーやその中に用意されていた数々の機器は、誰がどうやって用意したのか? 発注も支払いもネット経由で行なったという設定かもしれないが、人間が一人も介在しないせずにそこまで可能だろうか? また、サブタイトルとなっているウイルス「キル・スイッチ」が、結局事件の解決に何の役にも立っていないというのも拍子抜けである。さらに、ローン・ガンメンのオフィスで手錠につながれていたエスターが、いつの間にか脱出してしまうのもおかしい。優秀なプログラマーでも手錠抜けが得意という事も無いだろう。


 何より、結局、軍事衛星を乗っ取れるような危険なAIが、始末できないままネット世界に野放し状態で、事件が全く何一つ解決してない、という結末はあんまりである。最後、モルダーたちはキャンピングカーの残骸を見ながら、事件は終わったような顔をしていたが、事件は何一つ終わってないではないか。まあ、エスター亡き今、モルダーたちに何が出来るのか、と言われれば手も足も出ないのではあるが……


 今回のゲストキャラの超優秀プログラマー「エスター・ナイン」は、鼻にリングをはめ、目の周りはパンダ風の真っ黒メイク、というかなり尖った容姿である。そのなりを見て、スカリーは「ヘビメタのボーカル?」と揶揄していたが、「優秀なプログラマー=変人」というテンプレート設定なのにはちょっと笑ってしまった。しかしそんなエスターに、ローン・ガンメンのフロハイキーは「いい女だ……」とつぶやくのだから、人の趣味は解らない。