感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン5」第12話「吸血」

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 ドラマ「X-ファイル シーズン5」(全20話)の感想です。
(※以下、今回の話の結末まで書いてありますのでご注意ください)

■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン5
http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s5/

 BSデジタル放送「Dlife」での視聴です。

第12話 吸血 BAD BLOOD

■あらすじ


 お題は「吸血鬼」。


 冒頭、モルダーが夜の林の中で若い男の胸に杭を突き立てて殺してしまう。そこにスカリーが追いつき、男の口を調べると巨大な牙が見つかるが、それはただの入れ歯だった。翌日、FBI本部に戻った二人は、スキナーに報告を迫られていた。モルダーは殺した相手は吸血鬼だったと主張するが、もちろんスカリーは全く取り合わない。二人は今度の事件をどう報告するか話し合い、モルダーは互いに事件の状況を振り返る事を提案する。


 スカリーの回想。事件当日の朝。モルダーはスカリーに、テキサスの田舎町で牛が6頭も血を抜かれて殺された挙句、ついに人間の犠牲者が出た事を教え、二人はすぐさま現地に飛んだ。スカリーが犠牲者を解剖している間に、第二の犠牲者が発生したが、二人とも大量の睡眠薬を盛られていた。スカリーは二人とも死ぬ前にピザを食べていることに気がつき、ピザ屋のロニーが犯人だと睨む。スカリーはモルダーがビザを食べていた事を思い出し、急いでモーテルに戻ると、モルダーも薬入りのピザを盛られて、ロニーに襲われる寸前だった。スカリーはロニーを撃つものの見失い、やっと見つけたときにはモルダーが刺し殺した後だった。


 モルダーの回想。モルダーはスカリーにテキサスでの吸血鬼事件の事を教え、不満たらたらのスカリーをなだめすかして現地へと向かった。そして墓場を見張ったりするうちに第二の死体を発見し、スカリーに解剖を頼む。ところがその後に食べたピザに一服盛られており、フラフラになったところをロニーに襲われかける。しかしスカリーの到着で助かり、即席の杭を作ってロニーを追い詰め、心臓を刺したという訳だった。


 現在。二人はとりあえず、モルダーは薬を盛られて普通ではなかった、という方向で行くことに決め、スキナーのオフィスに向かうが、スキナーからは死んだはずのロニーが生き返って逃げ出したと言われ、慌ててテキサスに取って返す。実は町の住人はロニーも含めて全員が吸血鬼だった。ロニーは映画などのドラキュラ像に感化されて、わざわざ吸血鬼風の牙をつけていたのだった。二人は眠らされ、気がつくと街に停車していたキャンピングカーは全て消えうせていた。最後、モルダーたちが事の顛末をスキナーに報告し、スキナーが呆れ顔になったところで〆。



監督 クリフ・ボウル
脚本 ヴィンス・ギリガン


■感想


 評価は○。


 シリーズには珍しいコミカル話、と言うより、X-ファイル史上屈指といっても良いバカ話で、もう最初から最後まで笑いっぱなしだった。今までにも、通常とはノリの違うエピソードとして、シーズン2・第20話「サーカス」、シーズン3・第12話「害虫」、同・第20話「執筆」といった話が存在したが、そららはあくまで「ヘンな話」というレベルに留まっていたが、今回は徹底的に笑わせに来ているという時点で、今までとは別格だった。


 序盤の、モルダーが報告書の書き損じをゴミ箱に投げ込むものの上手く入らず、ゴミ箱に近づくや否や猛烈な勢いでゴミ箱を踏み潰すシーンからいきなり爆笑もので、BGMも普段とは全く違うギャグ調で、この辺りからいつもとは全く違う(バカ系の)話だと予感させてくれた。


 さらに、二人の回想シーンが傑作で、先行のスカリー視点では、モルダーは恐ろしいまでの軽薄男で、朝に顔を合わせるや否や「ウォゥ! 吸血鬼事件が起きたんだ! 早速テキサスに行くぞスカリー!!」と一人で浮かれるアホ扱いされている。普段スカリーがモルダーをどういう視線で見ているのか、実に良くわかる描写である。また現地到着以降の展開でも、モルダーは面倒な解剖はスカリーに押し付けて、自分は好き勝手に行動するかなりいい加減な男として描かれている。ついでにいうと、スカリー自身も解剖シーンでは内臓を実に雑に扱い、死体の胃の内容物がピサだったのを見て「あぁぁぁ、ピザ食べたい」とつぶやく結構変な人という事になっていた。もう、いつものキャラ設定が完全崩壊である。


 続いてのモルダー視点の回想では、スカリーはモルダーのすることにいちいち文句をつけたり小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべたりする、口と性格が恐ろしく悪い人間の様な描写になっていて、これも笑いを誘う。さらにモルダーが駐車場でグルグル回転している車を止めようとして、タイヤを狙って銃を撃ちまくっても一発も当たらず、さらに車に飛びつくもののふり飛ばされて泥だらけになる、など、普段では考えられないようなマヌケなシーンが山盛りでもう爆笑モノだった。


 終盤も、モルダーがロニーの入っている棺に馬乗りになって、ロニーが下から蓋を開けようと暴れている間におなじみ被告人の権利を必死で読み上げる場面は実に馬鹿馬鹿しくて愉快だった。とどめで、モルダーが吸血鬼の大群に囲まれた際、フランスパン二本を組み合わせて十字架の様な形にして振りかざすものの、当然全く効果が無く、大群に押しつぶされてしまう、という場面など、モルダーのバカ扱いもここに極まれリ、という名場面だった。


 脚本のヴィンス・ギリガンは、今までろくでもない話しか書かない外れライター扱いだったが、このエピソードの出来で見直させてもらった。やれば出来る人物だったようである。