【※以下ネタバレ】
人気ミステリー作家の綾辻行人・有栖川有栖の合作で贈る、初の“RPG推理ドラマ”が登場! 大雨の中、山の上のペンションで人気アイドルが撲殺された。犯人は……?
あらすじ
『問題編』
人気アイドル・葉村ナオの写真集用の写真の撮影のため、撮影スタッフは高原のペンションに宿泊することになった。しかし大雨のため停電してしまった上、町に通じる道路が土砂崩れで塞がってしまい、ペンションは陸の孤島となってしまう。
そして夜、ナオがコテージで撲殺されているのが発見された。警察に連絡したものの、道路が塞がっているためやって来る目処は立たず、またペンションから逃げることもできない。翌朝、ペンションの従業員の木島が刺殺死体で発見される。
カメラマン助手の笛木は唯一アリバイがなく、無実を訴えるが犯人として吊るし上げられる。追い詰められた笛木は「困ったときに一度だけ使える」という笛を吹き鳴らした。
『解決編』
笛を吹いた途端、一堂の前に謎の存在「安楽椅子探偵」が現われ、笛木の無実を証明するため、事件の説明を始める。
●推理1
ナオの部屋からマジックに使われたカードが消えていた理由は、犯人が持ち去ったから。では何故犯人はそうしたのか? カードにはマジックの際にナオがイニシャル「nh」を記入していたが、犯人はそれを自分を指し示すダイイングメッセージだと勘違いしたから。つまりイニシャルが「nh」の人が容疑者。またひっくり返すと「yu」にも見えるのでイニシャル「yu」の人も容疑者。
●推理2
消えたカードは夕食後のマジックの際にナオがイニシャルを記入したもの。つまりその場面を見ていれば、カードの文字がダイイングメッセージだと思うはずが無い。つまり犯人はカードマジックの際にその場に居なかった人。
●推理3
木島殺しは、犯人は殺人の後、アリバイ作りのためあるトリックを用いた。テーブルの上でギリギリ落ちそうな位置にお盆をおいてグラスを乗せ、さらに木島の携帯電話を重しに置いた。そしてその電話にダイヤルすることでバイブレーションさせ、その振動でお盆を転落させ、殺人がその時間に起こったように見せかけた。つまり犯人はその時間に電話を使えた人物。
●真犯人は……
一見三つの条件を満たす人物はいない様に思えるが、マジックのビデオ撮影の映像を良く見ると、最後のカードマジックの時と、それ以前のマジックの際で、アングルが違う。その理由は「カードマジックの際、より背の高い人が撮影したから」。つまり最初はナオのマネージャー城之内歩が撮影していたが、カードマジックのときだけ城之内より背の高い人が撮影した事になる。撮影可能だった人物で、この条件に当てはまるのは木島だけ。つまり城之内はカードマジックを見ていなかった。
またカードはハートのエース。見方によっては「A yu」=アユ、と読める。城之内の下の名前は歩(あゆむ)である。
さらに木島殺しのトリックの際、ズボンのポケットに手を突っ込んでいる姿が映っており、携帯電話を操作可能。
つまり、犯人は城之内歩。
●エピローグ
感想
○謎解きとしての評価
朝日放送(ABC)で放送された、伝説的視聴者参加型推理ドラマ「安楽椅子探偵」シリーズの第ニ弾(放映日 出題編 2000年5月12日、解決編 5月19日)。まず最初に約90分の「問題編」を放送し、視聴者に犯人名とそこに到る道筋を応募してもらい、一週間後に約60分の「解答編」を放送、という形式は、ミステリー好きには全くたまらないものがある。
ストーリーは、大嵐で陸の孤島となったペンションで殺人事件が発生し、やむなく取り残されたメンバーが素人探偵となって犯人を推理する、という、『クローズドサークル』形式の王道的展開である。もちろんネタ切れとかいうものではなく、ミステリー愛好者なら散々見てきた設定のなかであえて謎解きをしてもらう、という原作者のサービス精神が感じられた。
前作「安楽椅子探偵登場」(以下「登場」)と同様、謎解きは壮絶に難しく、並の頭脳ではとても真相は解明は出来ないだろうが、それでも「登場」と比較すると難易度(=謎解きの密度)は落ちているように感じた。「登場」は、放映された内容を目を皿の様にしてあらゆる場面を舐めるように視聴して全ての手がかりを拾い上げ、さらにそうやって得た情報を壮絶な論理のアクロバットで組み合わせて、その末にようやく犯人にたどり着けた。ところが、本作はそこまで過酷なことは要求はしておらず、「ダイイングメッセージ」「携帯電話トリック」の二点に気がつけば犯人が指摘可能なため、なんとなく易しくなってしまったような気がしてしまった(それでも別に簡単という訳ではなかったが……)。
それでも、犯人を特定する決定打となった証拠が「ビデオに写っている物」ではなく「ビデオを写したレイアウトの差異」という点には意表を付かれたし、心底唸らされた。
○お笑いとしての評価
さて前作「登場」では、本編がシリアス一辺倒だったのに対して、解答編では一転登場人物たちがコミカルな演技をしていて妙に楽しかったが、今回はもっと悪乗りしており心底笑えた。
例えば
・初めて安楽椅子探偵を見た登場人物たちが、伝説の殺人鬼の幽霊だと思って野原の彼方に一目散に逃げ出す
・安楽椅子探偵が「前回は座っていたのが揺り椅子だと突っ込まれたので、今回は本当に安楽椅子にしました」と言い訳する
・被害者が頭を殴られて殺されるシーンで、被害者がスローモーション演技で変顔をしてみせる
・安楽椅子探偵に容疑者として指名された人物たちが、「アメリカ横断ウルトラクイズ」で勝ち抜けた回答者の様に首からメダルの様なものをかけられ、出迎えた女性にキスされて離れた場所に用意された椅子に座ってニコニコしている
などふざけたシーンが山の様に盛り込まれていて、謎解き以外の脱線ぶりがたまらなかった。人が二人も死んでいるのにこのふざけ方と言ったらもう(笑)
○総括
一作目「登場」のインパクトが凄すぎたため、今回はやや落ちた感じは否めなかったが、それでも謎解きドラマとしては超一級の出来栄えだったのは間違いなく、満足できる一作であった。