感想:視聴者参加型推理ドラマ「綾辻行人・有栖川有栖からの挑戦状6 安楽椅子探偵 ON AIR」(2006年)

安楽椅子探偵 ON AIR [DVD]

【※以下ネタバレ】



日本ミステリー界を代表する推理小説家・綾辻行人有栖川有栖の共作シリーズ第6弾。時代の寵児となった霊能力者・化野ルナはバラエティ番組「金曜ON AIR」に出演し、失踪した女子大生の遺体を霊視。その後、第二の殺人事件が起こり…。



ダ・ヴィンチpresents!
ミステリー界の巨匠、綾辻行人有栖川有栖両氏が贈る大人気シリーズ「安楽椅子探偵」第6弾は、2年半ぶりの2人からの挑戦状だ!!

★日本ミステリー界の巨匠、綾辻行人有栖川有栖両氏原作の「安楽椅子探偵シリーズ」第6弾DVDリリース!!
2006年に大阪朝日放送ほかで放映された本作が、2年半ぶりにファン待望のDVD化!!

★今作も難易度の高さは折り紙付き!正解率は1%以下!ミステリーファンとしては挑まずにはいられない!!
出題編放送後、解決編の放送の間で推理に取り組む参加型ドラマ形式の「安楽椅子探偵」シリーズ。
放送時の応募総数は19000通を越えたにも関わらず、プロセスまで正解したのは58通という超難問!


【ストーリー概要】
迷宮入りだった「超不可能密室瞬間バラバラ殺人事件」を霊能力で推理、解決した霊能力者・化野ルナ。時代の寵児となった彼女は、旧知である古都テレビプロデューサー・高瀬川修の依頼で、バラエティ番組「金曜ON AIR」に出演することになる。その内容は、番組サブ司会者・桂ともえの姪である女子大生・三条みやび失踪を霊視によって解明するというもの。生放送でのルナの霊視どおり、みやびは遺体となって発見される。一層ルナの霊能力に注目が集まり、古都警察の刑事・河原町与一も捜査協力を依頼するが、その矢先、第二の殺人事件がおこる。その被害者は化野ルナ本人であった。ルナの訃報を受け、「金曜ON AIR」は彼女の追悼番組を放送しようとするのだが・・・。


安楽椅子探偵とは?】
過去6回放送され、大反響を巻き起こした本格的ミステリードラマが 「安楽椅子探偵シリーズ」。原作は日本のミステリー界を代表する推理小説家の綾辻行人有栖川有栖の二大巨匠による共作。第1夜に「出題編」と題して、重要な証拠や謎を解く全てのヒントが隠されたドラマを放送。次週の「解決編」放送前の〆切までに「真犯人の名前」「どうしてその結論にいたったか推理のプロセス」をインターネットかハガキで募集する。「解決編」では番組オリジナルの探偵・安楽椅子探偵が登場。ドラマの時間や空間を自由に操り、事件の謎を次々と論理的に解いていく。最後に原作者による厳正な審査の結果、最優秀回答者には懸賞金が贈呈される。今作も当然、台本はスタッフにしか渡されておらず、ストーリーは完全極秘!!


【スタッフ】
◆原作:綾辻行人 有栖川有栖
◆脚本:戸田山雅司
ストーリーテラー:鳥越俊太郎

あらすじ

『出題編』(放映日:2006年3月3日。97分)

 自称霊能力者・化野(あだしの)ルナは、迷宮入りになった怪事件を霊視で解決しようとするが、当然不可能だった。切羽詰ったルナは「困ったときに吹くと一度だけ助けてくれる」という笛を吹く……

 その後。ルナは霊視で難事件を解決した本物の霊能力者として世界中に名前が知れ渡っていた。ある日、ルナは旧知のテレビプロデューサーから、テレビ番組「金曜ON AIR」で、失踪した女子大生・三条みやびの行方を霊視するように依頼され、口からでまかせで適当な手がかりを「霊視」した。

 ところがルナが適当にしゃべったことが何故か的中し、トランクに詰められた三条みやびの死体が発見される。番組スタッフはルナに犯人像の霊視を依頼するが、もちろんそんなことが出来るはずもなく、ルナは困り果てる。ルナはプロデューサーに、かつての迷宮入り事件の解決は、笛を吹いた後に現われた謎の男が全て推理したもので、それなのに何故か自分が解決した事になっていたと打ち明けるが、プロデューサーは取り合わない。

 やがて、ルナが自宅で殺害され、彼女が霊視内容を記したノートのページが持ち去られていた。警察は捜査を続けるうち、三条みやびがかつて非合法デートクラブの会員で、その関係で今は「金曜ON AIR」の司会者・西大路隼人の愛人になっていたと突き止める。西大路隼人がみやびと密会していたマンションには、みやびの服や荷物が残されていた。

 「金曜ON AIR」のディレクターは、警察がスタジオに乗り込んできて西大路隼人を重要参考人として捕まえようとする場面を、生番組として放送し始めた。追い詰められた西大路隼人は、スタジオに置いてあったルナの笛を手に取り吹き鳴らした。




『解決編』(放映日:2006年3月10日。74分)

 笛を吹いた途端、一堂の前に謎の存在「安楽椅子探偵」が現われ、「純粋推理空間」で事件の説明を始める。


●推理1

 化野ルナの「霊能力」はインチキである。まずルナ自身がプロデューサーにそう白状している。また、三条みやびの死体が発見された場所の映像を見ると、死体を発見する手がかりとなった「Z」という文字は前日の生中継の時点では写っていない。つまり、ルナが霊能力で死体の場所を言い当てたのでは無く、犯人がルナの「霊視」を知り、わざわざそれに合致するように「Z」の字をペンキで書いた上で、近くに死体を捨てたのである。何故そうしたのかは一旦置いておく。


●推理2

 ルナ殺害現場には、三条みやびの携帯電話が落ちていた。それはつまり、ルナ殺しはみやび殺しの犯人と同一人物だと示すため、犯人がわざわざおいていったのである。何故そんなことをしたのか? それも一旦置いておく。


●推理3

 犯人はルナの自宅から三条みやび事件の霊視ノートを選び出し、文字の書かれたページを持ち去っている。しかし書かれていたのは判読不能の「ルナ文字」だから、犯人は表紙のマークでそれがみやび事件のノートだと判別した事になる。つまり、犯人の条件の一つ目は「みやび事件のノートの表紙のマークを知っている人物」である。普段はノートにはカバーがかけられているが、みやび事件のノートはテレビ局でコピーされていたので、そのコピー現場に居た人物およびコピーを見た人物が該当する。


●推理4

 ルナが殺される前、自宅に誰かが訪ねてきている。その人物が犯人なのは間違い無いが、ルナはインターホンで「誰?」と尋ねている。ルナは一度声を聞いた人間は忘れないという特技が有ったので、訪問者はルナが一度も声を聞いたことが無い人物である。これが犯人の条件そのニとなる。


●推理5

 「ノートのマークを知っている」&「ルナが声を知らない」という人物に該当するのは、チーフADの深草久則しかいない。ところが深草にはルナが殺された時間にアリバイが有り、犯人ではない。以上、テロップで名前が出た人物で犯人の条件に該当する人物はいない……


●推理6

 ところが「出題編」の中に出た人物の中で、ニつの条件を満たす人物が一人だけ存在する。「金曜ON AIR」の中で流された再現ドラマの中で、みやび役を演じていた名もない女優である。「彼女」は、ロケ現場で太秦と一緒にルナのノートのコピーを見ていたし、また再現ドラマの中でも一言も台詞が無いので、ルナは声を聞いたことが無い。またルナが殺された日のアリバイも無い。

 みやび殺しについては、犯行日1/14の夜に仲間の劇団員と一緒に飲んでいたからアリバイが有るのでは? と考えるが、それが落とし穴。みやびが1/14に殺されたというのはルナのインチキ霊視で言及されたに過ぎず、それが正しいという証拠は何もない。死亡推定日はそれ以降の日も含むので、1/14夜のアリバイなど意味は無い。

 おそらくみやびは1/14夜、自分でトランクに荷物をつめて、西大路隼人との密会用マンションに出かけた。そして、1/15朝に西大路の愛人だと思われる犯人の「彼女」と鉢合わせし、殺された。「彼女」はみやびの死体をトランクにつめどこかに隠した。彼女の属する劇団は1/15から2/5まで旅公演だったので「彼女」は死体を隠したままにするしかなかった。

 ところが、ルナのインチキ霊視は「彼女」に有利な状況をもたらした。犯人像も殺害現場も殺害日も全てが外れていたので、警察がこのデタラメ霊視を信じるなら「彼女」にはまるで疑いがかからないのである。そこで「彼女」はルナの霊視が当たっていると思わせるため、わざわざルナの霊視通りの場所に「Z」の字を書き、その近くにみやびの死体を運んだ。警察はますますルナの霊視を信用し、結果として真犯人の「彼女」はますます疑われなくなった。

 「彼女」がルナを殺したのは、警察に「ルナの霊視は当たっていて、正体がばれることを恐れた犯人が殺した」と思わせるためだった。そう信じさせれば、犯人は霊視で指摘された「男で、1/14の夜にアリバイの無い人物」と誘導でき、自分は安全である。逆に、今後ルナが「霊視」に失敗して、最初の犯人像も疑われるようになったら、自分に捜査の手が伸びるかもしれない。だからこそ「彼女」はルナを殺したのである。


●推理7

 ところで「彼女」の名前は番組中にテロップで表示されていない。それでは視聴者が犯人名を指摘できないではないか? ところが犯人の名前は明確に解るのである。劇中でディレクターが読んでいた資料に、再現ドラマのキャスト名が書かれており、そこには「三条みやび役 北山かおり」と読み取れる。つまり犯人の「彼女」の名前は「北山かおり」である!


●真犯人は……

 劇団員「北山かおり」。


●エピローグ

 事件は生放送中に西大路隼人が解決したことになり、隼人は共演者やスタッフから絶賛される。そして安楽椅子探偵も消え去さった。視聴者の一人が番組の録画を再生しようとすると、何も写っていなかった。


感想

 朝日放送(ABC)制作の、伝説的視聴者参加型推理ドラマ「安楽椅子探偵」シリーズの第六弾。まず最初に「出題編」を放送し、視聴者に犯人名とそこに到る道筋を推理して応募してもらい、数日後に「解決編」を放送、という形式で放送されたドラマ。


 こういう「読者/視聴者への挑戦」という形式は大好きなのだが、解決編を見たときには、あまりのどんでん返しに、もうひっくり返った。これは常識的な人間ならまず正解にたどり着くことは不可能だろう。「犯人は出題編の中に登場した誰か」という条件をきちんと満たしており、それでいて普通の人は無意識に容疑者の対象から外す人物である。ボーナス映像で原作者二人が語っている通り、まさに「映像でしか表現できない謎解き」である。これに正解できた人間が日本に50数名いるという事実が信じられない。どういう頭をしているのだろうか……

 1作目「安楽椅子探偵登場」でも、巧みな映像表現による叙述トリックに痺れたが、本作はあの衝撃の再来だった。これがボーナス映像で綾辻氏がよく口にしている「飛び道具」という物なのかもしれない。シリーズの他の作品では、推理の論理展開を見せられても「ああ、そうか、そういう考えで解くのか」と納得する程度だったが、この作品に限っては「こんな作劇の手法が有ったのか!?」と自分の心の中の常識を叩き壊されて、見終わった後もしばらく呆然としてしまった。これは間違いなく、シリーズ6作品の中で最高傑作だと思う。


※「安楽椅子探偵」シリーズの他作品のあらすじ・感想は、以下のページでどうぞ

perry-r.hatenablog.com

●放送日
出題編 2006年3月3日 (97分)
解決編 2006年3月10日 (74分)


●スタッフ
原作 綾辻行人 有栖川有栖
脚本 戸田山雅司


●キャスト
安楽椅子探偵 草野徹
化野(あだしの)ルナ(ハイパー霊能力者) 深浦加奈子
河原町与一(刑事) 小木茂光
伏見武三(刑事) 奈須崇
高瀬川修(プロデューサー) 羽場裕一
三条みやび(失踪した女子大生) 榎園実穂
西大路隼人(番組司会者) 石丸謙二郎
桂ともえ(番組サブ司会者) 岡安由美子
岩倉宏一(番組ディレクター) 井之上チャル
深草久則(チーフAD) 諏訪雅
衣笠孝哉(AD) 永野宗典
太秦多聞(番組リポーター) コング桑田
堀川頼時(大学教授・コメンテーター) 稲健二
鞍馬須磨子(コメンテーター) 楠見薫
花園静江(マンション管理人) 岸本奈津枝
東山博文(大学生) 上田晴信
烏丸勇(大学生) 山下結穂
木津勝美(大学生) 酒井善史