感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン5」第13話「ペイシェントX」

X-ファイル シーズン5 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

 ドラマ「X-ファイル シーズン5」(全20話)の感想です。
(※以下、今回の話の結末まで書いてありますのでご注意ください)

■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン5
http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s5/

 BSデジタル放送「Dlife」での視聴です。


※他のエピソードの感想→「X-ファイル シーズン5」あらすじ・感想まとめ

第13話 ペイシェントX PATIENT X

■あらすじ

 お題は「異星人の地球侵略、政府の陰謀」。


 カザフスタンの人里離れた場所で、ある夜多数の人間が焼け死ぬ事件が発生した。翌日、マリタ・コバルービアス率いる国連軍とクライチェック一味が調査にやってきて鉢合わせするが、どちらにとっても何が発生したのかは謎だった。クライチェックは事件の目撃者のディミトリ少年から何かを聞きだした後、地球外生物「ブラックオイル」の実験台にしてから、何故かアメリカに連れて来る。


 モルダーはUFO信者たちの公開討論会にパネリストとして呼ばれていたが、信者たちに異星人やUFO等は総て政府のでっちあげだと主張して、白い目で見られる。直後、モルダーはUFO誘拐体験を語る「患者X」ことカサンドラ・スペンダーと引き合わされる。カサンドラは30年前から繰り返しUFOに誘拐されていると語るが、モルダーは彼女の発言も総て妄想だと否定するのみだった。またカサンドラの息子でFBI捜査官のジェフリーは、母親のUFO云々発言に困り果てていた。


 やがてアメリカのスカイランド・マウンテンでもカザフスタン同様の大量の焼死者が発見された(※この山はシーズン2の6話「昇天 Part2」でスカリーが誘拐された場所)。犠牲者は皆UFO誘拐体験を語る人々で、首にはチップが埋め込まれていた。秘密組織の幹部たちは、誰かが自分たちの計画の妨害を企んでいると知り、対策を取ろうと決意するが、そこにクライチェックが取引を持ちかけてくる。


 マリタは実はクライチェックと良い仲だった。彼女は何故かディミトリを連れ出し、モルダーに引き渡そうとするが、直後行方不明になる。


 夜。人里はなれた場所にスカリー、カサンドラ、その他大勢が集まっていた。そこに光を放つ何かが飛んできたので全員が歓喜するが、次の瞬間「目も口もふさがった男たち」が現われ、人々を焼き殺しにかかる。続く。


監督 キム・マナーズ
脚本 クリス・カーター&フランク・スポトニッツ


■感想

 評価は◎。


 おなじみ「異星人の地球侵略+政府の陰謀」系エピソードだが、様々な設定が追加され「新章スタート」と呼んでもいいような展開となった。やはり異星人の侵略話は気合が入っている。


 今回の主題は、UFO誘拐体験者の大量焼死事件。今まで陰に潜んで粛々と陰謀を実行してきた秘密組織(+異星人)の前に未知の敵対者が現われ、組織幹部たちも混乱に巻き込まれる、という展開が面白い。幹部たちがニューヨークのビルの一室に集まって、ひそひそと謀議しているシーンはいつ見ても盛り上がる。


 幹部たちの、首にチップを埋め込まれた犠牲者たちは「計画の最終段階」に「結集の合図」で「15年後」に呼び出される予定云々という台詞が、彼らの長期計画を匂わせて実にそそられる。ちなみに、このエピソードの放送は1998年で、15年後は2013年頃である。世紀末に「2013年」と言えば遥かな未来だったわけだが、既に現実はその年を通りすぎている、という事にはなにやら感慨を禁じえない。


 「UFOを信じる人たちが、内面から湧きあがる衝動に導かれて、人里はなれた場所に集まる」と言えば、もろに映画「未知との遭遇」で、彼らの前にまぶしい光の何が現われる、というところもそっくりなのだが、似ているのはそこまでで、現われた相手に歓迎されるどころか焼き殺される、というあたり、「未知との遭遇ブラック版」という感じである。


 今回は、シーズン4・第8話「ツングースカ Part1」、第9話「ツングースカ Part2」に登場した地球外生命体で黒いアメーバー的な生物が再登場しているが、前回は「ブラックキャンサー」と呼ばれていたのに対し、今回は「ブラックオイル」と名前が変わっている。設定が(勝手に)変更されたらしいが、もしかすると、同じ物を、ロシアでは「ブラックキャンサー」と呼び、アメリカ人は「ブラックオイル」と呼んでいる、のかもしれない。


 このエピソードでは、異星人の存在を信じてきたモルダーが、三部作(シーズン4・第24話「ゲッセマネ」、シーズン5・第1話「帰還 Part1」、第2話「帰還 Part2」)以来、宇宙人云々は軍の捏造だった説に転身してしまい、UFOビリーバーたちに冷たく当たる、という展開となっている。今まであれほどスカリーに宇宙人だUFOだと熱弁してきた人間が、ここまでころりと考えを変えるというのはなにやら笑えてしまう。しかしモルダーは過去に「自由に変身し、銃で撃っても死なない、緑色の血の連中」と何人も遭遇しているわけで、彼らはとても軍関係者とは思えないのだが、モルダーは心の中でどう折り合いをつけているのだろうか。モルダーが「全ては軍の陰謀」論者に成り果て、UFO関係を頭から否定するのに対し、今度はスカリーがモルダーに異星人説を考慮するようになだめるという、逆の立場になっているのが面白い。


 しかし、偏見を持たない眼で見ようとしても、カサンドラ・スペンダーの話を聞いていると、これは危ないと思ってしまうのではないか。誘拐されて胎児を奪われただの、異星人は征服目的では無くメッセージを伝えに来ただの、そのうちまたUFOに呼ばれる予感がするだの、これを素直に受け取るほうがまずいと思う。


■一言メモ

 サブタイトル「PATIENT X」の「PATIENT」とは『患者』のこと。