感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン7」第10話「存在と時間 Part1」


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■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン7 http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s7/
放送 Dlife。全22話。

【※以下ネタバレ】


※シーズン7の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら→「X-ファイル シーズン7」あらすじ・感想まとめ

第10話 存在と時間 Part1 SEIN UND ZEIT

あらすじ

カリフォルニア州で就寝中の少女アンバーリンが突然消えるという事件が起きた。脅迫状が見つかったことから、誘拐事件として捜査が始まるが、モルダーは独自で調べ始める

 お題は「心霊現象」。


 冒頭。両親と娘が暮らすラピエール家で、母親はメモ用紙に娘を誘拐した人間が書いたような脅迫文を書き付けており、一方父親は娘の顔が一瞬死体に見える。直後娘が家から失踪する。

 FBIはラピエール家の一人娘アンバーリンが誘拐された事件の捜査に乗り出すが、すぐに侵入者の形跡がないこと、脅迫状は母親の筆跡だった事、を突き止め、両親による狂言だと考える。モルダーは脅迫状の中の「サンタを撃つものはいない」云々という奇妙な一文が、1987年に起きた事件(この話の放送は2000年)に発生した男児誘拐事件の脅迫状にも書かれていたことを知り、犯人である母親のキャシー・リーに会いに行く。キャシー・リーは息子を殺した罪で服役していたが、自分が心霊的な体験をしたことを語り、息子たちは霊になってどこかで幸せに暮らしていると言い出す。

 やがてモルダーに母親が自殺したという連絡が入る。モルダー母は自宅でガス自殺しており、解剖の結果不治の病だったことが判明し、スカリーはそれを苦にしての自殺だと考えるが、モルダーは納得しない。やがてモルダーは、サマンサもアンバーリンの様に消え去り、母親もまたラピエール夫人の様な経験をしており、そのことをモルダーに話そうとして殺されたのだと考え出す。

 その後ラピエール家から連絡があり、モルダーたちはアンバーリンの幻が家に現われ「74」という数字を伝えたと聞かされる。しかし疲れきったモルダーはスキナーに捜査から外すように頼む。帰路、スカリーは「74号線」の先に「サンタの北極村」という施設が有る事に気が付き急遽乗り込む。そこには子供を撮影したビデオテープが多数残されており、アンバーリンの映像も有った。さらに村を管理する男エドを捕まえてみると、そのあたり中に墓と思しき土盛が点在していた。続く。


監督 マイケル・ワトキンス
脚本 クリス・カーター&フランク・スポトニッツ


感想

 評価は△。


 不可解な状況の中で子供が忽然と消え去る、という心霊系の話だが、そこに今更ながらの「サマンサ失踪の真相」という話を組み合わせた驚きのエピソード。X-ファイルの心霊テーマエピソードはえてして質が低いが、今回もまた同様だった。


 サブタイトルの原題「SEIN UND ZEIT」とは、ドイツ語で「存在と時間」という意味。実はこれはドイツの高名な哲学者マルティン・ハイデッガーの著書名が元になっているが、最後まで視聴しても今回のエピソードの内容との関連が全く思いつかず、これがどういう意味合いで付けられたのか、困惑せざるを得なかった。

 今回のストーリーは、明らかにシーズン4・第10話「ペーパーハート」の焼き直しである。「ペーパーハート」は「モルダーの妹サマンサはUFOに誘拐されたと考えられていたが、実は違っていて、普通の犯罪者に誘拐されていたとしたら?」という、X-ファイルの世界観を根底から覆すようなエピソードだったが、今回もほぼ同じ枠組みで作っており二番煎じ感が物凄い。そもそも、既にシーズン6・第12話「ファイト・ザ・フューチャー Part2」で、スモーキング・マンの語りで「サマンサはエイリアン(コロニスト)に人質として差し出された」と確定していたのに、今更また「実は違っていたら?」などと言いだされて、正直腹が立ってくる展開だった。

 また、心霊現象話の様に思わせて、最後の方では猟奇的な誘拐犯による犯行のようにも見せており、正直どこに向かっている話なのかサッパリ解らないのもイライラさせられた。


 今回はモルダーの母親が衝撃の自殺を遂げるなど、かなり踏み込んだ展開となっている。これは当時の制作スタッフが「X-ファイルはシーズン7で打ち切りになる」と考えており、いい加減引っ張り続けてきたサマンサ話にケリをつけよう、という事で作られた話だからである。ちなみにスカリーは、モルダー母が不治の病「ページェント乳ガン」にかかっていたと説明するが、どうやらこれは「乳房ページェット(パジェット)病」の事だと思われる。ただしこれは皮膚がんの一種であり、スカリーが言うような「体が変形する」という症状は無い。推測だが、名前が似ていて『骨が変形する』骨ページェット病と混同していたのではなかろうか。それにしても、モルダー家の家庭状況は、父親が射殺され、母親は自殺、妹は幼少期に行方不明、と、すさまじいハードさで、並の人間ならおかしくなっていそうである。


 今回のラピエール家の状況は、有名な「ジョンベネ事件」をモデルにしていると思われる。これは当時の時事ネタで、1996年末に少女ジョンベネが自宅から失踪し、直後地下室で死体となって発見されたという事件である。警察は犯人は両親だと疑ってかかった上に、マスコミが煽りまくったため、当時物凄い話題となった。今回のエピソードが2000年放送だという事を考えると、ある程度スタッフの念頭にあったのは間違いないと思われる。


 ところで、終盤ラピエール家から空港に向かう車は、スキナーが運転し、スカリーが助手席、モルダーが後ろに座る、という状況だった。FBIの副長官に運転させヒラ局員は後ろに座る、というのも凄い構図だが、アメリカではこれは普通なのだろうか。気になって仕方がない。