感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第43話「秒読みの殺人」

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放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

第43話 秒読みの殺人 MAKE ME A PERFECT MURDER (第7シーズン(1977~1978)・第3話)

 

あらすじ

テレビ局の女性敏腕プロデューサー、ケイ・フリーストンは、支社長のマークと恋人関係にあった。マークは本社への栄転が決まるが、ケイを後任に推す気がなく、二人の関係も終わらせようとしていた。それを知ったケイは、局の重役たちに担当番組を見せている間に、映写室を抜け出してマークを殺害。自らの声で録音した秒数をカウントダウンするテープを利用して完全なアリバイ工作を行った。

 
 ケイ・フリーストンは、テレビ局CNCの支社長マークの右腕を務める幹部社員であると同時に、プライベートではマークと秘密の恋愛関係にあった。ある日、マークはニューヨークの本社への栄転が決まるが、マークはケイをニューヨークに連れていく気も、また後任の支社長に推す気も無く、それどころか、これを機に恋人関係の清算をしたいと言い出す。ケイはその態度に激怒し、マーク殺害を決意する。

 ある夜。ケイは支社内の試写室で自分が制作したテレビ映画「ザ・プロフェッショナル」を、本社重役フラナガンに披露することになった。ケイは隙を見て映写室を抜け出すとオフィスにいたマークを射殺し、凶器の拳銃はエレベーターの天井に隠して、そのまま何食わぬ顔で映写室に舞い戻る。やがてマークの死が発覚するが、ケイを疑う者はいなかった。

 事件の担当になったコロンボは、マークが犯人がすぐそばまで来ていたのに警戒した形跡がなかったことから、犯人は部外者ではなくマークと親しい人物だと看破する。

 ケイはフラナガンの指示で支社長の代行となり、嬉々として支社を仕切りはじめた。特にケイは親友の歌手バレリーが出演する生放送のショーの準備に力を入れていたが、バレリーはストレスで精神が不安定になっていた。そして放送当日、バレリーはストレスから逃れるため薬に手を出してとても出演できなくなり、ケイは仕方なくショーの穴埋めとして「ザ・プロフェッショナル」を急遽放送する羽目になる。

 やがてコロンボはマークとケイが恋人関係にあったことに気が付き、さらに犯行時刻にケイが映写室にいたというアリバイの穴を見つけ出す。

 ケイは支社のエレベーターの天井に隠した拳銃が下から見える状態になっていることに気が付き、慌てて銃を回収すると道端に捨てて証拠を隠滅する。しかし直後ケイはフラナガンから、大金を投じて制作した「ザ・プロフェッショナル」を穴埋め放送に使ってしまった事を責められ、クビを宣告される。

 さらに動揺するケイの前にコロンボが現れ、ケイの犯行への関与を立証する証拠を突きつける。ケイは犯行時間帯には映写室で映画のフィルムの切り替えをしていたはずだったが、その時実は3分ほどの余裕が有ったはずであり、またケイが乗ったエレベーターからはコロンボが用意させた拳銃が消え去っていた。警察は既に凶器の拳銃を見つけており、コロンボはケイを試すため罠を仕掛けたのだった。ケイは負けを認めるものの、決して取り乱すことなく、毅然とした態度に終始する。


感想

 評価は○。

 1時間40分枠の長尺版。おそらくコロンボ作品の中では一番多く視聴している(5回以上見たはず)作品。シリーズ作品の醍醐味である「コロンボが次々と証拠を見つけて犯人を追い詰めていく」という要素は希薄だが、犯人の破滅を描くドラマとしては強烈な印象を残す作品である。


 この作品において、ケイの犯行ははっきり言って緻密と言えるものではなく、知的な人物が綿密に練った計画とは思えない。ケイは、映写中の映画のフィルム切り替えまでの残り時間を偽装して映写技師のウォルターを騙し、偽のアリバイの証人に仕立て上げ、確保した三分の時間を利用してマークを射殺する。しかしこの犯行は、ちょっと考えれば解るが極めて危うい物だった。

 もし犯行現場の往復を途中で誰かに見られたら、あるいは、三分後のフイルム切り替えまでに映写室に戻れなかったら、もう計画は破綻してしまうが、実際にも見回り中の警備員に出くわしてしまい、もう少しで時間切れとなるところだった。また、その他にも、ウォルターが三分以内に戻ってきてしまったり、不在中にフラナガンたちが呼びかけてきたら、やはり映写室を抜け出していたことが発覚して計画失敗である。

 ケイはこのような不確定要素を幸運にも上手く切り抜けたものの、犯行時にはめていた手袋を処分することを忘れていたため、コロンボに見つかって証拠として提示されてしまう、など、全てがお粗末極まりなかった。


 このようなずさんな犯行だけに、コロンボがケイを犯人として特定するのに殆ど苦労はなかったように思える。まず最初に現場で被害者マークの眼鏡の一件で犯人が親しい人物だと見抜いた時点で、既にケイを有力容疑者の一人として見切っていたような感すらある。

 あとコロンボがしたことは、マークの別荘に届いたクリーニングからケイがマークと恋人だったと確認し、「ザ・プロフェッショナル」のテレビ放送を見てキューパンチの位置の違和感に気が付いてアリバイを崩す、と、ほぼこれだけだった。コロンボ物の楽しみである、コロンボが犯人の些細なミスを次々と見つけて犯人を絞り込んでいく、という展開は無く、そういう意味では物足りない話だった。


 また、この作品はシナリオライターが尺を持て余したのか、どうも冗長な感が強い。例えば冒頭で愛車を運転中のコロンボがパトカーに追突されてむち打ちになり、首を気にしたり治療したりする展開となるが、これは今回のストーリーには何の意味も無く、入っている意味が解らない。コロンボは途中から首のコルセットを外してしまうので、余計にそう感じる。また中盤、コロンボがテレビ局の調整室に一人残り、ボタンを勝手に押して画面に様々なパターンが写るのを楽しむシーンも、ただの時間稼ぎとしか思えない。


 という事で、本作品は「コロンボ物」としてはあまり面白いとは言えないのだが、しかし、サスペンス的なドラマとしてとらえれば無性に面白い。

 ケイの犯行の動機が金や保身のためではなく、恋人に捨てられた恨みを晴らすため、という底の浅さが他の作品とは一線を画しているし、またせっかく支社長代理まで昇進したにも拘わらず、結局自分で墓穴を掘って仕事を失う羽目となる皮肉な展開、エレベーターの中で天井の銃を回収しようと必死になる緊迫のシーン、遊園地の調整車の中で画面に映るコロンボの姿を見ながらヒステリーを起こす場面、など、見どころ満載ともいえる。

 犯行シーンやエンディングでは、クラシック調のBGMが流れ、悲しい雰囲気と同時に緊迫感を醸し出し、強烈な印象を残す。この曲は第41話「死者のメッセージ」(第7シーズン・第1話)でも使用されており、名曲という他はない。

 ラストは名シーンの連発で、コロンボに犯行を立証されたケイが、観念しつつも、取り乱すことなく毅然とした態度で「戦って生き残ります。それが私の生き方」と口にするシーンは忘れることができない。またコロンボが調整車から出ていく前に、画面の電源ボタンを押そうとする場面で止め絵になり、同時に右上にキューパンチが出る演出はしゃれているし、その直後に前述のBGMが流れ出してエンディングのスタッフロールに移行する、という流れも完璧である。
 
 このように、本作はミステリードラマとしては名作とは言い辛いものの、犯罪に手を染めた一人の女の破滅の物語と考えると、かなりの秀作と言える。コロンボ作品としては正統派とは言えないのかもしれないが、忘れられない作品の一つではある。


備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第13位にランキングされた。
 
 

#43 秒読みの殺人 MAKE ME A PERFECT MURDER
日本初回放送:1979年


本作は「カップル間のトラブルと殺人」というモチーフが真正面から扱われた最もドラマチックなエピソード。“秒読みの”きわどい犯行やサスペンス・シーン、パトリック・ウィリアムズの音楽など、ハラハラ・ドキドキが満載!


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ケイ・フリーストン・・・トリッシュ・バン・ディーバー(寺田路恵)
フラナガン・・・パトリック・オニール(黒沢 良)
マーク・・・ローレンス・ラッキンビル(森川公也)
ウォルター・・・ジェームズ・マクイーチン(加藤 修)
ルーサー・・・ロン・リフキン(原田一夫
バレリー・・・レイニー・カザン(大橋芳枝)
修理屋・・・ブルース・カービイ(杉田俊也)
ジョナサン・・・ケネス・ギルマン(伊武雅之)


演出
ジェームズ・フローリー


脚本
ロバート・ブリーズ

 

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