感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第29話「歌声の消えた海」

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放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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perry-r.hatenablog.com
 

第29話 歌声の消えた海 TROUBLED WATERS (第4シーズン(1974~1975)・第4話)

 

あらすじ

ロサンゼルスからメキシコへ向かう豪華客船の旅に出かけたコロンボ夫妻。楽しむ間もなく専属バンドの女性歌手射殺事件が起き、コロンボは一人で捜査を開始。現場の鏡に口紅で書かれていた「L」の文字から、被害者にしつこく言い寄っていたロイドに疑いがかかるが、それは被害者の愛人ダンジガーによる工作だった。コロンボは鑑識も何もない中、ダンジガーの巧妙な作戦を見抜いていく。

 
 コロンボ夫妻は懸賞でメキシコ旅行が当選し、ロスアンゼルスからメキシコ・アカプルコへ向かう豪華客船「シーバレス号」の船客となっていた。

 同じ船に船客として乗っている中古車ディーラー・ダンジガーは、船の専属バンドの歌手ロザンナの殺害を企てていた。ダンジガーは過去にロザンナと浮気をしたが、そのあとロザンナがダンジガーに対し、二人の関係を妻に暴露されたくなかったら金を払えと脅迫してきたのだった。ダンジガーは財産目当てに妻と結婚したため、絶対に離婚は出来ない状況だった。

 ダンジガーは昼間に薬で心臓発作を装い船の医務室に担ぎ込まれると、夜中に病室をこっそり抜け出してロザンナを射殺し、現場の鏡に口紅で「L」と書き残してから病室に舞い戻る。

 ロザンナの死体はすぐに発見され、コロンボが警官と知っていたギボンズ船長は、すぐにコロンボを呼び出し対処を依頼する。船長たちは、バンドメンバーの一人ロイドがロザンナにしつこく言い寄っていたことを知っており、「L」の字を見てロイドの犯行だと疑っていた。死体の周りには、犯人が銃声を消すために使用した羽根枕の羽が飛び散っていた。

 コロンボは酷い船酔いだったため、医務室を訪れ薬をもらうが、病室の入り口に羽根が落ちていることに気が付く。その病室にいたのはダンジガーだった。

 やがて船員しか入れない場所で拳銃が発見され、検査の結果凶器と判明した。しかもロイドの部屋にはその拳銃を購入した時の領収書が残されていた。船長たちはロイドが犯人だと決めつけるが、コロンボはロイドが犯人なら、わざわざ領収書を残すだろうかという点や、何故拳銃を海に捨てて証拠を隠滅しなかったのか、といった事が引っかかる。

 コロンボはダンジガーに捜査への協力を求める一方で、その裏ではダンジガーの犯行を立証しようと証拠集めを進める。コロンボは、ダンジガーが船員専用通路を通って医務室からロザンナの部屋まで往復すれば人に見られずに済むこと、ダンジガーは中古車を扱うためマスターキーを作る技術が有ること、等を確認し、さらにダンジガーが心臓発作を装うために使用した「亜硝酸アミル」のカプセルを見つけ出し、犯行直後に急いで医務室まで戻ってきたため血圧と脈拍が跳ね上がっていた事実も掴む。

 メキシコ到着前日。コロンボはダンジガーに対し、ロイドが犯人で間違いないだろうが、犯行時に使った手袋が見つかれば完璧だと打ち明ける。それを聞いたダンジガーは、再び医務室から手袋を盗むと、船に乗っているマジシャンの銃をこっそり持ち出して発射し、手袋に硝煙反応をつけた上で、消火設備の中に隠しておく。

 翌日。船員の消火訓練の際に手袋が発見され、コロンボはダンジガーを呼び出して、手袋を裏返し、内側についている指紋を確認し始める。そしてその指紋がロイドの物では無いと確かめた後、ダンジガーに対し指紋を調べさせて欲しいと頼む。ダンジガーは渋々ついているのは自分の指紋だと認めるが、それはロザンナを殺した凶器を掴んだ物とは限らないと弁明する。しかしコロンボに、ならばなぜ硝煙反応の有る手袋を隠したのか、と聞かれ、ダンジガーは答えることが出来なかった。


感想

 評価は◎(秀作)

 1時間38分枠の作品。コロンボロスアンゼルスを離れ、休暇で豪華客船で旅行中に殺人事件に巻き込まれる、という、特別編とでもいうべきエピソード。しかし普段とは異なるシチュエーションであっても「刑事コロンボらしさ」というものはしっかり押さえている上、映画・テレビで有名な俳優ロバート・ボーンが犯人役として出演しており、見ごたえのある一作だった。


 本エピソードの犯人ダンジガーは、職業は中古車ディーラーで、多分それなりの規模の会社の社長だと思われるが、他作品の犯人たちと異なり、あまり社会的な成功者という感じはない。画面に地位を示す豪華なオフィスや部下たちなどが登場しない上、この船旅も100人からのお得意先をメキシコで接待するための旅行の最中という設定のため、エリートというより猛烈に働くビジネスマンというイメージの方が強い。

 しかし犯罪者としての資質の方は実に優秀で、犯行の綿密な準備ぷり、巧みなアリバイ工作、手袋が無いといったアクシデントへの対応能力、犯行後の落ち着いた態度、等、全てにおいて実にそつがない。たまたま同じ船にコロンボが乗り合わせていなければ、ロイドに罪を擦り付けて上手く逃げ切っていたのは間違いない所である。


 本作ではコロンボが、鑑識官も同僚もいない孤立無援の状況で、しかも警官としてではなくあくまで一人の私人として捜査にあたる、という特殊なシチュエーションとなっており、話の進め方が他のエピソードと微妙に違うのがちょっと面白い。

 他作品であれば、警察組織がある程度下調べをして関係者を絞り込んだ後、コロンボがその中の一人が怪しいと目星をつけて追及していく、という流れとなる。しかし本作ではコロンボは頼れる同僚・部下たちがいないうえ、そもそも船長から事を公にするなと釘を刺されているため、周囲に聞き込みもできず、手足を縛られたような不自由な状態で捜査しなければならない。

 もっともそれでは話が進まないので、シナリオライターは事件発覚直後にコロンボに医務室で羽を見つけさせ、すぐにダンジガーが怪しいと目星を付けさせている。ちょっと都合がよすぎる感もあるが、医務室でコロンボがいきなり表情を変え、床から羽根を拾い上げる場面は緊張感あふれるBGMと共に展開するので、それほど気にはならなかった。

 またコロンボは警官ではなくあくまで私人として事件を調べているだけなので、怪しいと睨んでいるダンジガーに対して、いつものような心理的圧力をかけて追い詰めたりせず、あくまで「事情を知っている人物に協力をお願いする」という姿勢で接し、ダンジガーを警戒させないようにしている。他の作品ではコロンボが犯人とにらんだ人物に、当人が嫌がるくらいにしつこく顔を合わせて追い込んでいくのとは好対照だった。

 何気ないシーンだが感心したのは、コロンボが凶器の銃の弾を調べる際、銃は苦手だと言いわけしてから、ダンジガーに代わって射撃してもらう展開である。あのシーンでコロンボはダンジガーが銃を撃つことに慣れているかどうかさりげなくチェックしたのだと考えると、コロンボはなかなかの策士である。


 さて、この作品で物凄く気になるのは、序盤にダンジガーが自室でマスターキーの複製を作る際、「CODE BOOK」なる本を参照しながら、ちょっと拳銃に似ていなくもない謎の機械を使ってキーを加工するあの場面である。ダンジガーが使っていた機械は、あとからコロンボの台詞から「カーチス・クリッパー」なる名前の道具で、自動車修理工場や中古車業者などが鍵を自分で作るために使用する機械と判明する。

 この謎の「カーチス・クリッパー」とは何なのか調べてみたのだが、英語で「Curtis Clipper」と書き、どうやら鍵を作った会社名と鍵固有の番号といった物が解れば、同じ鍵を複製できる道具であるらしい。そう言えばダンジガーはキーを作成する直前にパーサーの部屋に行き「部屋の鍵が見つからない」と言って「MASTER #A93」という札のついた鍵を手に取ってちらりと観察している。これで鍵のメーカー名などの必要な情報を確認しておいて、それを元に複製鍵を作った、ということであるらしい。この辺りは専門の知識が無いと、画面を見ているだけではちょっとわかり辛い所ではあった。


 このエピソードでコロンボファンとして嬉しいのは、「うちのカミさん」ことコロンボ夫人の存在感が他作品と比べて段違いに上という点である。コロンボ夫人は、普段はコロンボの口から「うちのカミさんがXXでねぇ」という台詞を聞いて存在をうかがい知る程度なのだが、本エピソードではコロンボと一緒の船に乗っており、
・電話越しにではあるがコロンボと直接会話しているシーンが有る
コロンボの口から「背はこれくらいで、髪が黒でアップにしている」云々という容姿の描写が聞ける
・船員が「夫人をさっき見かけた」と言うシーンが二度もある

 など、すぐそこにいてもうちょっと出会えそう感を醸し出していて、これがなんともファン的に楽しかった。


 事件の解決はいつものようにコロンボが罠を仕掛け犯人を自滅させる、というものだが、それもいつもとは違い、裁判で認められるかどうかという微妙なやり口ではなく、ダンジガーに「もうちょっとやれば逃げ切れる」と思わせてボロを出させる、という感じの手法で、随分マイルドな仕掛けだった。

 また最後にコロンボがダンジガーに指紋を取らせてくれと頼むときも、コロンボは緊張感の欠片も無く、実に愉快そうに歌を口ずさみながらダンジガーに「お願い」している。他作品でおなじみの緊張感あふれるクライマックスとは別物の、実にのんびりした空気の中での犯人指摘だったが、それでも追い込まれたダンジガーが苦し気に自分の指紋と認めるシーンは、いつも通り実に痛快だった。


 サブタイトルの原題「TROUBLED WATERS」は、普通に訳すると「問題のある水」となるが、まあニュアンス的には「水上のトラブル」くらいの感じだと思われ、実にそっけない。それと比べると日本語サブタイトル「歌声の消えた海」のセンスは実に素晴らしいと言えよう。


備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第9位にランキングされた。
 
 

#29 歌声の消えた海 TROUBLED WATERS
日本初回放送:1976年


コロンボが船旅をする」というイベント感あふれる中で起きた殺人事件。テレビシリーズ『0011ナポレオン・ソロ』や『華麗なるペテン師たち』に出演したロバート・ボーンふんする犯人とコロンボの頭脳戦が見もの!


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ダンジガー・・・ロバート・ボーン西沢利明
船長・・・パトリック・マクニー(柳生博
シルビア・・・ジェーン・グリア(寺島伸枝)
ロイド・・・ディーン・ストックウェル(上田忠好)
パーサー・・・バーナード・フォックス(西田昭市)
ドクター・・・ロバート・ダグラス(塩見竜介)


演出
ベン・ギャザラ


脚本
ウィリアム・ドリスキル(原案ジャクソン・ギリス&ウィリアム・ドリスキル)

 

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