感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第22話「第三の終章」

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刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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第22話 第三の終章 PUBLISH OR PERISH (第3シーズン(1973~1974)・第5話)

 

あらすじ

刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!出版社社長が、爆弾作りを趣味とする男を操り、人気作家を殺させた上で、保険金も手にする計画を決行。しかし思わぬ誤算が…。


出版社社長のグリーンリーフは、人気作家マロリーが大手出版社との契約をすすめていることを知る。彼の新作の出版権を他社に渡したくないグリーンリーフは、爆弾マニアのエディにマロリーを殺させ、100万ドルの保険金も手にする計画を決行。エディに殺害方法を綿密に指示し、自分には完全なアリバイを作った。その後、エディの口封じにも成功するが、そこには思わぬ誤算があった。

●序盤

 出版社社長のライリー・グリーンリーフは、作家アラン・マロリーを見出して世に出したが、時が流れマロリーが大人気作家となった今では二人の関係は冷却化していた。マロリーは低俗な作品ばかり書かせるグリーンリーフに嫌気がさしており、二週間後に契約が切れた後は、別の大手出版社との契約に切り替えることを伝えていた。

 グリーンリーフは、元軍人で爆弾マニアのエディ・ケーンを上手くおだててマロリー殺害を依頼し、綿密に指示を与えて、アパートで執筆中だったマロリーを射殺させる。そして自分は、犯行時間に酔ったふりをして自動車の接触事故を起こし、鉄壁のアリバイを作る。



●中盤

 マロリーの死体が発見され、コロンボが中心となって捜査を開始し、現場で鍵と殺人に使用された拳銃を発見する。拳銃はグリーンリーフの物で指紋もついていたため、コロンボはグリーンリーフを訪問し、グリーンリーフは昨晩は泥酔して記憶が無いととぼけるが、すぐに自動車事故の事が解ってアリバイが成立する。

 グリーンリーフは、コロンボに、あらかじめ壊しておいた自動車のドアロックを発見させ、誰かが自分の車からアパートの鍵と拳銃を盗んでいったとアピールする。コロンボは一応その話に納得するが、グリーンリーフが記憶が無いという割に、昨晩の事故相手を「彼ら」と表現し、複数人が乗っていたことを覚えていた事を指摘する。

 翌日。グリーンリーフはコロンボから、マロリーに100万ドルの生命保険をかけていたことを質問されるが、出版業界では普通の事と受け流す。しかしマロリーは死の三週間前にアパートのドアの鍵を付け替えており、犯行現場に落ちていた鍵では入れたはずがないと知らされ困惑する。

 夜。グリーンリーフはエディの自宅を訪ね、薬で眠らせた後、「サイゴンへ60マイル」という小説の原稿、鍵、手紙、を残してから、爆弾でエディを殺害する。

 コロンボは、マロリーのエージェントだったアイリーンから、新作小説の結末について、主人公が死ぬはずだったものを死なない様に変更させたことを聞きだす。

 コロンボは死んだエディの自宅から、原稿や9か月前にグリーンリーフにあてた手紙を発見しグリーンリーフを問い詰める。グリーンリーフは渋々を装いながら、実はマロリーが死ぬ直前まで書いていた「サイゴンへ60マイル」は元々はエディが持ち込んで来た企画で、文章が使い物にならなかったので、アイデアだけもらってマロリーに書かせていた、と説明する。そして、それを恨んだエディがマロリーを殺してその罪をグリーンリーフに着せようとした、という方向に話を持っていく。



●終盤

 グリーンリーフは、コロンボに呼び出され、エディの家で見つかったアパートの鍵は、事件翌日にコロンボが付け替えさせた物なので、エディが持っているはずはないと聞かされる。さらに、コロンボは、グリーンリーフがマロリーの口述筆記のテープを運んでいた配達員を買収し、マロリーの新作の内容を逐一把握していた事を指摘する。

 コロンボは、エディの書いた小説の梗概では、主人公は結末で生き延びて修道院に入ることになっているが、これを思いついたのはマロリーのエージェント・アイリーンなので、エディが書けたはずはないと指摘し、グリーンリーフは反論できずに黙り込む。
 
 
監督 ロバート・バトラー
脚本 ピーター・S・フィッシャー


感想

 評価は△(いまいち)。

 結末が悪い意味で衝撃的で、何故このような脚本にGOサインが出たのか疑問しかないエピソード。


 サブタイトルの原題は「PUBLISH OR PERISH」で、意訳すれば「出版か消滅か」といったところ。犯人が出版関係者だから付けたタイトル、と考えてしまいそうになるが、実はこれはアメリカの格言が元ネタで、本来の意味は『大学の研究者たるものは学術論文を出し続けなければならない(さもなければ死ななければならない)』云々であるとのこと。


 このエピソードは、ゲストキャラクターが、メインとなる事件で殺害計画は立てるものの殺人は行わない、という異色の展開となっている。まあ、その後で共犯者を殺害するので結局殺人者にはなるのだが、コロンボ物のストーリーとしては珍しいパターンではある。

 このエピソードは、さりげない描写が後の伏線となっている場面が多い。まずは、殺人現場にやって来たコロンボが、コーヒーを欲しいとぼやきながらドアの鍵穴に鍵を挿しているシーン。コロンボが「カミさんと一緒にベティ・デイビスの深夜映画を見ていたので寝不足云々」と語っているため、そちらの話が面白くて何をしていたのか見逃してしまいそうになるが、床に落ちていた鍵ではドアを開けることができないことを早くも確認している訳で、あっさり済ませている割に重要なシーンである。

 また、コロンボが最初にグリーンリーフの屋敷を訪ねた後で、何かの店に入って店員と話し込んでいる場面もある。この店の窓を見ると「LOCKSMITH」と書いてあり、つまり錠前屋である。このシーンは極めて短くしかも会話内容が解らないため記憶に残らないのだが、終盤にコロンボがグリーンリーフに対し、事件後アパートのドアの鍵を付け替えた云々と説明する台詞の伏線となっている。

 と、細かい描写で感心する要素もあるのだが、しかし結末はあまりにもいただけない。コロンボは、エディの書いたはずの小説の梗概の結末で主人公が生きているが、これをエディが書いたはずはない、何故ならエージェントのアイリーンが考えた結末だからだ、と断言するが、何の根拠が有ってそういっているのか全く分からない。

 エディ自身が主人公が生き延びる結末を考え付けたはずがない、という明白な証拠が無い以上、コロンボの言うことは何の根拠もないただの言いがかりに過ぎない。これがグリーンリーフの嘘を証明する決定的な証拠の様に描写されていて、決着になっていない結末に全く納得できなかった。

 また本作は、「実はグリーンリーフはマロリーに100万ドルの生命保険をかけていた」「実はグリーンリーフは原稿サービスの配達員を買収していた」「実はコロンボがドアの鍵を付け替えていた」、と次々と色々な要素を後出し的に持ち出してくるので、その点でもどうにもストーリーに納得感が薄かった。

 ということで、完成度的にはもう一つと評価せざるを得ないクオリティだった。


 さて、被害者となる人気作家アラン・マロリーは、演じている俳優が「ミッキー・スピレーン」と書いてあって仰天してしまったが、確認してみると本当に「探偵マイク・ハマー物を書いたハードボイルド作家」その人だった。英語版ウィキペディアなどを調べてみると、スピレーンは、日本ではあまり知られていないが、作家業の傍らで俳優もやっていたらしい。なんと作者のスピレーン自身が、自分の創造したマイク・ハマーを演じたことも有ったそうである。凄い話である。

 終盤、コロンボがマロリーの殺されたアパートにグリーンリーフを呼びつけ、過去に手掛けた事件として「上院議員が云々」と長々と話し出すシーンがある。内容を聞いていると解るが、これは第20話「野望の果て」の話をしている。コロンボ作品は基本的に完全に独立していて単体で楽しめるように作られているので、他のエピソードの事が語られるのはイレギュラーで、実に印象的だった。

 毎回お馴染みのコント的な場面としては、今回はコロンボが出版社社長のニールのいる高級レストランに面会に行き、店にメニューにないチリを強引に作らせた上、さらにトマトケチャップやらオーダーするくだり。店は上流階級専門店らしく、店員が注文に困惑しまくっている様がコミカルで実に面白かった。なお、支払いの際に、コロンボが「6ドル!?」と驚いていたが、1974年当時のレートは1ドル300円なので、軽い食事で1800円も請求されたことになり、コロンボが驚いたのも無理はない。


 後半、コロンボたちが「小説のこうがい」と連呼しているので何の事かと思ったが、これは「梗概」と書き、小説のあらすじのことだそうである。50年前の日本初放送の時点ではこれで通じていたわけで、昔は難しい言葉を当たり前に使っていたのだなと妙に感心させられた。


 本作は、主犯が自ら手を下さないという展開など新しい試みはあったものの、完成度的にはあまり感心しない物となっており、残念な一作だった。


備考

 放送時間:1時間15分。
 
 

#22 第三の終章 PUBLISH OR PERISH
日本初回放送:1974年


後にドラマ『ジェシカおばさんの事件簿』などを手がける、シリーズ後期を代表する脚本家、ピーター・S・フィッシャーの記念すべきシリーズデビュー作。「犯人が自分では手を下さない殺人」という意表をついた作品。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ライリー・グリーンリーフ・・・ジャック・キャシディ(田口計
マロリー・・・ミッキー・スピレーン柴田秀勝
アイリーン・・・マリエット・ハートレイ(公卿敬子)
ニール・・・ジャック・オービュション(小林清志
エディ・・・ジョン・チャンドラー(橋爪功


演出
ロバート・バトラー


脚本
ピーター・S・フィッシャー

 

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