感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第40話「殺しの序曲」

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放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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第40話 殺しの序曲 THE BYE-BYE SKY HIGH I.Q. MURDER CASE (第6シーズン(1976~1977)・第3話)

 

あらすじ

世界トップレベルのIQを持つ者だけが入れる国際的なクラブの会合中、メンバーの一人、バーティが2階の図書室で殺害された。一見、物取りの仕業に見えたが、バーティと共に会計事務所を営むオリバーの犯行だった。犯行時、他のメンバーと階下にいたオリバーがどうやって殺害したのか。コロンボは現場に不審な点を見出し、天才による巧妙なトリックを紐解いていく。

 
 会計事務所の経営者オリバー・ブラントは、知能指数が世界中の人間の中でトップ2パーセントに入る天才のクラブ「シグマ協会」の一員でもあった。

 ある日ブラントは、クラブハウスで、事務所の共同経営者でクラブのメンバーでもあるバーティ・ヘイスティングから、ブラントが顧客の資産を横領していることを糾弾される。しかしそれを予期していたブラントは、バーティを射殺し、さらにクラブのメンバーと会っている間に、あるトリックを使って偽の銃声と人が倒れる音を作り出す。直後バーティの死体が発見されるが、クラブメンバーは外部から侵入した何者かがバーティを射殺して逃亡したと信じ込み、ブラントを疑う事は無かった。

 コロンボは事件の捜査を始めるが、クラブメンバーが目撃したという犯人像が全くバラバラなことに困惑する。また床に巨大な辞書が置きっぱなしになっていた事、バーティが中途半端なところからレコードを再生していた事、などに不審を抱く。やがてコロンボはブラントの横領の事実を突き止め、ブラントが何らかの手段でバーティを殺した後にアリバイを作ったと推測する。

 ある夜、コロンボはブラントをクラブハウスまで呼び出し、シグマ協会のメンバーが見抜いたというアリバイトリックを説明する。それはコンピューター制御のレコードプレイヤーのアームの動きを利用し、電気で爆竹を爆発させて銃声に偽装するというものだった。そして人が倒れる音は、机の上に置いていた辞書が爆竹の爆発の振動で落ちた音だったと言う。

 しかしクラブのメンバーを見下していたブラントは、誤った説明に黙っていられなくなり、つい自分のトリックをコロンボの目の前で再現してしまう。それは立てておいたサインペンをプレイヤーのアームで倒し、落下したペンが辞書にぶつかることで、辞書を机の下に落とすというものだった。ブラントはコロンボにまんまと誘導されて自白させられてしまったと気が付く。しかしコロンボの知能の高さを思い知り、警察にいるには惜しいと称賛する。


感想

 評価は(ぎりぎりで)○

 1時間16分枠の作品。シナリオが粗くてほとんど見るところが無く、個人的にはあまり評価していないエピソード。

 犯人のブラントは有名な会計事務所の経営者ということになっているが、劇中でその設定は殆ど生かされておらず、他の職業でも全く問題ない展開だったというのはいただけない。他の作品であれば、犯人の職業は事件の重要な一要素になっていることを思うと、本エピソードは物足りなさを感じさせる。

 またブラントは子供のころから神童扱いされていた天才のはずだが、劇中の振る舞いを見ても、殺人の計画を見ても、特にそのような常人離れした知能の持ち主という印象はなく、設定上だけの話になってしまっている感が強い。付け加えるなら、シグマ協会の会員たちも、言動を見る限り知性の高い人たちのようには思えない。シナリオライター自身が天才でなければ天才は描けない、という話かもしれないが、キャラの造形はもう少し「浮世離れした天才たち」といった雰囲気を出して欲しかった。

 本作は、他の作品ではおなじみの、コロンボが事件の些細な矛盾点を見つけ出し徐々に真相に迫っていく、という描写が弱く、軽く調べて回ったらもう真相にたどり着いてしまった様に見えて物足りなかった。例えば、ブラントが株で失敗したため顧客の金を横領した、という事実は、コロンボが地道な聞き込みで見つけ出すような描写は無く、ストーリーの途中できなりコロンボの口から明かされるので、唐突感が物凄かった。こういう事実は、もう少し自然な流れで視聴者に見せて欲しかったという気持ちになってしまった。

 また、コロンボが犯人にしつこくまとわりつき心理的にプレッシャーをかけていく、という展開も無く、結局のところ「コロンボらしさ」というものが希薄なエピソードだった。

 ブラントが犯行時刻を誤魔化すために用いた仕掛けは、冒頭にブラントがあれこれと準備する様は描かれるものの、実際にどう機能したのかは視聴者にも明かされず、その謎解きが一つの焦点となる。しかし、前述のとおりストーリーがかなり面白みに欠けるため、終盤のコロンボによるトリック解明もさほど盛り上がらず、不発に終わってしまった感が有った。

 最後にブラントが自らアリバイのトリックをコロンボに披露してしまい、自白したも同然となる、という展開も、さほど面白いとは思えない。まあ冒頭のブラントのハーディに対する扱いを見ると、ブラントは知能が高いかもしれないが意外と子供っぽい所が有るというのは解る。だからクラブの他のメンバーを内心見下していたブラントが、犯行を隠すことを忘れ、自尊心を優先して思わずトリックを明かしてしまう、という流れは無理筋という事も無い。しかし、あんな形で犯人があっさり自白して、コロンボとの対決があっさり終わってしまう、というのは、ちょっとどうなのかと思わざるを得ない。

 結局のところ、このエピソードで一番の、というか唯一の見どころは、ブラントがコロンボの知能をテストするために出した金貨の問題の答えを説明するシーンだろう。頭の体操的なひらめきを必要とする問題であり、コロンボは謙遜してカミさんが考えてくれたと言っているが、本人が考え付いたと見るのが妥当だろう。地味なコロンボが、実は高い知能の持ち主だと示すシーンで、結末の問題のシーンと合わせて、この部分だけは大好きである。


●金貨の問題

 いくつかの袋に金貨が何枚か入っている。ある袋の中に入っている金貨だけはニセモノである。本物の金貨は一枚100グラムだが、ニセ金貨は一枚110グラムである。ここに一つのはかりが有る。はかりを一回だけ使い、どの袋がニセ金貨入りの袋なのかを当てなさい。


 回答。袋がA、B、Cの三個あるとする。Aの袋から金貨を一枚、Bの袋からは金貨を二枚、Cの袋からは金貨を三枚、合計六枚を取り出し、はかりに乗せる。全部の金貨が本物なら重さは600グラムになるが、
もし重さが610グラムなら→ニセ金貨は1枚→Aの袋がニセ金貨
もし重さが620グラムなら→ニセ金貨は2枚→Bの袋がニセ金貨
もし重さが630グラムなら→ニセ金貨は3枚→Cの袋がニセ金貨


●ラストの問題

 以下の単語の中で一つだけ共通点のないのはどれか? 借用、外泊、敗北、欠勤。

 回答。「敗北」。借用、外泊、欠勤の三つは「無断」という言葉を付けることができるが、「無断敗北」はない。

備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第11位にランキングされた。
 
 

#40 殺しの序曲 THE BYE-BYE SKY HIGH I.Q. MURDER CASE
日本初回放送:1978年


天才犯人と天才刑事の戦い!オリバーがコロンボに出す「金貨のクイズ」と、ラスト直前に二人が互いの生い立ちを語り合う箇所が、クライマックスに結びついている。その驚くべきクライマックスに注目!


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
オリバー・ブラント・・・セオドア・バイケル(田中明夫)
ビビアン・・・サマンサ・エッガー横山道代
マイク・・・ケネス・マース(小松方正
バーティ・・・ソレル・ブーク(高木均


演出
サム・ワナメイカー


脚本
ロバート・マルコム・ヤング

 

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