感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第23話「愛情の計算」

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刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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perry-r.hatenablog.com
 

第23話 愛情の計算 MIND OVER MAYHEM (第3シーズン(1973~1974)・第6話)

 

あらすじ

刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!息子の受賞論文が盗作だと知った父親が、その秘密をにぎる教授を殺害。鉄壁のアリバイにコロンボが挑む!


人工頭脳学調査研究所の所長ケーヒルは、最愛の息子ニールが今年最高の科学者として表彰される前日、息子の論文が盗作だと知らされる。その秘密を握る同研究所のニコルソンは、受賞を辞退しなければ真実を暴露するという。息子を守るため、ケーヒルはニコルソンを殺害し、超高性能ロボットを使用して鉄壁のアリバイを準備する。

●序盤

 シンクタンク「人工頭脳学調査研究所」の所長マーシャル・ケーヒルは、所員のハワード・ニコルソンから、ケーヒルの息子ニールが、すでに亡くなっている科学者の研究論文を盗用して発表したことを教えられる。ニールは翌日開催される科学者たちの会合で、その研究を表彰される事になっていた。ニコルソンはニールが表彰を辞退しなければ、事実を世間に公表すると言って立ち去ってしまう。

 ケーヒルは息子を守るためニコルソン殺害を決意し、まず自分が行っているコンピューター端末の操作を、ロボットMM7(エムエムセブン)に代行させて部屋を抜け出した。そして車で家の外にいたニコルソンをひき殺した後、死体を家の中に運び、来客があったように偽装しつつ、さらに現金とヘロインを盗む。そしてすぐに部屋に戻り、ロボットから作業を引き継ぎ、ずっと部屋の中にいたようなふりをする。



●中盤

 ニコルソンの死体が発見され、コロンボたちが捜査を開始するが、現場は来客があったように見えるのに、同時に現金とヘロインが盗まれており、コロンボは顔見知りの犯行なのか物取りの仕業なのかで悩む。

 コロンボは、ニコルソンのパイプが家の外で破片になっているのを見つけ、家の外で車にはねられて殺された後、犯人が死体を家に運んで偽装工作を行ったと正しく見抜く。そして所員用の車の一台の走行距離が記録より5キロ増えており、ニコルソン宅との往復にちょうどのことから、犯人はシンクタンクの所員の誰かと考える。それを聞いたケーヒルは、すぐに自分は犯行時間帯にはコンピューター操作をしていたとアリバイを主張する。

 やがてコロンボは所内で天才少年スペルバーグと出会い、彼の開発したロボットMM7の存在を知る。そしてMM7はプログラムの入れ替えで人間のどんな作業でも代行できることを知り、ケーヒルが行っていたコンピューター操作も代行できることを確認する。しかしケーヒルは、それは自分の犯行の証拠にはならないと切り捨てる。



●終盤

 ケーヒルは、ニールが記者会見を開いて自分が研究を盗用したことを認める発表したと知り愕然となる。さらにコロンボが現れ、ニールがニコルソン殺しの犯人だと言い、ニールはニコルソンの若き妻マーガレットと不倫関係にあったのが動機だと言って、ニールを連れて行ってしまう。

 ケーヒルは慌ててコロンボを追いかけ、自分の犯行だと自白する。コロンボは最初からケーヒルを疑っていたと言い、ニコルソンの家に残っていたマッチは葉巻を吸うために使用した物であり、犯人は葉巻使用者だと考えていたことを説明する。
 
 
監督 アルフ・ケリン
脚本 スティーブン・ボッコ&ディーン・ハーグローブ&ローランド・キビー(原案:ロバート・スペクト)


感想

 評価は○(ぎりぎりで)。

 ストーリーや犯人のキャラクターより、「ロボット・ロビーが登場」や「天才少年の名前がスティーブン・スペルバーグ」というトリビアの方が有名なエピソード。途中までの展開は悪くないのだが、事件の決着の付け方が納得がいかず、あまり良い評価は付けられない一作だった。


 オリジナルのサブタイトル「MIND OVER MAYHEM」は、意訳すれば「騒乱の心」。あまり意味がピンと来ないが、検索すると同じタイトルの映画や本が見つかるので、アメリカでは普通の言い回しなのかもしれない。邦題は「愛情の計算」とまるで関係ない物になっているが、犯人ケーヒルの息子を思うあまりの殺人、というニュアンスが感じられて好評価である。


 このエピソードは、犯人ケーヒルシンクタンクの所長という正真正銘の頭脳派という設定になっているが、それにふさわしく、殺人の後、冷静に犯行現場にわざと来客と物取りの両方の痕跡を残して捜査をかく乱しようとするなど、最初は知能犯らしさが良く出ていた。しかし、最終的には、マッチの燃えさし、破壊されたパイプ、ドアの靴のクリーム、などの真の証拠をかなり残していたことも明らかになってしまってはいたが、優秀な科学者でも犯罪の実行はそう上手くはいかない、ということかもしれない。

 コロンボの方も天才集団に負けじと、誰もが見逃すドアについた靴のクリームの痕跡から、すぐに犯人が死体を抱えて部屋に入ってきたことに加え犯人の身長まで割り出したり、ヘロイン盗難が偽装と見抜いたり、と頭が切れるところを随所に見せ、途中までの雰囲気は悪くなかった。

 問題は事件の決着の付け方で、コロンボは、直感では犯人と確信していても状況証拠しかない相手をねじ伏せるため、いつもの様にわなを仕掛けるのだが、そのやり方がルール違反過ぎである。ケーヒル心理的に参らせるため、息子ニールが犯人だと偽の証拠を次々とでっち上げて、無実を訴えるニールをケーヒルの目の前で逮捕するという大芝居を敢行するのは、あまりにもあまりとしか言いようがない。親子の情を利用するという作戦だとしても、罪も無い人間を一度的とはいえ殺人犯呼ばわりさせて連行するというのは、あまりにもいただけないやり口だった。

 途中までは悪くなかったのだが、こういうやり方で決着をつけたことで、悪い印象しか残らなかった。シナリオは原案一人に脚本が三人の四人がかりで作成していたのだから、もう少し後味の良いラストにして欲しかった。


 さて、このエピソードは、事件については語ることは余り無いのだが、本筋とは関係のない部分で語る要素が満載である。

 本作では、第10話「黒のエチュード」、第16話「断たれた音」に続いてまたコロンボの愛犬が登場している(相変わらず名前は無し)。コロンボと謎の「校長」が話していて「校長:退学するのが彼のためです」「コロンボ:心配していたんです。うちでも問題を起こしてまして……」という穏やかでない会話の後、床に寝そべった犬が登場し、これが犬の訓練学校の話と分かる、という展開がユーモラスで楽しかった。


 今回コロンボは、いつも使用しているメモ帳は「何を書いたか解らなくなる」という理由で使わず、代わりにハイテク機器(?)のマイクロカセットレコーダーを使用している。マイクロカセットが開発されたのが1960年代末ということなので、当時としては最新の機器だった事になるわけだが、どこに何を録音したのか解らなくなるのはメモ帳以上だと思われ、コロンボとしては記録内容の管理にさらに苦労したのではなかろうか。


 劇中に天才少年「スティーブン・スペルバーグ」(Stephen Spelberg)というキャラが登場したが、この名前はもちろん映画監督スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)の名前からとられている。スピルバーグは第一シーズンの「構想の死角」を監督したが、シナリオのスティーブン・ボッコ&ディーン・ハーグローブが敬意を表してキャラ名に登場させたとのこと。当のスピルバーグはこのキャラ名を知っていたのか気になるところである。


 スペルバーグ少年が開発したロボット「MM7」(エムエムセブン)は、本作オリジナルのメカではなく、SFファンなら誰でも知っている級の有名SF映画「禁断の惑星」(1956年公開)に登場したロボット「ロビー・ザ・ロボット」(Robby the Robot)である。何故本作に唐突に登場したのか理由は今ひとつわからないが、ユニバーサルの倉庫に保管されていたのを見つけてきたのだろうか。

 ちなみにMM7は胸の部分のスロットにカセットの様なものを出し入れして「プログラム」を入れ替えるという設定だったが、このカセットはよく見ると「8トラックカセットテープ」である。磁気テープにプログラムが保存されているというのは一見筋が通っているが、ちゃんと理解しての事だったのか、たんにそれっぽい物を出し入れしたかっただけなのか、制作者の真意を知りたいところである。

ロビー
ブロマイド写真★『禁断の惑星』/ロビーの全身/【ノーブランド品】


 犯人の息子ニールを演じたのはロバート・ウォーカー。この人は「スタートレック 宇宙大作戦」の「セイサス星から来た少年」でゲストキャラ・ピーターを演じていた。成長はしていたのだが、なんというか、妙に特徴のある顔付きなので一目で解った。


 冒頭のシーンでは、ケーヒルと軍人たちが第三次世界大戦の戦略についてシミュレーションをしているが、しかしコンピューターは補助的な役割をしているだけのようで、世界地図を広げた形のテーブルの上で、軍人たちが兵器を現すマークを手で持った棒で動かしている、というシーンが時代を感じさせた。このエピソードが放送されたのは今年2020年から半世紀以上前の1974年ということで、コンピューターの能力もまだ限定的だったというのが良く解る興味深いシーンだった。


 コロンボによれば、ヘロインの化学式は「C21H23NO5」とのこと。確かにこの記号しか書いていない缶を持っていく麻薬中毒者はいないだろう。ちなみにケーヒルはこの缶をどうしたのかはついに描写されなくて、最後まで気になった。財布同様に酸の中に放り込んだのだろうか。


その他

 放送時間:1時間16分。
 
 

#23 愛情の計算 MIND OVER MAYHEM
日本初回放送:1974年


ロボットをアリバイに使うという大胆なトリックが。そのロボットを操るスティーブン・スペルバーグなる天才少年も登場するSF色にあふれた1作。ラストのシーンはコロンボの“粋”な部分を感じさせる。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
マーシャル・ケーヒル・・・ホセ・ファーラー鈴木瑞穂
ニコルソン・・・リュー・エアーズ(真木恭介)
ニール・・・ロバート・ウォーカー原田大二郎
ティーブ・・・リー・H・モンゴメリー(手塚学)
マーガレット・・・ジェシカ・ウォルター(谷口香)


演出
アルフ・ケリン


脚本
ティーブン・ボッコ
ディーン・ハーグローブ
ローランド・キビー

 

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