感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第10話「黒のエチュード」

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刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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第10話 黒のエチュード E'TUDE IN BLACK (第2シーズン(1972~1973)・第1話)

 

あらすじ

一流楽団の理事長の娘を妻に持ち、楽団の指揮者も務めるアレックス・ベネディクトは、愛人のピアニスト、ジェニファーから離婚を迫られていた。離婚すれば今の地位を確実に失うアレックスは、コンサート本番前に楽屋を抜け出し、彼女を殺害。用意しておいた遺書をタイプライターに残して自殺に見せかけた。だが、タキシードの襟につけていた花を現場で落としたことに気づく。

●序盤
 
 指揮者アレックス・ベネディクトは、楽団の理事長の娘ジャニスと結婚していたが、その一方で楽団のピアニスト・ジェニファー・ウェルズと浮気をしていた。しかしジェニファーが、離婚して自分と一緒にならなければ二人の仲を公表すると脅してきたため、地位を失いたくないベネディクトはジェニファーを殺すことにした。

 ベネディクトはコンサート前に楽屋からこっそり抜け出すと、ジェニファーの自宅に向かい、彼女の後頭部を殴って昏倒させた後、偽の遺書を残し、ガス自殺に見せかけ、また楽屋に戻る。やがて、本番直前になってもジェニファーが会場に来ないため、ベネディクトの秘書がジェニファーの自宅に警官を差し向け、ジェニファーの死体が発見される。


●中盤

 ベネディクトはジェニファーの死の知らせを受け、彼女の家に向かうが、タキシードにつけていた花を犯行時に現場に落としていたことに気が付き、こっそり拾って付け直す。そのシーンを現場に来ていたコロンボに見られるが、ベネディクトは今落したのを拾ったのだと嘘をつく。

 コロンボは、ベネディクトに、才能と美貌を兼ね備え前途洋々のジェニファーが自殺したことが納得できないと話すが、ベネディクトは芸術家なら有りそうな話だと誤魔化す。しかし、さらにコロンボは、ジェニファーが可愛がっていたペットのボタンインコを死の道連れにしたこと、タイプライターに残されていた遺書は打った後紙を挿し直した形跡があること、等から、自殺では無いと疑う。ベネディクトは、コロンボから、警察は殺人の方向で捜査を進めることにしたと知らされる。

 コロンボは、ジェニファーの元恋人ポール・リフキンから、三か月前彼女が新しい男に乗り換えたという事実を掴む。

 コロンボは、ジェニファーと親しかった少女オードリーから、犯行当夜タキシードを着た男が彼女の家を訪ねてきたという証言を得る。そしてオードリーを関係者に合わせるが、彼女が指摘したのはポールだった。それでもコロンボはポールの無実だという言葉を信じる。



●終盤

 コロンボはベネディクトを呼び出し、録画映像を見せ、コンサート時にはタキシードに花が無かったのに、ジェニファー宅から出る時には花が付いていたことを指摘する。コロンボは、ベネディクトは犯行時に花を落とし、そのあとやってきた際に花を拾って付けたのだと看破するが、ベネディクトはコンサート後に楽屋で付けたのだと切り返す。そして妻のジャニスに肯定してもらおうとするが、ジャニスは否定する。負けを認めたベネディクトはおとなしく連行されていく。


監督 ニコラス・コラサント
脚本 スティーブン・ボッコ(原案:リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク)


感想

 評価は○(まずまず)。

 第2シーズンの幕開けとなるエピソード。ラストの犯人との決着のシーンがいささか弱いものの、全体的にはそつなくまとまっており、佳作と呼んで差し支えない一作。


 コロンボが、当初自殺と思われていた事件に対し、自殺の際に可愛がっていたペットを道連れにするだろうか?、という些細な点に疑問を抱くところから始まり、タイプライターの遺書の紙のズレなど、細かい状況証拠を積み重ね、やがて誰も疑っていなかった真犯人に迫っていく、という流れはコロンボのストーリーの王道ともいえる内容で、見ていてとても楽しい。

 序盤、ジェニファーの死体が見つかるシーンでは、クラシック曲をBGMに、ベネディクトの指揮シーンと、警官がジェニファーの家に突入するシーンが交互に描かれるのが妙に印象的である。そしてベネディクトがふと胸についているはずの花がないのに気が付くと同時に、悲鳴のような声(インコの鳴き声)が響くのにはちょっと驚かされた。


 コロンボと対決するアレックス・ベネディクトは、コロンボの台詞を聞いていると全国的に有名な指揮者のようで、対決する相手として「格」は申し分ない。コロンボが結構無作法に財産について質問してくるのに、スマートに対処するシーンなども大物感がある。

 もっとも、完全犯罪を狙ったにしては、うっかりフル装備のタキシードで犯行現場まで行ってしまい、結果現場に花を落としてしまう、という大失敗をおかしてしまう、など粗が多々見られるが、ベネディクトはあくまでも音楽のプロであって、犯罪のプロではないのだから、それは致し方ない気もする。


 最終的には、その花が決め手となり、コロンボに敗れてしまうわけだが、しかしながら事件の決着としてはかなり弱い展開ではある。この花でコロンボが言えるのは「犯行当日ベネディクトがジェニファーの家に来ていた」という事だけであり、ベネディクトが殺人の犯人かどうかについてはまた別問題、というより証明できていない。ベネディクト側は、浮気については認めても、殺人については無罪放免を勝ち取るのも難しくなさそうである。

 まあ、もっとも、例え殺人の罪は逃れられても、厳格な理事長のリジーが浮気したベネディクトをそのままにしておくはずも無く、その後離婚は必至である。つまり「離婚したくなくて殺人を犯した」にも拘わらず、もう捕まった時点で離婚は回避不可能なわけで、どちらにしろベネディクトは「詰んで」いる。ということまで考え合わせると、事件は「コロンボの完勝」ではないが「犯人の完敗」にはなっていて、それなりに決着はついている気もする。


 序盤、コロンボがベネディクトの豪邸に圧倒されつつ、自分の年俸は11,000ドルだと口にするシーンがある。当時の為替レートを調べてみると、

円相場
http://yasuma-guitar.com/ensouba.html

 
 放送された1972年(昭和47年)は1ドル301円となっており、つまり年収331万円ということになる。ただし当時の物価などのデータと照らし合わせないと、これが安月給なのか結構もらっているのかはイマイチ解らないのがもどかしいところ。

 このエピソードでは、コロンボが犬(バセット・ハウンド)を獣医に連れて行き、「池で溺れかけていたのを助けた」云々と語る場面がある。この後、ちょいちょい登場するコロンボの愛犬の初登場である。もっともこのエピソードでは名前は付いていない。コロンボは獣医に「ファイド」という名前を提案されていて、事件で知り合った女の子のオードリーに「ファイドなんてどう?」と聞くのだが、オードリーは即座に「うわっ、ダサいの。信じられない」と切り捨てるシーンが妙に面白い。

 このエピソードは「日本初回放送:1973年」と書かれているにもかかわらず、吹き替えキャストの中に「富永みーな」氏の名前があり、そんな昔から仕事をしているのかと驚いたのだが、調べてみると面白い裏話があった。実はこの作品は「オリジナルの75分版」と「追加撮影して尺を伸ばした96分版」という2バージョンが存在し、日本では当初はオリジナル75分版が放送されたものの、その後96分版の方が放送されるようになったそうである。

 吹き替え声優は「75分版/96分版」で

・アレックス・ベネディクト(ジョン・カサヴェテス)…長谷川哲夫/阪脩
・リジーマーナ・ロイ)…本山可久子/麻生美代子
・ジャニス(ブライス・ダナー)…赤沢亜沙子/寺田路恵
・ポール(ジェームズ・オルソン)…岡部政明/野島昭生

 となっているそうで、当然富永みーな氏も96分版で新規に参加したということだろう。ちなみに75分版は今は流通していない幻の作品となっているとのこと。


 サブタイトルは原題「E'TUDE IN BLACK」で、日本語訳もほぼ同じ。エチュードとは音楽用語で「練習曲」の意味だが、「黒の中の練習曲」とは、英語の響きとしてはカッコイイが、作品内容との関連性は感じられず、ノリだけで付けた感じがして、あまりピンとこない。英語版も日本語版ももうひとつである。


備考

 放送時間:1時間36分。
 
 

#10 黒のエチュード E'TUDE IN BLACK
日本初回放送:1973年


インディペンデント映画の父といわれるジョン・カサベテスが犯人のアレックス役を熱演!彼の監督作品4本に出演したピーター・フォークとの親交は有名。コロンボの愛犬ドッグが初登場!


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
アレックス・ベネディクト・・・ジョン・カサベテス(阪 脩)
ジー・・・マーナ・ロイ麻生美代子
ジャニス・・・ブライス・ダナー(寺田路恵)
ポール・・・ジェームズ・オルソン野島昭生
ジェニファー・・・アンジャネット・カマー(有馬瑞香


演出
ニコラス・コラサント


脚本
ティーブン・ボッコ

 

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