感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第1話「殺人処方箋」

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放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 
 

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第1話 殺人処方箋 PRESCRIPTION:MURDER (1968年・単発テレビ映画)

 

あらすじ

精神分析医のレイ・フレミングは、患者の若い女優と愛人関係にあった。彼は妻のキャロルから、離婚してこのスキャンダルを公表すると言われ、愛人と共謀して妻の殺害計画を実行する。自宅で強盗に襲われ殺されたように工作し、その後、キャロルに変装した愛人と共に、大芝居を打って完璧なアリバイを作った。

 
 精神分析医レイ・フレミングは、患者の若手女優ジョーン・ハドソンと愛人関係にあった。フレミングの妻キャロルは半年前浮気に気が付き、フレミングに対し浮気を止めなければ離婚した上でこの事実を公表すると脅したため、フレミングは表面上はジョーンと別れたことにしていたが、実際はその後も関係を続けていた。フレミングの財産は全ては実家が資産家の妻キャロルの物であり、自分から離婚するわけにはいなかった。

 フレミングは妻キャロルの殺害を決意し、まず自室でキャロルを絞殺した後、自宅に強盗が入って妻を殺したように偽装した上で、キャロルに変装したジョーンと空港まで出かけ、空港で喧嘩を演じてキャロル(正体はジョーン)が一人で自宅に帰ったように見せかける。そして自分はそのままメキシコのアカプルコに旅行に向かい、現地でアリバイを作る。これによって、妻の死が発覚しても、自分が留守の間に自宅に押し入った強盗がキャロルを殺害した、と警察に思わせる計画だった。

 フレミングが旅行を満喫して帰宅すると、自宅にはロサンゼルス警察殺人課のコロンボ警部が待ち構えており、自宅に強盗が押し入ったらしいと説明されるが、同時にキャロルがまだ生きていると知らされ動揺する。しかしキャロルは意識不明で、最後にフレミングの名前を呼んだだけで死んだため、フレミングの犯行が発覚することはなかった。

 コロンボは、フレミングが帰宅時に妻へ挨拶をしなかったこと、空港の荷物検査の結果から旅行中に何か重い物を現地で捨てたらしいこと、等からフレミングに疑いを抱く。フレミングはしつこく自分の前に現れるコロンボに辟易し、知人の検事に話してコロンボを事件の担当から外すように圧力をかける。

 その後、ジョーンの前にコロンボが現れ、フレミングが妻キャロルを殺し、ジョーンがその共犯だとズバリと言ってのける。ジョーンは必死にしらを切るものの、コロンボは徹底的にジョーンを追及して白状させると脅しをかけ、実際に部下にジョーンを張り付かせる。怯えたジョーンはフレミングに助けを求めるものの、フレミングはそれこそコロンボの思うつぼと言って会おうともしない。

 翌日。フレミングはジョーンが自宅で睡眠薬を飲んだあとプールで入水自殺したと知らされる。コロンボはジョーンがいない以上、もうフレミングの犯行は立証しようがないと白旗をあげるが、同時にフレミング愛する人を失ってしまったという。ところがフレミングはジョーンを愛してなどいなかったと言い、もし自分が犯人ならば今後口封じのためジョーンを殺してしまったかもしれない、と仄めかす。

 しかし、直後フレミングの前に生きているジョーンが現れ、その言葉を聞いていた事を明かす。呆然とするフレミングをしり目に、フレミングの本心を知ったジョーンはフレミングに愛想をつかし、コロンボに供述を始めるシーンで〆。

感想

 評価は○。

 1時間40分枠の長尺版。記念すべきシリーズ第一作目だが、基本パターンは既に確立されており、雰囲気などがかなり後の作品と異なるものの、これはこれで面白い一作である。


 コロンボのキャラクター造形で、髪型がきっちりしているところや、古びたレインコートをトレードマークにしていないところ、などは後の作品とは結構違うが、のべつまくなしに葉巻を吸うところ、油断させておいて帰り際に追加質問するところ、カミさんの話を織り交ぜてくるところ、などの要素は既にこの作品で登場している。

 と、このようにコロンボのキャラクターはその後の作品とさほど変化が無いが、この作品が後続作品と全く違っている点があり、それは「コロンボが主役ではない」という事である。クレジットでは主演がピーター・フォークとなってはいるが、ドラマの焦点は常にフレミングジーン・バリー)にあてられており、コロンボが警察署にいたり、上司と話していたりするシーンなどは一切描かれない。最初から最後まであくまでフレミングの物語なのである。ラストシーンで、ジョーンから供述を取るコロンボは画面の奥に行ってしまい、手前にフレミングが映ったままエンドとなる、ということからもそれが良く解る。


 フレミングの犯行は、冷酷な知能犯が立てた計画だけあり、シンプルでありながらそれゆえに隙が無く、決定的な証拠という物が全く無い。コロンボはフレミングが帰宅時にいるはずの妻に挨拶をしなかったことや、病院で妻が死んだときの表情、旅行先で4Kgも何か捨てたらしいこと、捜索したはずのフレミング宅に忽然と手袋が現れたこと、等の要素を組み合わせ、フレミングの犯行と推理するものの、犯行を立証する目途が立たない。シリーズ一作目にして最強の犯人という感もある。

 そこでコロンボは共犯と目星をつけたジョーンに矛先を向けるわけだが、一つだけ気になるのはコロンボはジョーンをどうやって共犯者だと特定したのか、という事であろう。ジョーンとコロンボの接点は、ジョーンがフレミングの診療所に来た時に顔を合わせたというくらいなのだが、もうこの時点でコロンボはジョーンに名前を尋ねるなど疑っている節が伺える。後半、コロンボがジョーンが共犯と決めつけて追い込みをかけると宣言するが、何故その結論に至ったのかという点はやや唐突に映った。

 この際、コロンボはジョーンにきつい言葉で恫喝するような態度を見せるが、こういうシーンは以降のコロンボ物には全く見られなくなるので、かなり印象的ではあった。

 それにしても、ジョーンは犯行直後にサングラスを持ってこなかった云々と慌てたり、キャロルの手袋をクリーニングに出すのを忘れたり、連絡するなと言われたのにそれを早々に破るなど、フレミングの側からすると実に頼りない上に危なっかしく、視聴者の立場でも見ていてハラハラさせられるキャラクターである。フレミングも無理やり犯行の手順を暗記させたりせずに、必要なことを記入したメモでも渡しておいて、メモ片手に作業を実施するようにさせた方がよほど良かったのではなかろうか。


 最後、コロンボはお得意の罠で犯人を引っ掛けて決定的な証拠を引き出すことに成功するが、この際コロンボが使ったのが「フレミングに対し、ジョーンの替え玉を本人の死体だと思わせる」という方法で、これがフレミングが使った「妻キャロルの替え玉ジョーンを本人だと思わせる」という手と対になっているのが面白い。


 サブタイトルの原題「PRESCRIPTION:MURDER」とは英語で「処方箋:殺人」の意味で、日本語サブタイトルは直訳だった訳である。今一つ作品内容を反映しているとは思えないので、もっとしゃれた日本語タイトルにして欲しかった、という気がしなくもない。


 このエピソードは、シリーズのその後の作品と比べると、サスペンス感というかがややきつめに感じ、視聴してやや重苦しい気分になる内容ではあったが、完成度的にはまずまずというところではある。この作品をシリーズ化したいと思った関係者の気持ちも良く解るという物である。


備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第12位にランキングされた。
 
 

#1 殺人処方箋(しょほうせん) PRESCRIPTION:MURDER
日本初回放送:1972年


記念すべきシリーズ第一作。本作は単発のTV用映画として制作されたため、以降の作品とは異なり、ロールシャッハ・テスト風のグラフィックをモチーフとした独特のオープニングがつけられている。数々の映画音楽を手がけているデイヴ・グルーシンが音楽を担当。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
レイ・フレミング・・・ジーン・バリー(若山弦蔵
ジョーン・・・キャサリンジャスティス(高島雅羅
キャロル・・・ニナ・フォック谷育子
バート・・・ウィリアム・ウィンダム寺島幹夫


演出
リチャード・アービング


脚本
リチャード・レビンソン
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