感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第11話「悪の温室」

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刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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第11話 悪の温室 THE GREENHOUSE JUNGLE (第2シーズン(1972~1973)・第2話)

 

あらすじ

信託扱いで手を出すことができない父親の遺産を手に入れたいと、甥(おい)のトニーから相談されたジャービス。緊急事態になれば現金を引き出せるため、ジャービス狂言誘拐を提案。トニーが誘拐されたことにして、彼の妻キャシーに身代金を要求する脅迫状を送りつけた。犯行後、大金を手にして喜ぶトニーを射殺したジャービスは、キャシーの犯行に見せかけるが・・・。

●序盤

 ジャービス・グッドインは、甥のトニーをそそのかし、トニーに自分自身の偽装誘拐で身代金を手に入れる計画を実行させる。トニーの父親でジャービスの兄の残した莫大な財産は信託になっており、トニー自身が勝手に使う事が出来ずにいた。トニーは妻のキャシーの浮気に手を焼いており、もし大金が手元に有ればキャシーは戻ってくると考えていたため、ジャービスの計画に乗ることにしたのだった。

 ジャービスとトニーは、トニーの車に発砲したあと。がけ下に転落させて、トニーが何者かに襲われたように偽装する。続いてトニーの自宅に脅迫状を送り、身代金として30万ドルを要求する。事件の担当となったコロンボと相棒のウィルソンは、あくまでトニーの安全を優先させ、事件の成り行きを見守る。

 ジャービスは、身代金の支払いのため銀行の信託財産を現金化させ、その金を犯人役を演じたトニーに手渡すが、すぐに射殺して金を自分の物にしてしまう。


●中盤

 コロンボは、ジャービスに、誘拐犯がトニーの車に発砲していたものの、角度からするとトニーに命中していなければおかしいと話すが、ジャービスは適当にごまかす。コロンボは、ジャービスも犯行に使われたのと同じ32口径の銃を持っていて、昨年温室で侵入者相手に威嚇射撃した話をするが、ジャービスはそれも上手くかわす。

 やがてトニーの死体が発見され、同じ部屋から犯人二人組がいたらしい痕跡も見つかるが、コロンボはあまりにあからさま過ぎる証拠に疑問を表明する。

 コロンボは、トニーの浮気相手のグロリアから、トニーは近々5万ドルの大金を手に入れて、妻キャシーの浮気相手に渡して別れてもらうつもりだった、という情報を聞き出す。

 グロリアはジャービスに連絡し、トニーは妻のキャシーと組んで偽装誘拐を演じたものの、キャシーに裏切られて殺されたに違いないという。その話にヒントを得たジャービスは、キャシーの家に忍び込み、キャシーの所有する32口径の拳銃と自身の拳銃を取り換えておく。

 そのあと、キャシーの拳銃を自分の物だといって警察に提出した後、キャシーが怪しいと言って警察に家宅捜索を要求する。ウィルソンは、拳銃と身代金が入っていたカバンを発見しキャシーを逮捕する。


●終盤

 ジャービスが帰宅すると、温室にコロンボが待っており、そこにウィルソンやキャシーもやってくる。コロンボは、金属探知機を使ってジャービスの温室で発見した弾丸が、トニーの車に打ち込まれた弾丸、トニーを殺した弾丸、と同じ銃から発射された事実を示し、それがなぜキャシーの家から発見されたのかと言う。負けを認めたジャービスはウィルソンに連行されていき、コロンボはキャシーを家まで送るという。


監督 ボリス・セイガル
脚本 ジョナサン・ラティマー


感想

 評価は△(いまいち)。

 変則的なストーリー展開でコロンボ物の持ち味である犯人との対決シーンが少ない上に、説明不足のストーリー、感情移入できない登場キャラのオンパレード、等、何から何までイマイチな一作。


 このエピソードで一番有名なのは、相棒キャラのウィルソン刑事が登場する事だろう。過去の事件では一人で自由に捜査していたコロンボが、この事件では、序盤に上司のリッチー主任(名前だけ登場)からの命令でウィルソンを下につけられる、という流れでコンビを組むことになる。

 ウィルソンは現場に出たばかりの若手ではなく、過去に殺人課に1年間勤務した後、バークリーの警察学校で2年間研修をしてから再び現場に戻ってきた、という経歴の持ち主。多分署で将来を嘱望されている有望株と思われ、現場でも全てをキビキビこなしているところが描写されるが、普段からどちらかというとのんびりしたペースのコロンボはウィルソンの勢いを持て余し気味で、「張り切りボーイ」などと評価しているあたりはちょっと面白い。

 ウィルソンのキャラクター自体は好感が持てるのだが、やはりコロンボ物の基本フォーマットである「コロンボが一人で神出鬼没で好き勝手にあちこちをうろつきまわり、犯人を追い詰めていく」という展開には出しずらかったのか、レギュラーにはなっていない。とはいえ、のちに、第36話「魔術師の幻想」で再会を果たす事になった。


 この話では、コロンボが序盤に、がけ下に転落した車までウィルソンが案内する「近道」を歩いて行こうとするものの、傾斜が急すぎて足が止まらなくなった挙句、派手な勢いで転んでしまう場面が衝撃的である。芝居とは分かっていても、ピーター・フォーク自身が演じている上に、転び方がかなり危ないので見ていてヒヤッとさせられた。またコロンボジャービスの屋敷でビリヤード台を見つけ、嬉しそうにプレイするシーンも見どころかもしれない。



 さて、本エピソードが面白くない理由の一つが、犯人であるジャービス・グッドインの説明が極めて薄いことだろう。はっきりしているのは「トニーの父親の弟」という事だけで、まず何の仕事をしているのか不明である。ランの愛好家であることはうかがえるが、どうもこれは趣味のようであり、これで生活しているようには見えず、高級車を乗り回している割には社会的地位が良く解らない。

 また何故トニーを殺して30万ドルを奪う事にしたのかも全く説明が無い。裕福そうに見えて実は金に困っていたのか、単にトニーから話を持ち掛けられて良い儲け話だと思っただけなのか、そのあたりの事情が全く見えず犯人像が薄っぺらい、というより謎の男になってしまっている。

 キャシーを嫌っていることは最初から描写されているが、彼女を陥れるのは、後から思いついたことであり、最初から彼女をハメる気ではなかったことなど、どうにもスッキリしないことが多すぎる犯人である。


 また、トニーとキャシーの夫婦の暮らしぶりも良く解らない。トニー自身は大金が自由にできないので、父親が残した信託財産を現金化しようとしたわけだが、そのわりに妻のキャシーは愛人と遊びまわり、ヨットも所有しているなどはぶりが良く、金に困っているようには見えない。この辺りもどうも設定と矛盾しているように思える。


 そして、設定の説明不足も問題だが、さらにストーリーの構成もいただけない。全74分のドラマにも拘わらず、ジャービスとトニーの偽装誘拐劇が半分を占めており、トニーが殺されるのが36分頃、さらに死体が見つかるのが44分頃、のため、このあとコロンボが殺人事件として捜査をする時間が30分しか残っていない。しかもこの30分の間に、ジャービスがキャシーを陥れる為の工作をする時間も含まれているので、コロンボが状況証拠を元に少しづつ犯人を追い詰めていく、という定番の展開が殆ど無いのも、本作が面白みに欠ける要因であろう。


 ついでに言うなら、本作の事件関係者は全員性格が悪すぎるのも話に入り込めない理由である。犯人のジャービスが甥のトニーもその妻キャシーもとにかく口汚く罵るところからあまり気分が良くないが、他にも、妻キャシーは浮気を全く隠そうともせず、愛人といちゃついているところにコロンボが来ると「いつから警察は道徳まで裁くようになったのか」と開き直って見せ、愛人ケンは、トニーが誘拐されて騒いでいるグッドイン家に平気な顔で居座り、トニーの浮気相手グロリアは、警察相手に情報を隠しておいて、「デカは好きになれない」といってジャービスに情報を伝えて金を得ようとする、など、全員感情移入を拒否するようなキャラばかりで、見ていて愉快ではない。

 まあ、それを言うなら、コロンボもキャシーに対し、ケンがトニーから5万ドルをもらえれば別れるつもりだった事を、ケンの目の前でばらすなど、妙に意地の悪いところを見せるなど、全体にギスギスした話だった感がある。本作のシナリオを書いたジョナサン・ラティマーという人は、本職は推理作家とのことで、コロンボ作品の担当もこの一作のみである。コロンボ物の作法とでもいうべきものを良く解っていなかったのかもしれない。


 ラストシーンだけは、犯人にぐうの音も言わさせないほどの証拠を持ち出して見せて痛快ではあったが、それ以外があまりにもイマイチすぎて、とても評価出来ないエピソードだった。


 本作のサブタイトルは、原題は「GREENHOUSE JUNGLE」で意味は「温室のジャングル」くらいだろうか。ほぼ事件と関係ないためピンとこないが、日本語もそれに引きずられたのか「悪の温室」と、やはり格好は良いものの作品内容と無関係なものとなっており、日米どちらもあまり良いタイトルとは思えない。


備考

 放送時間:1時間14分。
 
 

#11 悪の温室 THE GREENHOUSE JUNGLE
日本初回放送:1973年


今回はコロンボが“殺人”前に初めて登場。“殺人”発生まで時間がかかり、刻々と事件の様相が変化していくスリリングさが魅力の回。コロンボを助けるエリート部下のウィルソン刑事も登場。犯人役は「指輪の爪あと」にも出演したレイ・ミランド


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ジャービス・グッドイン・・・レイ・ミランド(臼井正明)
トニー・・・ブラッドフォード・ディルマン山田康雄
ウィルソン・・・ボブ・ディシー(野本礼三)
キャシー・・・サンドラ・スミス(阪口美奈子)


演出
ボリス・セイガル


脚本
ジョナサン・ラティマー

 

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