感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第26話「自縛の紐」

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刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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第26話 自縛の紐(ひも) AN EXERCISE IN FATALITY (第4シーズン(1974~1975)・第1話)

 

あらすじ

刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!健康クラブの経営者は、加盟店のオーナーに不正を見抜かれ、彼を殺害。その“完ぺきなアリバイ”とは?


健康クラブを経営するマイロ・ジャナスは、不正な経営で私腹を肥やしていることを加盟店のオーナーであるスタッフォードに見抜かれ、彼を殺害。トレーニング中の事故に見えるよう工作し、その後、自宅でのパーティーに何食わぬ顔で参加。スタッフォードからの電話の声を録音したテープを使って、あたかも彼と電話で話したように装った。これでアリバイは完璧だと思われたのだが・・・。

●序盤

 健康クラブを経営するマイロ・ジャナスは、傘下の加盟店に対し、不当な利益を上乗せした備品を買い取らせることで莫大な利益を挙げており、さらにその金を海外に違法に送金していた。しかし、加盟店のオーナー・ジーン・スタッフォードは、その悪事の一端をかぎつけ、マイロに対し、証拠を全て揃えてから他のオーナーたちと共にマイロに集団訴訟を起こすと宣告する。

 マイロはスタッフォードの口を封じるため、夜、支店に一人で残っていたスタッフォードを襲って絞殺した後、死体をトレーニング着に着替えさせ、トレーニング中にバーベルが首に落ちた事故死に偽装する。さらに何食わぬ顔で自宅に戻ると、秘書に同じ家から電話をかけておいて、外部から電話がかかったように誤解させ、あらかじめテープに録音してあったスタッフォードの声を聴かせて、まだ生きているスタッフォードからの電話がかかったように見せかける。


●中盤

 スタッフォードの死体が発見され、コロンボが捜査を担当するが、コロンボはスタッフォードが支店に一人しかいないのにロッカーを施錠していた事や、土足で床の上を全力疾走していたらしいことに注目する。またスタッフォードの未亡人ルースから、故人が経営の事でマイロと揉めていた事や、経理について調査していたことが判明する。

 コロンボはマイロからも聞き取りを行うが、マイロはスタッフォードがトレーニングの前にたっぷり食べていることはおかしいという疑問や、詐欺で前科の有る人物を雇っていることなどについて、あっさりとかわす。

 コロンボは、マイロの自宅の電話のライトが点灯せず内線と外線が区別できないこと、秘書がオフィスにかかってきた電話を全てテープに録音していること、スタッフォードが殺された夜にマイロに電話をかけて秘書が出たのに全く驚かなかったこと、等を把握していく。そして、スタッフォードが下敷きになった240ポンドのバーベルを持ち上げられるのは、マイロを含めて数人しかいないことを確認する。しかしマイロは、自分が自宅にいた際にスタッフォードから電話がかかった以上、自分には完全なアリバイがあると主張する。

 一方ルースは生前スタッフォードが雇っていた計理士の調査報告で、マイロが法律ギリギリの悪どい商売をしていることを知り、警察に訴えるものの、どうにもならないと知り、絶望で自殺を図る。コロンボはルースを見舞いに行くが、そこでマイロと殺人を結びつける決定的な証拠に思い至る。


●終盤

 コロンボはマイロのオフィスに乗り込み、マイロに対して、録音テープを使って、死んだスタッフォードがあたかも生きているように偽装できることを示す。

 そのあと、コロンボは、スタッフォードが死んだときに履いていたトレーニング用シューズの紐の結び目が、ロッカーに入っていた靴と逆になっていることを説明する。これはトレーニング用のシューズはスタッフォード本人が履いたのではなく、別の誰かが履かせて紐を結んだことを示していた。

 スタッフォードの死体が見つかるまで、スタッフォードがトレーニングの恰好でいることを知っていたのは、着替えさせた人物、つまり犯人しかいない。にも拘らず、マイロは事件当夜、スタッフォードからかかったと称する電話の受け答えでスタッフォードがトレーニング着である云々と語り、それは警察の記録に残っていた。犯人しか知らない事実を口にした以上、マイロしか犯人ではありえない。この論理にマイロは反論できなかった。
 
 
監督 バーナード・コワルスキー
脚本 ピーター・S・フィッシャー(原案:ラリー・コーエン


感想

 評価は◎(優)。

 倒叙物の傑作エピソード。コロンボが罠を仕掛けてポロを出させるのではなく、犯人が殺人の際に犯した些細だが決定的なミスを突破口として勝利をつかむ、という倒叙ミステリの王道的展開の一作。


 犯人マイロ・ジャナスは、健康クラブを初めとする会社の経営で一財産を築き、健康関係の番組でテレビにも出演する有名人、恋人でもある秘書は美人で、肉体は53歳なのに40歳代にしか見えないという若々しさ、と、健康・仕事・財産・恋愛・名誉、等、全てを得たような人物で、各要素のバランスという点ではシリーズで最も点数の高い犯人かもしれない。殺人についても、シンプルだが隙の無い犯行を敢行しており、コロンボも病院で偶然靴ひものヒントをつかまなければ逮捕できなかった可能性も高い知能犯だった。


 ストーリーは、コロンボが、ワックスに残った靴の跡、ロッカーの施錠、満腹でトレーニングしたらしいこと、床のコーヒーのシミ、マイロの手の火傷、電話のライトが点灯しないこと、といった、それぞれは些細な事柄を組み合わせ、的確にマイロに狙いを定めていく展開が巧みに描かれている。

 また珍しくコロンボが感情をあらわにするシーンもあり、終盤スタッフォードの未亡人ルースが自殺を図って病院に担ぎ込まれた際、見え見えの演技を見せるマイロを怒鳴りつけるシーンは、普段穏やかなコロンボだけに迫力があった。

 終盤のマイロを追い詰めるところは、徹底的に理詰めになっているため、映像で見た場合、直感的には理解し辛い。頭の中でコロンボの主張を反芻すればなるほどと納得できるのだが、ここはどちらかというと、映像作品ではなく文章で読んだ方がすっと理解できたと思われる。論理的には凄く面白いのだが、やや映像む向きでは無かったかもしれない。


 作品のサブタイトル「AN EXERCISE IN FATALITY」は、意訳すれば「致命的な運動」となり、スタッフォードの(偽装された死の)死因を意味しているのだろうが、もう一つピンと来ない。それに比べると、日本語サブタイトルは、犯人が「紐」によって自縄自縛の目に合う、という結末を実に的確に表現しており、絶品という他は無い。


 今回はコミカルシーンは一つだけで、コロンボがスタッフォードが雇ったという謎の人物「ルイス・レイシー」に面会するため、レイシーの勤務先を訪問するシーンのみ。

 コロンボはレイシーの勤務部署を知りたくて受付嬢に尋ね、受付嬢はコンピューターで検索した結果をプリンタで印字させるのだが、そのプリンターの印字速度がとにかく遅いため、焦れたコロンボが受付嬢に声をかけるものの、受付嬢は印刷中だと繰り返すだけでほぼ無視同然というコントのような状態に。しかも最後はレイシーは既に辞めていてここにはいなかった、という脱力オチまでつく。ただしこのコントは、結構時間を割いている割には、間延びしていてあまり面白くない。明らかに過去の放送では、この部分は丸ごとカットされており、この内容を見ればそれもまた致し方ないという気がした。


その他

 放送時間:1時間37分。
 
 

#26 自縛の紐(ひも) AN EXERCISE IN FATALITY
日本初回放送:1975年


本作はシリーズの原点に帰ったともいうべき、オーソドックスな倒叙ミステリーとなっている。犯行に至るまで、そしてコロンボが謎を解き明かすまでの1つ1つを丁寧に見せている。途中でコロンボが鼻歌を歌うシーンは吹き替えではなく、ピーター・フォークの生声。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
マイロ・ジャナス・・・ロバート・コンラッド日下武史
ルース・・・コリン・ウィルコックス(藤野節子)
バディ・・・パット・ハリントン(寺島幹夫
ジェシカ・・・グレッチェン・コルベット三田和代


演出
バーナード・コワルスキー


脚本
ピーター・S・フィッシャー

 

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