感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第30話「ビデオテープの証言」

刑事コロンボ完全版 1 バリューパック [DVD]

刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 

第30話 ビデオテープの証言 PLAYBACK (第4シーズン(1974~1975)・第5話)

 

あらすじ

刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!工業会社の社長がハイテク機器を使って義理の母を殺害。コロンボに事件解決の重要なヒントを与えたのは…?


ミダス電子工業の社長、ハロルド・バン・ウィックとその家族が住む邸宅は、彼が趣味で開発したハイテク機器でいっぱいだった。ハロルドは、会長でもある義理の母から、業績悪化の責任をとって社長を辞任するよう宣告され、さらには女性関係まで調べられてしまう。ついに腹をたてたハロルドは、ご自慢のハイテク・ビデオ機器を使って義母殺害計画を企てる。

●序盤

 ミダス電子工業の社長ハロルド・バン・ウィックは、妻の母親で会長でもあるマーガレット・ミダスから、かねてからの予告通り、会社の業績不振の責任を取り、翌朝までに辞表を出すように命じられる。またハロルドは、私生活でも表向きは足の不自由な妻エリザベスの良き夫を演じつつ、裏では複数の女性と浮気している事実を突きつけられる。マーガレットはハロルドをクビにした後は、実の息子のアーサーを社長に据える計画だった。

 しかしハロルドは以前からマーガレット殺害を決意しており、かねてよりの計画を開始する。ハロルドたちの住む屋敷は、金庫のある居間がテレビカメラで監視され、その様子がガードマン室のモニタに映るようになっていた。ハロルドは、まず偽の「誰もいない居間の映像」をガードマン室のモニタに映している間に居間でマーガレットを射殺しておき、そのあとアリバイ作りのために外出した。

 直後、ハロルドが仕掛けていた自動タイマーでマーガレットが殺される瞬間の映像がガードマン室のモニタに映し出され、慌ててガードマンが居間に向かい、マーガレットの死体が発見された。


●中盤

 コロンボは事件の捜査を開始し、マーガレットが射殺される瞬間のビデオ録画を見せられ、犯人がぎりぎり映っていないことを残念がる。また屋敷の全てのドアは、手を叩くとその音に反応して開くという機能が備えられている事にも驚く。

 警察は、犯人は物取り目的で窓をこじあけて侵入し、マーガレットに鉢合わせして射殺、慌てて何も盗まずに逃走した、と考えていた。しかしコロンボは、窓の外の足跡が、侵入時も逃走時も深さが変わらず、逃げていく際に全く慌てていなかったらしいことを不審がる。また庭の土の上には土の乾燥を防ぐ「マルチ」がまかれていたが、犯人の靴にくっついたはずなのに、家の中に落ちていないことも疑問を呈する。

 コロンボは、事件当夜のハロルドの行動を調査し、ガードマンや外出先の画廊の人間の証言で、午後9時13分に屋敷を出て、9時28分に画廊についたため、犯行時刻の9時30分には完璧なアリバイがあると解る。ハロルドは行く先々で時刻を確認して口にしていたため、誰もが正確な時刻を覚えていた。

 コロンボはハロルドの妻エリザベスに話を聞き、事件当夜、ハロルドが出かける前の午後9時頃に何かを聞いたような気がする、という証言を得る。エリザベス自身は夢ではないかと思っていたが、コロンボは目が覚めた時部屋の中が見渡せたという言葉から、音に反応するドアが開いて外から光が差し込んでいたことを示し、その時間帯に何が音がしたはずだと断言する。

 コロンボは犯行を録画した画像から、犯行時間を特定する手掛かりを得ようとする。


●終盤

 コロンボはハロルドを訪ね、ハロルドがマーガレットを殺し、殺害時の映像を自動タイマーを使ってガードマンに見せ、犯行時刻を誤魔化してアリバイを作ったと指摘する。その証拠として、コロンボはハロルドにマーガレット殺害を録画したテープの一部を拡大したものを見せる。それにはハロルドが犯行当夜に出かけた画廊の招待状が映し出されていた。この招待状はハロルドが外出するときに持っていった物、つまり犯行はハロルドがまた自宅にいる時間帯に起きた事を示していた。

 狼狽したハロルドは、エリザベスに、自分が出かけた後にマーガレットと会ったと証言してくれと懇願するが、エリザベスは拒否する。逃げられないことを知ったハロルドは警官と共に出ていき、残されたエリザベスは泣き崩れる。
 
 
監督 バーナード・コワルスキー
脚本 デイビッド・P・ルイス&ブッカー・T・ブラッドショウ

感想

 評価は◎(優)。

 1時間13分と短めで、またストーリーが展開するのはほぼハロルドの屋敷内だけ、とかなりコンパクトなエピソードだが、ラストの切れか良く、視聴後の満足度が高い一作だった。


 本作の犯人ハロルド・バン・ウィックは、自宅に「豪華なビデオ関連機器」「手を叩くだけで開くドア」「音を検知して動作する監視カメラ」等、不必要とも思えるレベルの電子機器を取り付け、さらに自分が開発したというデジタル腕時計を自慢げに見せびらかすなど、経営者というよりハイテク機器マニアとおぼしき人物である。

 冒頭で、義母のマーガレットが、ハロルドに、会社の業績不振を理由にクビを宣告するが、おそらく会社ではハロルドの方針で、趣味性の高いマニア向け機器ばかり取り組んでいたのだろうと容易に想像できる。このようにハロルドは「社長」という確かにセレブではあるが、いつものコロンボ作品に登場する「エリート」とはやや違ったニュアンスの人物に見える。

 ちなみに、デジタル式腕時計は、本作(1975年放送)の5年前・1970年に初の製品が売り出されたばかりで、、当時としてはまだまだ最先端の機器で、しかも初期製品は大学出の初任給が4万円前後だった時代に、日本円で約70万円もする超高級時計だったという。劇中でハロルドが会う人会う人に自慢げに時計を見せびらかしていたのはそういう理由だった訳である。


 物語は、1時間13分のショート枠で、主要なキャラクターはハロルドと妻のエリザベスのみ、また描かれるのも殆どハロルドの屋敷の中だけ、ということで、他の短め作品と比べてもなお「短編」という印象が強かった。実際、あまりストーリーに起伏は無く、コロンボがエリザベスとの対話で手掛かりをつかみ、あとはビデオ画像をにらんで比較しただけで事件は解決してしまう。

 にも拘わらず、この作品が面白いのは、一つはコロンボの推理力が存分に発揮される点で、エリザベスの何気ない言葉から、「目覚めたエリザベスが部屋の中を見渡すことが出来た」→「ドアが開いて光が差し込んでいた」→「何かの音でドアが開いていた」→「午後9時頃に間違いなく何かが起きた」、という事実をあぶり出していく過程がぞくぞくするほど面白かった。ベッドに寝転んだコロンボが手を叩いた瞬間ドアが開き、差し込んだ光でソファの上のピエロが見えるようになる、というシーンは実に印象的だった。

 もう一つは、終盤の、ビデオに録画された画像を拡大すると、ハロルドが考えもしなかった証拠「招待状」が映し出され自分の犯行とバレてしまうという展開で、何が映っているのかと視聴者をじらしておいてから、有無を言わせぬ証拠を突きつける、という展開は実に劇的だった。以前、数十年ぶりに視聴した時も、細かい展開は忘れていても、「映っているはずのない招待状が映りこんでいた」という点だけは完全に覚えていたくらいである。この結末部分のインパクトはコロンボ作品でも屈指だろう。


 作品のサブタイトル「PLAYBACK」は、実にシンプルな「再生」の意味。犯人が録画を再生して犯行時刻を偽装したことや、コロンボがテープの再生で証拠をつきつけたこと、など複数の意味にかけていると推測でき、シンプルだが悪くない。しかし、日本語サブタイトル「ビデオテープの証言」も味わい深く、個人的には日本語版に軍配を上げたい。


 犯人ハロルド・バン・ウィックを演じたオスカー・ウェルナーは、オーストリア出身で、かのフランソワ・トリュフォー監督作品の常連だった映画俳優。本作は彼が出演した唯一のテレビドラマとなった。ピーター・フォークは、ウェルナーに本作への出演を依頼するため、自らスイスまで出かけて交渉したとのこと。


 今回はコミカルシーンは、画廊(というか美術品店)に聞き込みに行ったコロンボが、現代風の難解な芸術作品に困惑し、最後には壁に取り付けてあった換気口を芸術作品と取り違える、という一幕。コロンボが画廊の店主に他人には黙っておいてほしい、と言っておきながら、後で自ら美人店員に失敗談として語るなど、お笑いシーンというよりは、息抜きのためのほのぼのエピソード風味だった。


その他

 放送時間:1時間13分。
 
 

#30 ビデオテープの証言 PLAYBACK
日本初回放送:1976年


殺人の舞台となった犯人ハロルドの邸宅にはユニークな仕掛けが。コロンボに事件解決の重要なヒントを与えてくれるハロルドの妻エリザベスを、ジーナ・ローランズが熱演。彼女は「黒のエチュード」に出演したジョン・カサベテスの妻である。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ハロルド・バン・ウィック・・・オスカー・ウェルナー山田吾一
マーガレット・・・マーサ・スコット佐々木すみ江
エリザベス・・・ジーナ・ローランズ(二階堂有希子)
アーサー・・・ロバート・ブラウン(佐々木功
フランシーン・・・パトリシア・バリー(曽我町子


演出
バーナード・L・コワルスキー


脚本
デイビッド・P・ルイス
ブッカー・T・ブラッドショウ

 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
刑事コロンボ完全版 2 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 3 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 4 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全捜査ブック