【エロゲ】謎めいた(?)エロゲ会社「ビジュアルアーツ」社長インタビュー記事

Kanon オリジナルサウンドトラック

2019年11月5日 11:33
Kanon」や「CLANNAD」「Angel Beats!」など…「泣きゲー」からアニメ原作まで、美少女IPを仕掛け続けた28年! ビジュアルアーツのユニークなブランド戦略と経営思想を馬場隆博社長に聞いてみた
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Keyをはじめ、スタジオメビウスSAGA PLANETStone work’s──近年ではアニメ制作からソシャゲまで、数々のヒットコンテンツをリリースし続けている株式会社ビジュアルアーツで、1991年に設立されてから28年間、ずっとリーダーとして采配を振るっているのが、同社社長の馬場隆博氏だ。

 
 から始まる、エロゲメーカー・ビジュアルアーツの社長へのインタビュー記事。

 ビジュアルアーツは「Key」を筆頭に色々なブランドを抱えている割に、会社としては前面に出てこないので(私にとっては)かなり謎な存在でした。Keyなんかも、「ブランド」というより一つの会社のようにふるまっているので(?)、ビジュアルアーツという会社がどういう物なのかは判然としなかった訳ですが、今回社長が会社の始まりから事細かく語ってくれています。

 以下引用多めでお送りします。
 
 
 

●始まりはこうだった

──それでは、まずは馬場社長のこれまでについて、お話をお聞きしたいと思います。馬場社長はどのようにしてPCゲームに興味を持たれたのでしょう?

まあ、言ってみれば純粋にビジネスとしてですね。自分が独立して何の仕事をしようか?と事業の柱を考えたとき、僕は何も持っていなかったんです。お金もない。そこで無限に増殖できるものを自分で作って、それを1個1万円で売って1億円稼ごう、と考えたんですね。ではそういうものはないか?と探した時にPCゲームに行きついた。

プログラムとシナリオを自分で担当してエロゲーを作ったんです。もともとプログラムはできたし、シナリオも書けるだろうな、と。「他人にできるなら、自分にもできる」というのがモットーなんです(笑)

『しぇいく!しぇいく!』(ボンびいボンボン!)。シナリオをたくさん書くのが嫌だったからクイズゲームにして、他のゲームでやっていないことをやりたくて、着信専用の電話回線を5本くらいひいて、そこに電話して流れる音声を聞きながらエロアニメを見られるというゲームを作りました。

 で、急遽ぜんぜんエロくない『うるま』というタイトルを出して、ようやくほとぼりが冷めたころに『しゃいくしぇいく 1・2 完璧版』、『ヌーク ~あばかれた陰謀~』を発売した。この『ヌーク』は売れましたよ。

 
 へー、ボンびぃでゲーム作っていたのかぁ。ヌークはなかなか面白かったですね。懐かし。
 
 
 

ビジュアルアーツフランチャイズ化の道

でも、あんまり作るのが大変なので、そこで自分でゲームを作るのをやめたんです。

その当時でも、ゲームソフト1本作るのに10カ月くらいかかっていたわけですよ。その時点で自分のビジネス人生をあと30年と考えて、作れるソフトは30本くらい。それも途切れることなく作り続けてですからね。
 これではあまりにも効率が悪いし、30年後に振り返ったときに机の上に乗るくらいのソフトがすべてというのを考えると、バカバカしくなってしまった。それで考えたのがフランチャイズ化だったんです。

その当時、同じようなアドベンチャーゲームなのに、各メーカーがタイトルごとに同じようなプログラムを作り、「プログラマーがいなくなりました」と言っては困り、というのを繰り返していたんですね。
 ならば共通のアドベンチャーゲームエンジンを作り、各メーカーはそれに絵とシナリオを乗せてもらい、我々がセールスと在庫管理、サポートを一元管理すればビジネスになると考えたんです。

──それ以降もたくさんのブランドがビジュアルアーツフランチャイズ契約をしていきましたが、馬場社長から、もしくはビジュアルアーツから営業をかけていったということは……。

馬場:
 ない……あんまり(笑)。というのも、当時の市場規模が100億円。最盛期でも400億円しかなかったわけですよ。そこで強力な営業体制を敷いたとしても、ローソンにはなれない。
 だから基本的にこちらから声をかけるのは、独立する社員にだけ。でも、いつの世もお金の匂いがするところには、向こうから声をかけてくるわけですよ(笑)。それでブランドが増えていきました。
 結果的にその後の20年で1000タイトルくらいリリースしました。最盛期には20~30くらいのブランドがフランチャイズとなって、毎月のように新作ゲームを発売していました。

 
 ははあ、こういう感じでブランド増やしていったのね。
 
 
 

Kanon誕生

──その意味では、Keyが1999年にデビューして『Kanon』をリリースしたというのは、美少女ゲームの歴史の中でも非常に大きなエポックだったと思います。そんなKeyのデビューに馬場社長は関わられているのですが、最初はどのようなブランドと見られていましたか?

馬場:
 それまでも「恋愛ゲーム」というジャンルはあったのですが、『Kanon』は、確かにモニターの向こうの女の子たちに恋愛感情のようなものを抱けたんです。そこにはキャラクターを愛するようになるシナリオがあるわけですが、日常の会話などを繰り返していくことで女の子を好きになっていく。それって実際の恋愛と一緒だな、と。

 会話するときに、返ってくる言葉を予想しながら話すじゃないですか。その時に、相手がちょっと想像と違うことを返してくる。それがいい感じなんですよね。
 そこで「あ、この子、ええ子やな」って思える。それをなんども繰り返すことで、どんどん好きになっていく。そうして関係が深くなっていったときに試練があって、解決があって、そこに泣けるスイッチが用意されているとだーっと泣けてしまうんです。
 そういう物語の組み上げ方を久弥直樹【※】や麻枝はやろうとしていた。その中で『Kanon』が出来上がったわけです。

──馬場さんの中でも、『Kanon』という作品で美少女ゲームへの認識が変化したということでしょうか?

馬場:
 そうですね。ガラッと変わりました。それまでのエロゲー、たとえば『雫』や『To Heart』にも、いいストーリーはありました。
 でも、あくまで「エロゲーの中で」なんです。そこを超えるものでないのであれば、よりエロいゲームを作った方がいいと思っていました。でも『Kanon』はその価値観を逆転させてしまった。物語とエロの主従が逆転どころか、エロをテイストの一部にしてしまった。

──確かに『Kanon』をプレイすると、それまでのエロゲーとはまったく違うものを提示されているような印象がありました。

馬場:
 そうでしょう。そしてそれは、麻枝だけでもできなかったし、久弥だけでもできなかった。久弥の描く女の子は魅力的だけど引き出しが少ない。麻枝はその引き出しが多彩なんです。二人が融合し、お互い刺激し合うことで生まれたのが『Kanon』であり、Keyというブランドの魅力なんですね。
 『Kanon』1作で久弥はKeyから去るわけですが、彼が残したものは大きかったですね。その後に麻枝と僕らが目指したKeyらしさというのは、まさに久弥が残したもので、過酷な運命を持つ少女と、主人公のその少女への想いや瑞々しい憧れ、日常を通した恋愛感情があって、その果てに試練があって解決する、という物語なんです。

 
 まあ、Kanonはホント強烈でしたよねぇ(ONEも凄いと言えば凄かったけど)。「真琴の話のオチで泣いた」とかパソコン通信に書き込んだのを今でもはっきり覚えてますよ。
 
 
 

●会社名は隠す方向で

──Keyに限らず様々なブランドを世に送り出してきているわけですが、ブランディングについての馬場さんのお考えもお聞かせください。

馬場:
 一つはクリエイターを立てることですね。
 『Kanon』の頃の美少女ゲーム業界の悩みとして、結果を出したスタッフが独立してしまうというのがあったんです。なぜなら会社にいると結局は一社員で、上の言うことを断れないし、好きなものを作れない。
 それにくらべて、フリーになると、やりたいことにチャレンジできるし、一気に先生扱い、気に入らない仕事は断れる。マネージメント能力ある人はどう考えてもそのほうがいい。

──確かにそうですね。

馬場:
 なので『Kanon』のあたりから、弊社では積極的にクリエイターを前に出すようにしました。つまり社員でありながら、一クリエイターとして周囲に名前を覚えてもらえるようにする。同時に一定レベル以上の社員は、仕事を選ぶことができるようにしました。
 つまり社員のセレブ化ですね。こうすることで、結果を出したクリエイターに、自分の好きなものを作ってもらえるような体制にしたんです。

次の段階として、クリエイターを立てた後はブランドを立てる方向に進めたいですから、ビジュアルアーツという名前を出さないようにしました。
 パッケージに、チラシやポスター、さらには雑誌での掲載でも、一切ビジュアルアーツという表記をしないように、と。Keyやスタジオメビウス、サガプラネッツなどはそれで成功しましたね。

 
 それでビジュアルアーツの社名はあまり意識しないんですな。
 
 
 

●今後の展開

──今後のビジュアルアーツについてもお話を伺っていきたいと思いますが、18禁ゲームから始まったビジュアルアーツが一般ゲーム作品をリリースし、ソーシャルゲームやアニメ原作など、様々なジャンルに進出しています。今後の展開として、どのような方向を目指されているのでしょう?

馬場:
 まずひとつ言えるのが、「パッケージのPCエロゲーは、ビジネスとしてもう終わり」ということ。なので、それ以外を考えるのは当然ですよね。私が今やろうと考えているのは、IP、つまり知的財産としての原作版権を作るということですね。

──そういう新たな取り組みを行なわれていながら、と言うのも変ですが、昨年『Summer Pockets』というゲームをパッケージ商品としてリリースされました。これは昨年のPCゲームを代表するヒット作となったのですが、なぜパッケージ発売にこだわったのでしょう?

馬場:
 それはもう、PCゲームというビジュアルノベルでしか味わえない感動があるからですよ。

馬場:
 自分がその世界の中に本当に存在して、女の子と会って会話している感じ。つまりは感情移入。でも、これはビジュアルノベルで感動した経験のある人にしか、わからないものかもしれませんね。

馬場:
 自分が世界の主役になっていると実感できるメディアってゲームしかないんですよ。だからいまだにPCゲームのファンがいるわけです……買っているかどうかは、わからんけどね(笑)。
 自分が世界の中を動き回って女の子と出会って会話をする。関係性を作った女の子と試練を一緒に乗り越えて感動する。アニメでも小説でも、この体験はできないんですよ。PCゲームにだけ、それがあるんです。これが僕が『Kanon』で学んだことでしたけどね。

 
 まあ、ゲームの強みについて、言いたいことは解る、解るのですが、この業界ってKanonの時代から20年進化していないからなぁ、「この体験はゲームでしかできない」というのも解るけど、ンンン……、という感も有りますよね。
 
 
 

●まだPCゲームで頑張る予定

話を戻しますが、「僕らはなんで集まってチームとして作品作りをしているか」と言えば、チームでしか作れないものを作っているから、なんですね。シナリオライターイラストレーター、プログラマー、音楽家と、様々な個性が集まってものづくりをしている。

 これを続けていくには、求心力が必要で、その求心力は何かといえば、やはりゲーム作品なんです。だからPCゲームは終わりなんだけど、僕らは作り続けなければならない。そうして作ったものが求心力になるから、「あそこに原作を任せよう」ということにもなるんです。


──ビジュアルアーツの核には、やはりPCゲームが必要なんですね。

馬場:
 今は売れないけどね。だから修行みたいなものなんですよ。みんなで集まって、苦しい思いをしてPCゲームを作る。もう少しかかるね、PCゲームがなくても求心力を持てるようになるまでに。多分あと数年かかる。

──馬場さんとしては、PCゲームというフォーマットからは離れたいと思っているんですか?

馬場:
 自社でPCゲーム以外も作っていますよ。PCゲーム最大の問題点は「長すぎる」ということです。もはや40時間もかけてゲームをプレイすることを、世の中は許してくれない。40時間かかるから表現できるものもあるんだけど……。
 そこは紆余曲折、試行錯誤ですね。アニメという形がいいのか、もう少しビジュアルノベルで頑張るのか。

 
 解ってるじゃん、長すぎるって。その流れを作ったのが外ならぬ自社のKanonとかAirとかクラナドだというのがある種の皮肉ですが。
 
 
 

●PC以外のプラットフォーム

──例えば馬場さんが求められてきた「感動のスイッチ」「泣きのスイッチ」というものなんですが、スマホゲームなどに移行するのかな?とも思いましたが、そうはなっていない現状がありますよね。

馬場:
 スマホの画面じゃ、何十時間も読めない。だからどうしてもPCや据え置きゲーム機になるんです。実はNintendo Switchに期待したんですけど、あっちも携帯ゲームの方に舵を切りましたしね。

──Steamでの海外展開などはどうなのでしょう?

馬場:
 Steamではよく売れています。皆さんが思っているより、桁が多いでしょうね。
 ただ、嗜好品としては、クラシック音楽みたいなもんなんですよ。ファンを選ぶ。好きなのは全ユーザーの2%くらい、とか。だからそれだけでビジネスを成立させるのは難しい時代になっているんです。もちろん、それを理解した上で、可能な限りグローバル化を目指してはいきます。

 実際に美少女ゲーム業界でうまく回っているところは、それ以外にも基盤を持てているところでしょう。ビジュアルアーツもゲーム制作・販売だけでなく、グッズの制作・販売や音楽ライブイベントなど、いろいろ手掛けていますから。そこは時代の流れでもありますよね。

 
 今のエロゲが「クラシック音楽みたいな物」という表現には笑ったけど同時に納得したわ(笑) 確かにそうだよなぁ、もう趣味のメインストリートではなく、ごくごく少数の好事家が支えている感じがまさにそうだ。

 スマホで何十時間も読めない……、んんん、過去にPSPとかVitaとかにいっぱい移植してませんかね。まあメインではありませんが。
 
 
 

●今後の展望

──そのような時代の流れですが、令和のビジュアルアーツの展望をお聞かせください。

 「あらゆるメディアで原作を持つ」というところでしょうね。
 もちろんPCゲームやソーシャルゲームといったジャンルでは、原作だけでなくゲーム制作を行なっていきます。しかし、最も得意とする原作という部分で、様々なメディアに提供していくことになるでしょう。原作というのは世界観、シナリオ、キャラクター、音楽などすべてをパッケージしたものですね。

 
 エンジェルビーツの惨状(?)を見る限り、あんまりオリジナル原作の提供とかいうのには成功していない気がする。まあ今後は解りませんけどね。
 
 
 

■感想

 前世紀、1990年代からこの業界でやっていて未だ元気に生き残っている会社の社長だけに、言っていることは色々興味深かったであります。音楽とかでも食っていけているみたいだし、少なくとも今日明日倒産することはなさそうです、ビジュアルアーツ
 
 
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