感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第24話「白鳥の歌」

刑事コロンボ完全版 1 バリューパック [DVD]

刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 

第24話 白鳥の歌 SWAN SONG (第3シーズン(1973~1974)・第7話)

 

あらすじ

刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!人気カントリー歌手トミー・ブラウンは、自分の過去の弱みを握る妻エドナとコーラスガールを殺害する。


人気カントリー歌手トミー・ブラウンは、収益のすべてを信仰団体に寄付してしまう妻エドナを憎んでいた。彼女は、トミーがかつて未成年だったコーラスガールを暴行した弱みを握っているのだ。トミーは公演に向かう自家用飛行機の墜落事故をよそおい、エドナとコーラスガールを殺害。一人パラシュートで脱出した彼を、エドナの弟が告発したことからコロンボが捜査に乗り出す。

●序盤

 人気カントリー歌手トミー・ブラウンは、私生活の全てを妻のエドナに支配され、公演の収益も全てエドナが信仰する宗教団体「魂の十字軍」に寄付させられていた。エドナは、かつてトミーが刑務所に入っていた時、仮出所を助ける条件で結婚を強いてきたため、トミーは全くエドナを愛していなかった。

 しかしトミーは、三年前、コーラスガールのメアリーアンがまだ16歳だった時に手を出したという事実をエドナに握られており、もし逆らえば警察に通報されるため、言いなりになるしかない状態だった。

 トミーは自由になるため、エドナとメアリーアンの殺害を決意し、ラスベガスからロスアンゼルスに移動する自家用機に二人を同乗させた後、睡眠薬入りのコーヒーを飲ませて眠らせ、魔法瓶を捨ててから、自分は持ち込んでいたパラシュートで脱出する。そして飛行機の墜落現場の側に着地すると、倒木のうろにパラシュートを隠し、自分は飛行機の側に倒れて事故で奇跡的に助かったというふりをする。



●中盤

 エドナの弟ルークは、姉の死はトミーによる殺人だと告発したため、コロンボが形式通りの調査を行うことになった。コロンボは飛行機の墜落現場で、ハイロット用のシートベルトのロックが外れていたこと、パイロット用の鞄の中身に灰が無くおそらく空っぽだった事、を発見する。トミーは訪ねてきたコロンボに二点を質問されるが、どちらも当り障りのない回答で切り抜ける。

 コロンボはラスベガスの空港で、トミーが飛行機に鞄の他に魔法瓶を持ち込んだ事実を聞き出す。コロンボは再度トミーに会い、魔法瓶について確認するが、トミーは焦りつつも、事故のショックで遠くに飛んで行ってしまったのではないかと言い抜ける。また二人は朝鮮戦争に従軍した時の話をする。コロンボは、トミーが「魂の十字軍」の礼拝堂建設に金を出すのを中止したことも突き止める。

 コロンボは軍隊にトミーの兵隊時代の軍歴を調査に行き、パラシュートをたたむ係だったことを知る。そのあと、エドナとメアリーアンの死体を解剖させ、睡眠薬バルビタールが大量に検出されたことを確認する。トミーは睡眠薬のことを聞かれ、二人は酔い止めのために飲んだのだと苦しい言い訳をする。

 コロンボは「魂の十字軍」に調査に行き、服を作るために買い込んであった大量のナイロンの布が見当たらないという話を聞く。そして消えた布のサイズでパラシュートを作ったとすれば、パイロット用の鞄に綺麗に収まる事を確認する。また、トニーのコンサートで歌われるコーラス曲が編曲されており、それはトニーの指示で、メアリーアンが死ぬよりも前に、彼女の歌が必要ないように変えられていた事を突き止める。

 コロンボはトニーが隠したパラシュートを見つけるため、トニーにわなを仕掛けることにする。



●終盤

 コロンボは、トニーに会い、もう一切の疑惑は無いと言ってトニーを安堵させる。しかし同時に、消えた魔法瓶のコーヒーの中には大量の睡眠薬が入っていたらしいので、誰かがトニーの命を狙って睡眠薬を入れたに違いないと断定する。そして、証拠として魔法瓶を見つけるため、徹底的な山狩りを始めるつもりだと教える。さらに、トニーの身の安全を守るため護衛を付けるとも言う。コロンボは、山狩りという言葉でトミーを焦らせ、パラシュートを回収に行かせるつもりだった。

 ところがトミーは焦るどころか、余裕の体で、今後数か月の公演旅行があるので、午後にはロスアンゼルスを離れてサンフランシスコに行くと言い、コロンボが見張る中、本当に飛行機に乗って飛び去ってしまう。

 深夜。トニーは墜落現場の近くに車で乗りつけ、隠していたパラシュートを見つけて運び出すが、車の前にコロンボが待っていたので驚愕する。コロンボはトニーが飛行機に乗る際にレンタカーのキーを持っていたのに気が付き、すぐにロスアンゼルスに舞い戻ってくるつもりなのに気が付き、待ち伏せしていたのだった。

 パラシュートを見られてもう言い逃れのできないトミーは、おとなしくコロンボと一緒に車に乗り込む。トミーはコロンボに殺人犯と同乗するのは怖くないのかと尋ねるが、コロンボはトミーはそんな恐ろしい人間ではないというのだった。
 
 
監督 ニコラス・コラサント
脚本 デイビッド・レイフィール(原案:スタンリー・ラルフ・ロス)


感想

 評価は◎(優)。

 過去には何度もNHK地上波で放送していた、言うなればコロンボを代表する様な作品の一つ。NHKが2018年に実施した人気投票では、信じられないことに全69作品の内でベスト20にも入らなかったが、個人的には大好きなエピソードである。


 音楽業界には全く疎いので調べるまでは知らなかったのだが、犯人トミー・ブラウンを演じたジョニー・キャッシュは、現実でもカントリー歌手、しかも「人気歌手」どころか、音楽業界の歴史に残る伝説級の人物だったそうである。また歌手活動の傍らで俳優としても活動していたそうで、それでコロンボ出演が実現したらしい。ジョニー・キャッシュと劇中のトミーは、前科があるところから人気カントリー歌手になるといった経歴が共通しているので、脚本家はジョニー・キャッシュ出演を前提に当て書きしていたのかもしれない。


 ストーリーは王道の展開で、コロンボは最初は単なる飛行機事故として捜査を開始するものの、やがてシートベルトの開いていたロックや空っぽだったパイロット用の鞄、消えた魔法瓶、といったバラバラの要素を繋ぎ合わせることで、徐々にトミーの犯罪の全体像をあぶり出していく。その過程が丹念かつ丁寧に描かれており、見ていて話の流れに無理がない。また墜落現場で、事故調査担当のパングボーンが、最初はコロンボを軽く見ていたものの、すぐに観察力に感心するシーンなどもあり、視聴者として満足度が高い一作に仕上がっていた。


 犯人であるトミー・ブラウンは、コンサートを開けばファンが楽屋まで押しかけて来る大人気歌手だが、その割にはおごり高ぶったところが無く、コロンボにも友好的に接してくれる、なかなかの好人物である。また、コロンボも自分も朝鮮戦争(1950年~53年)には一兵卒として参加したという共通体験があることを知ると、その話で一緒に盛り上がったりするなど、さっぱり「憎い犯人」という感じがしない。さらに、コロンボが曲の編曲を変えたことに気が付くと、素直に称賛したりしてくれるなど、最後まで良い人のイメージだった。他の作品では、大抵物語終盤になると、コロンボと犯人の間でギスギスした空気が流れるのと比較すると、この作品は最後まで穏やかな雰囲気で、そういったところも好きな理由である。


 なにより好きなのは、ラストの、犯行がバレて観念したトミーに、コロンボが一緒に車に乗ろうというシーンで、

トミー「人殺しと二人きりで、危険を感じないかね?」
コロンボ「ちっとも。あなた、そんなに怖い人じゃありません (※コロンボがカーラジオを付けると、トミーのヒット曲が流れる) あたしが逮捕しなくても、いずれ自首されたでしょう」
トミー「ああ、君の言う通りなんだ。こうなって何か肩の荷が下りた気がする」
コロンボ「ね? (※カーラジオを指さしつつ) これほどの歌が歌える人に悪い人はいませんよ」

というやり取りのあと、画面が止め絵となり、そこにトミーの歌が流れ続ける、という流れが本当に心にしみる。実に心に余韻の残るラストである。


 作品のサブタイトル「白鳥の歌SWAN SONG」は、英語では「臨終の歌」あるいは「詩人・作曲家などの最後の作品」という意味がある。トミーが歌手であることに、殺人を犯したということを「臨終」に関連付けたのかもしれないし、あるいは「逮捕されるまでの最後の歌手活動」みたいな意味もあるのかもしれない、など、色々想像できる、なかなかに良いサブタイトルだと思う。



 さて、おなじみのコミカルシーンは、今回は三つ。一つはエドナたちの葬式にコロンボが到着すると、葬儀屋のグリンデル氏がコロンボを捕まえて、延々葬式の売り込みをする場面。グリンデル氏を演じたのはヴィトー・スコッティという俳優で、第19話「別れのワイン」ではレストランのマネージャー、第20話「野望の果て」では紳士服店の店長、で、それぞれコミカルな演技を見せていたが、今回も葬式は生きているうちに予約しておかないと、と売り込んでくるあたりが妙に面白かった。ちなみに彼の登場シーンは本筋とは全く関係がないため、以前の放送ではカットされていたようで、今回の放送(2020年9月)で初めてお目にかかった。

 二つ目はコロンボが軍の高官(Colonel Mayehoff/メイホッフ大佐?)を訪ねてトミーの軍歴を聞き出す一幕。偉いさんがトミーの顔写真を見せられて「ベトナム戦線だった。この顔はよく覚えとる」と言い切った後、コロンボに「朝鮮戦争のときなんですけど……」と訂正されてちょっと困った顔になったり、コロンボが「この旗」というのを「それは旗ではない! 軍旗である!」と忌々しそうに訂正したり、「27平方フィート」「ヤードに換算すると………」「それくらいわかるだろう、3平方ヤードだ!」とか呆れたように言ったり、と、やり取りがコントの様だった。

 三つめは、魂の十字軍の服を作る係のおばあさんで、「コロンボってイタリアの名前でしょ。うちの主人もイタリアが半分入っていたの、そりぁ暖かい人でねぇ」とか「(コロンボ:捜査で来たんです)まぁ? 私って容疑者ですの?」とか、コロンボが何か言うたびに話が妙にずれていってしまい、いつもは自分の方が話を脱線するコロンボが、この時ばかりは自分から話を正しい方に戻す役目を強いられているのが愉快だった。


その他

 放送時間:1時間39分。
 
 

#24 白鳥の歌 SWAN SONG
日本初回放送:1974年


カントリー・ミュージック界の大御所ジョニー・キャッシュが犯人役を演じたことでも話題に。ドラマ内で犯人のトミーは、キャッシュ自身の代表曲「Sunday Morning Coming Down」を歌っている。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
トミー・ブラウン・・・ジョニー・キャッシュ(外山高士)
エドナ・・・アイダ・ルピノ麻生美代子
パングボーン・・・ジョン・デナー(小林修
J・J・・・ソレル・ブーク(大山豊)
ルーク・・・ビル・マッキニー(伊武雅之)


演出
ニコラス・コラサント


脚本
デイビッド・レイフィール

 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
刑事コロンボ完全版 2 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 3 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 4 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全捜査ブック