【ゲームブック】感想:ゲームブック「魔法使いディノン1 失われた体(新紀元社版)」(門倉直人/2014年)【クリア】

失われた体 (ゲームブック 魔法使いディノン1)

http://www.amazon.co.jp/dp/4775313002
失われた体 (ゲームブック 魔法使いディノン1) 単行本 2014/9/13
門倉 直人 (著), 酒井 武之 (編集), 佐藤 道明 (イラスト)
出版社:新紀元社 (2014/9/13)
発売日:2014/9/13
単行本:292ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

「君と私の体を交換すれば、私は呪縛から逃れることができるのだ」魔法使いはそう言って、君の体を奪い、何処かへ消えた。その日から君は魔法使いディノンとして生きることになった。君は奪われた自分の体を取り戻し、君に魔法をかけた男の野望を打ち砕かなければならない。魔法の奥義を習得し、数々の謎を突破せよ!重厚な幻想世界と練りこまれたゲームシステムが融合。21世紀の現世に降り立つ、新感覚ゲームブック!



★蘇る名作ゲームブック
物語を作るのは読者である "あなた"。
謎の男の体に宿ったあなたは、ディノンと呼ばれる魔法使いとなる。
たくさんの危険と、少しの不思議にあふれた異境の地を旅して、
あなたは、あなたを陥れた男のたくらみを打ち砕かねばならない。
様々なマジックイメージを駆使して、次々と立ちはだかる謎を解明せよ!

 

概要

 ファンタジーゲームブック。1987年に早川書房から発売された「魔法使いディノン」二部作の一作目を新紀元社から復刊した作品。巻末に作者からの「復刊に寄せて」という文章が追加されている。


あらすじ

 あなたは突如石室の中に召喚され、そこにいた魔法使いによって体を奪われてしまった。魔法使いは石室から出られなくなる呪いを受けていたため、異世界の人間を召喚しその相手と肉体を交換する事で呪いを逃れようとしたのだった。石室に取り残されたあなたは、偉大な魔法使いベルム・アヌルの残した頭飾り(セルクル)と魔法の書の助けを借り石室から脱出した。あなたこと「ディノン・バーム・テルス」は、逃走した魔法使いを見つけ出し、自分の肉体を取り戻さなければならない。


ゲームシステムなど

 パラグラフ数227。

 パラメータ「体力(初期値11)」「知力(初期値8)」があり、状況に応じて数値が変動し、またこの値によって判定を行う。

 パラグラフの指定に応じて「ミスティックマーク」と呼ばれるアルファベット(C、P、S、など)を記録する。これはフラグとキャラクターのステータス表示を兼ねたもので、どのマークがいくつあるかでパラグラフが分岐する。


感想

 評価は○(幻想的な作品)。

 幻想的な世界で幻想的な魔法を駆使する、なんとも不思議な雰囲気のゲームブック。評価としてはまずまずでした。


 『主人公がいきなり異世界に召喚され、召喚相手に肉体を奪われる』というプロローグの展開から、ジャンルはダークなサスペンス作品の様に予想していたのですが、実際のところはそういった要素は無く「幻想ファンタジー」という呼び方こそが相応しい作品でした。


 一応、本書での旅の目的は主人公ディノンが自分の体を取り戻すことなのですが、軽口を叩く助言役「魔法の頭飾り・セルクル」と、なにかと大騒ぎする「シルフのフィリオン」の三人(?)での旅は特に緊張感もなく、また戦闘で敵に襲われるような事もないので、自らの体を取り戻すための必死の追跡という雰囲気は全くない、異世界を見て回ってその雰囲気を体験することこそ目的、といった作品でした。まあ、妙にダークな作風よりはこっちの方が良かったですけどね。


 この作品で最大の特徴は独特な「魔力」の設定で、作品世界「ユルセルーム」における魔力は「マジックイメージ」という漠然とした象徴、すなわち

・形(三角、四角、丸、etc)
・色(赤、青、緑、etc)
・事物(鎖、車輪、稲妻、etc)

で表現されており、魔力を感知した場合や、逆に魔力を使用したい場合に、心の中に複数の象徴が浮かび上がるという形で使われています。

 各イメージのおよその意味は「円=調和」「鎖=束縛」のようにわかってはいますが、複数のイメージの連なりが具体的に何を意味するのかは読者が自分で解釈する以外にありません。

 ディノンは旅の途中で何度もイメージを受け取りますが、その意味が「手がかり」なのか、はたまた「警告」なのか、等は読者が魔法書片手に考えるしか無く、意味不明のイメージを何度も受信し、良く分からないまま話を先に進めていく、というのは実に不思議なプレイ感覚でした。


 本作のパラグラフ数は合計227と、同程度のページ数の作品と比較するとほぼ半分程度のため、物語のボリュームはかなり少なめ。ディノンの旅は、始まった途端すぐに終わってしまったような感覚で、やり応えという点ではいささか物足りないものがありました。

 しかし、その代わりとして、一パラグラフの文章量は多めになっており、3~4ページにまたがるパラグラフも珍しくはありません。これにより、複数キャラによる長い会話、あるいは、情景の詳細な描写、などが可能となり、ゲームブックのパラグラフというより小説の一場面を読んでいる様な気分にさせられました。作品の方向として、様々な謎解きを行うより舞台の世界の描写を優先した結果だと思われ、これはこれで、ゲームブックの作り方としては「アリ」だと思いました。


 終盤、物語の舞台はこの世ならざる幻想的な空間へと移りますが、そこで迎える結末も同様に相当に幻想的な物で実に印象的でした。物語は途中で記録した「ミスティックマーク」の内容に応じて複数の結末に分岐しますが、オーソドックスな「ディノンが自分の肉体を取り戻し体を奪った魔法使いモデムを倒す」という物が有れば、「ディノンが邪悪な竜と化して世界を破滅させる」という、どう考えてもバッドエンドとしか思えない物もあり、しかしそれらはすべて等価な結末として次巻に続くことになっています。

 「狐につままれる」とはまさにこのことで、こんなに展開の異なる複数の結末を、どのように次巻につなげるのかまるで見当がつきません…… ただ、作者はあとがきで次巻への期待を煽るような事を書かれているので、無事に収束することを期待して、この作品はひとまず終わらせたいと思います。


 体感ボリュームはかなり控えめな作品で、そういう意味では少し物足りなさもありましたが、その代わりとして他に類を見ない独特な世界観の旅を体験させてくれたので、全体としては満足のいく一冊でした。
 
 

続編の感想

perry-r.hatenablog.com
 
  

2023年の読書の感想の一覧は以下のページでどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
 

ハヤカワ文庫版
魔法使いディノン〈1〉失われた体 (ハヤカワ文庫GB)