2025年10月7日火曜日
『スーパーアドベンチャーゲームがよくわかる本』 vol.11 FT新聞 No.4640
https://ftnews-archive.blogspot.com/2025/10/vol11ft-no4640.html
FT書房のメルマガ「FT新聞」の面白企画「スーパーアドベンチャーゲームがよくわかる本」。
今回は
↓
11. 新たな才能の発掘 -第一回創元ゲームブック・コンテスト入選作品群
主な言及作品:『紅蓮の騎士』(1988)『ベルゼブルの竜』(1988)
『暗黒の聖地』(1989)『夜の馬』(1990)
■要約
今回取り上げるのは
『紅蓮の騎士』伊藤武雄(著) 東京創元社(1988/6/23)
『ベルゼブルの竜』茂木裕子(著) 東京創元社(1988/8/12)
『暗黒の聖地』伊藤武雄(著) 東京創元社(1989/8/31)
『夜の馬』茂木裕子(著) 東京創元社(1990/2/9)
ゲームブック人気が絶頂を迎えた時期に東京創元社のゲームブック・コンテストで入選した作品が相次いで発表された。
●『紅蓮の騎士』
第一回コンテスト佳作入選。
何者かがアムスタリア王国の宝物庫に忍び込んでヒスイの首飾りを盗んでいった。賊を捕らえるために派遣された四天王の一人、紅蓮の騎士グロム・ディードは、この事件を解決した者にアミナ姫を娶らせるとの王の意向を聞く……
主人公キャラクターに個性が有り単方向移動。選択の幅は狭くなるがその代わり物語を凝ることができる。戦闘や魔法のルールも評価できる。
面白いのは、主人公が毒ガス地帯を突破する際、読者自身も呼吸を止めることを要求され、読者が息継ぎすると主人公がダメージを受けるという作り。また謎解きパズルが良くできている。読んでいると作者のコメントが出てくるなど興ざめなところもあるが、まずまずバランスよく仕上がっていると言える。
●『暗黒の聖地』
『紅蓮の騎士』の続編。
魔法が導入されたり、個性的な敵が登場する。しかしストーリーは導入部が「さらわれた姫を救出に向かう」とありきたりだったりといまひとつ。さらに終盤は主人公が強さで敵を圧倒してしまいバランスがとれていないし、謎解きも歯ごたえが無い。ただしパラグラフ・ジャンプを効果的に活用しているのは評価できる。
●『ベルゼブルの竜』
佳作入選作品。レムリア大陸最大の町ルクレオは、急速な砂漠化の危機に瀕していた。この危機を食い止めるには、魔王の城に住むベルゼブルの竜が持つ再生の剣、アシュナードの力を借りるしかない。主人公はアシュナードの剣を取りに魔界へと旅立つ。
作者の同人作品「魔界物語」をベースにした作品で、そのためかキャラクターが個性的。文章力も高い。「単方向移動+無色透明主人公」の組み合わせ。途中で迷わせるような迷路も全くなく、読者は気楽に読める。
ゲーム性も凝った考えられた戦闘ルールや、運試しに「読者自身の運」を使い、パラグラフジャンプもあるなど良好。
「ドルアーガの塔」などと並ぶ傑作と言ってよい。
●『夜の馬』
主人公を三つの魔族から一つ種類を選んで冒険に参加すること、NPCの多さ、パラグラフ・ジャンプの効果的な使用、などゲームとしての完成度は高い。
しかしストーリーが作者の同人作品「魔界物語」に依存し過ぎていて、「魔界物語」を知らないと楽しめない作り。商業的にも振るわなかった模様。
●総括
ゲームブック・コンテストの参加者たちは、既存の枠に捉われない圧倒的なアイデアと発想力、そして文章力でSAGBに新たな風を吹き込んだ。しかしデビュー作は良かったが、二作目で失速、三作目は予告されたものの出版されず。