感想:人形劇「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」第13話(最終回)「新たなる使命」:虚淵玄の放ったこの夏最高の活劇人形劇

RAIMEI(期間生産限定盤)(DVD付)

Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 http://www.thunderboltfantasy.com/
放送 BS11。全13話。

【※以下ネタバレ】


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d.hatena.ne.jp

第13話(最終回) 『最終話 新たなる使命』 (2016年9月30日(金)放送)

 

あらすじ

 蔑天骸(ベツテンガイ)(関智一)は、盗賊の凜雪鴉(リンセツア)(鳥海浩輔)が剣を持って立ち向かってきたので嘲笑うが、実は凜雪鴉の剣の腕は蔑天骸すら凌駕していた。

 凜雪鴉は蔑天骸に、かつては剣の修行に打ち込んだ時期も有ったが、剣を極めるほど真理に通じてしまい、それが自分には性に合わないので飽きてしまったという。蔑天骸はそんなふざけた態度の凜雪鴉の実力が、それでも自分より上という事実を受け止めることが出来ず、凜雪鴉の思惑を挫きたいというその一心で天刑劍[てんぎょうけん]を破壊してしまう。蔑天骸は天刑劍の破片が直撃して重傷を負うが、天刑劍が破壊され焦る凜雪鴉の表情を見て満足の内に息絶えた。その直後、ついに魔神・妖荼黎[ようじゃれい](田中敦子)が復活してしまう。

 一方、殤不患(ショウフカン)(諏訪部順一)、丹翡(タンヒ)(中原麻衣)、捲殘雲(ケンサンウン)(鈴村健一)の三人は鍛劍祠[たんけんし]を目指してやってきたが、魔神が復活したことを知り唖然とする。ところが何故か殤不患は慌てることも無く妖荼黎の前に立ち、突然「目録」なる巻物を取り出す。その中には殤不患が西幽[せいゆう]で集めた36振りもの剣が収められていた。殤不患はそのうちの一振りを取り出すと、剣の力で妖荼黎を宇宙の彼方へと追い払ってしまった。

 実は、殤不患は西幽の地で、天刑劍の様に争いの元になる様な宝剣を回収して回っていた。しかしやがて殤不患から剣を収めた目録を奪おうとする者たちが現われたので、身を隠すため鬼歿之地[きぼつのち]へと逃れ、さらに東離まで来てしまったのだという。殤不患は丹翡に、封印が安定するまで今後100年間剣を守り続けるように指示する。

 全てが終り(捲殘雲は丹家に婿入りした模様)、殤不患はこっそり旅立とうとするが、凜雪鴉が声をかけ、嵐が来るというので雨傘を差し出す。殤不患は凜雪鴉についてくるなと釘をさすが、凜雪鴉は殤不患の目録を狙って悪党たちが群がってくるだろうから、その連中をからかう対象にしようとついていく気満々だった。最後嵐が到来し、殤不患が傘は役に立たないと放り出すと、近くの仏像の上に傘が上手くかかって終劇。


感想

 いやー、もう面白かった!! 完璧な最終回でもう心底感服しました。最後の最後で謎の人・殤不患(ショウフカン)が突然秘めたる実力を発揮して魔神をあっさり葬り去る辺りがメチャクチャ盛り上がりましたし、巻物の中に剣が隠してあるというギミックはそそるものがあるし、実は殤不患は西幽の地の超実力者でした、という正体明かしで話がスッキリカタがついたし、もう素晴らしかった。

 凜雪鴉(リンセツア)については、超一流盗賊なのに、さらに剣まで凄い、というのはなんかチートすぎてちょっと面白みが無いなぁ、という気もしましたけど。

 最後、殤不患が雨傘を放り投げたら、それが上手いこと仏像に掛かって締め、というシーンが、第一話の殤不患と凜雪鴉の出会いの場面に一周して戻ってきた形になって、ニヤリとさせられましたねぇ。

 番組の最後に続編制作の告知が出ましたが、久々にこの手のお知らせで心が躍る面白番組でした。虚淵玄シナリオ作品で心底面白いと思ったのってゲームの「ファントム」以来ですよ。続きが本当に待ち遠しいです。


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総括

 評価は◎(とても面白かった)。


 最近ではヒットメーカーとして業界から引く手あまた状態の虚淵玄氏が原案・脚本・総監修を担当した人形劇で、古代中国風世界を舞台にしたバトルアクション物。台湾発の「人形劇」で、さらに昔の中国風の世界が舞台ということで、その取っ付きの悪さに、ほぼ、何も、全く期待していなかったのですが、ところがどっこい! 結果的にはこの夏クール(7~9月)に視聴した番組の中で最高の面白さでした!!


 舞台は昔の中国風の世界。風来坊の殤不患(ショウフカン)は、ある日玄鬼宗(げんきしゅう)なる悪漢たちに襲われている若い女性・丹翡(タンヒ)を助ける。丹翡は、200年前の人間と魔神との戦いで使われたという伝説的な宝剣・天刑劍[てんぎょうけん]を守る一族の一人だったが、玄鬼宗の頭目・蔑天骸(ベツテンガイ)が天刑劍を奪おうと襲ってきたのだという。剣は厳重に封印されており、それを解くには剣の柄(つか)と鍔(つば)が必要だったが、既に柄は奪われ、丹翡の持つ鍔が狙われていたのだった。謎の男・鬼鳥(キチョウ)は丹翡に剣の柄の奪回に協力するといい、殤不患も玄鬼宗に付けねらわれる身となったことから、不承不承協力することにしたのだが……


●最初は期待薄でしたが……

 この作品は、放送前にチェックはしていたものの、実のところ内容にはさして期待していませんでした。番組紹介では「虚淵玄が台湾の人形演劇『布袋劇(ほていげき)』に惚れこんで日本に持ち込んだ」と説明されていましたが、そもそもこの手の人形劇なら1970年代頃にNHKで「三国志」やその他を放送していたので、こちらとしては目新しくもなんとも無く、「マニア視点で面白いというだけなのでしょ?」と考えていたのがまず一つ。

 さらに、もう一つの理由が「虚淵玄作品をほぼ面白いと思ったことが無かった」こと。虚淵玄氏が初めて世に認められた(と記憶する)ゲーム「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」(2000年)は、プレイした時、あまりの感動に不意打ちされて、その反動で絶賛しまくったのですが、その後映像の仕事をするようになって以降は「ブラスレイター」「魔法少女まどか☆マギカ」「サイコパス」「翠星のガルガンティア」「アルドノア・ゼロ」「仮面ライダー鎧武」とことごとく(私にとっては)ハズレで、もう虚淵玄作品=鬼門と化していました。よってこの作品も当然あうはずも無いと思っていたわけですが……


●ストレートな活劇だった

 そういう先入観が有っただけに、放送前の特番や第一話を見た時点では、慣れない世界観・難しいキャラ名・特に感心することも無い人形アクション、といった要素に辛い評価をつけたのですが、2話を見た辺りで「もしかしてこれは意外とイケるのでは?」と感じ始めました。一見とっつきにくいものの、大まかな枠組みは勧善懲悪アクション物と判明したあたりで、肩の力を抜いて楽しめるようになったのです。そうすると、毎回とぼけたことばかり言っている鬼鳥(キチョウ)と、それに突っ込みを入れる殤不患(ショウフカン)の会話が面白かったし、一癖も二癖もある豪傑たちが次々と仲間になる展開もそそるものが有りましたし、と、いつしかすっかり惚れこんでしまいました。


●豪華すぎる声優陣

 また声優がとにかく豪華で、ダブル主役が鳥海浩輔諏訪部順一、その他の主要キャラが、中原麻衣小山力也鈴村健一大原さやか檜山修之関智一、とそれぞれ主役を張るクラスの大物が大集結して、とにかく華やかの一言。特に殤不患を演じた諏訪部順一氏は、今まで聞いたキャラの中で最高のハマリ具合だったと確信しています。このキャスティングを決めた人は本当に最高ですよ。


●いつものどんでん返しも……

 虚淵玄シナリオというと、大抵中盤で視聴者の度肝を抜くどんでん返しを用意していて、しかもそれが大抵「欝展開」なのも苦手な理由の一つ。そして本作もやっぱり途中であっと驚くことになってしまい、「やっぱりこれか……」と眉をひそめたわけですが、この作品に限ってはあまり精神的ダメージは受けませんでした。鬼鳥(キチョウ)改め凜雪鴉(リンセツア)、狩雲霄(シュウンショウ)、刑亥(ケイガイ)たちが、まとめて丹翡(と視聴者)を裏切るわけですが、主役・殤不患が状況に翻弄される弱い立場では無く、あくまでしっかりしたキャラクターとして丹翡を助けていく、という姿勢が表明されて、落ち込むようなことにならなかったわけで……、多分布袋劇は伝統的に欝になるドス黒い展開はNGなのでしょう。布袋劇でホントに良かった(笑)


●登場人物が大人ばっかりだ

 ふと気がついたのですが、主役の一人・殤不患は四六時中「やれやれ」とか「おいおい」とかばかり言っている髭のおっさんだし、その他のキャラを見渡しても、10代の若者子供は見当たりません。海外SFドラマとかを見慣れていると、こういう「大人だけで展開される話」は抵抗が無いのですが、日本発の企画で「10代以外が主役の作品」という物が通るのも考えてみると凄い話です。虚淵玄氏の大物っぷりが今更ながらに感じられますな。


●つまり最高でした

 終わってみると、義士(笑)と悪漢の対決物語が、途中で各人の欲望うごめくドラマに変身、そして最後には伝説の魔神の復活→魔神との最終決戦、と次々にめまぐるしく様相を変え、全1クール(13話)とは思えない充実した内容で、しかも最後は絵に書いたようなハッピーエンドで実に気持ちよく見終わることが出来、もう爽やかかつ大満足の一言。最後の続編制作の告知には、心の底から快哉を叫んでしまいました。いやホントに面白かった。文句無しの二重丸でした。

続編(第二期)の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com


Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 オリジナルサウンドトラック

<スタッフ>
原作:Thunderbolt Fantasy Project
原案・脚本・総監修:虚淵玄(ニトロプラス)
操演・撮影:霹靂國際多媒體股份有限公司
キャラクターデザイン:ニトロプラス(三杜シノヴ/源覚/Niθ/中央東口)
武器デザイン:霹靂國際多媒體股份有限公司
          石渡マコト(ニトロプラス)
造形アドバイザー:グッドスマイルカンパニー
音楽:澤野弘之
音響監督:岩浪美和
制作:Thunderbolt Fantasy Project



<キャスト>
凜雪鴉(リンセツア):鳥海浩輔
殤不患(ショウフカン): 諏訪部順一
丹翡(タンヒ):中原麻衣
狩雲霄(シュウンショウ):小山力也
捲殘雲(ケンサンウン) :鈴村健一
刑亥(ケイガイ):大原さやか
殺無生(セツムショウ): 檜山修之
丹衡(タンコウ):平川大輔
廉耆(レンキ):山路和弘
蔑天骸(ベツテンガイ):関智一
殘凶(ザンキョウ):安元洋貴
獵魅(リョウミ):戸松遥
凋命(チョウメイ):大川透
ナレーション:田中敦子