感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第9回『いのちの優劣 ナチス 知られざる科学者』

優生学と人間社会 (講談社現代新書)

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 21:00~22:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 

第9回 『Case09 いのちの優劣 ナチス 知られざる科学者』 (2017年1月26日(木)放送)

 

内容

2017/01/26
フランケンシュタインの誘惑「“いのち”の優劣 ナチス 知られざる科学者」


科学史に埋もれた闇の事件簿。今回取り上げるのはナチス・ドイツが行った人間の「淘汰」。障害者やユダヤ人ら600万人以上が犠牲となった。その科学的根拠を作り上げた中心人物でありながら、ほとんど知られてこなかった科学者がいる。優秀な人間にのみ存在価値を認める「優生学」を信奉、ユダヤ人を特定する方法を研究し人種鑑定に携わった。弟子を使って強制収容所から大量の血液を送らせた。謎の科学者の、戦慄の人生に迫る!

 今回はナチスドイツの断種政策に協力した人類遺伝学者オトマール・フォン・フェアシュアー(1896-1969)の物語。


●劣った人間は排除する

 1920年代、フェアシュアーは遺伝の研究者として「優生学」にのめり込んだ。優生学とは、進化論と遺伝の法則を組み合わせた考えで、「民族全体を優れた方向に発展させるため、劣った人間を排除する」というもの。この学問は20世紀序盤に世界中で大流行した。

 フェアシュアーは特定の病気になりやすい人間や障害者などは子孫を残さないように不妊手術、優生学でいうところの「断種」をするべしと主張した。フェアシュアーは、キリスト教の考え方からして、そんな不幸な子供が生まれないようにする方が本人にとって幸せだ、と訴えた。しかし最初はこの主張は実現することは無かった。

 だが、1933年にヒトラーナチスが政権を取ると状況は一転した。ヒトラーはドイツには劣った人間は不要として「断種法」を制定、「優生裁判所」の簡単な手続きだけで次々と劣っていると認定した人たちを断種していった。その対象者は40万人ものぼる。フェアシュアーはナチスの政策にお墨付きを与えた。



ユダヤ人への攻撃

 ナチスはさらに次はユダヤ人も攻撃対象に加えた。フェアシュアーは異民族のユダヤ人の血がドイツ民族に混じるとドイツの血が変えられてしまうと主張した。しかしナチスは一つの問題を抱えていた。ある人物が「ユダヤ人かどうか」を判定する具体的な方法が無かったのである。

 フェアシュアーは、血液中のたんぱく質には人種毎に違いがあり、ユダヤ人特有のたんぱく質を見つければ科学的に区別が可能になる、との仮説を立てた。フェアシュアーの弟子のヨーゼフ・メンゲレアウシュビッツ強制収容所に赴任し、フェアシュアーのためにユダヤ人やその他の人種の血液を採取し、フェアシュアーに送り始めた。さらにその他の臓器も送るため、採血のみならず殺害にまで手を染めた。

 フェアシュアーはメンゲレが送ってくる研究材料を元に研究に没頭した。



●戦後のフェアシュアー

 1945年、ナチスドイツは敗北した。ナチスに協力した多くの科学者が裁かれたが、フェアシュアーは関係書類を全て焼き捨てており、アウシュビッツで行われていたことは一切知らないと主張して切り抜け、50万円程度の罰金のみで許された。戦後のフェアシュアーはドイツ科学界で立身出世し尊敬された。1969年、フェアシュアーは自動車事故で死ぬが、世間は彼の死を悼んだ。

 長らくフェアシュアーの戦前の所業は知られないままだったが、21世紀に入ってようやくフェアシュアーのやってきたことが明るみに出た。そしてフェアシュアーが所長を務めた研究所の今の所長が、アウシュビッツの犠牲者に謝罪するなどした。しかしフェアシュアー自身はまったく罪を贖うことなく人生を全うした。


感想

 いやもう最悪……、番組内容が悪いという訳ではなく、扱われたテーマの暗黒ぶりが酷い。結局フェアシュアー自身は何一つ罪を償うことなく、「立派な学者」として栄光に包まれたまま人生を過ごしたわけで、こんなことが有って良いのかという理不尽感が物凄かった……
 
 

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