感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第8話「死の方程式」

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放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

第8話 死の方程式 SHORT FUSE (第1シーズン(1971~1972))

 

あらすじ

父が築いた大会社の御曹子であるロジャーは、現社長の叔父に過去の悪事を調べられ、会社を辞めるよう勧告される。その上、叔父は会社を売ろうともくろんでいた。ロジャーは叔父の殺害を決意し、手製の爆弾を愛用の葉巻に仕掛ける。叔父は山荘に向かう車の中で葉巻ケースを開け、車は爆発炎上・・・。その後コロンボは、ロジャーのささいな行動から彼に目をつける。

 
 ロジャー・スタンフォードは、一大化学企業スタンフォード・ケミカルの創業者の息子だったが、父親が早くに亡くなったため、今は叔父のバックナーが社長として会社を取り仕切っていた。ロジャーは会社で半分お遊びの様な研究をしているだけだったが、亡き父の妹でバックナーの妻であるドリスはロジャーを溺愛していた。

 ある日ロジャーはバックナーに呼び出され、会社との関係を一切断ち切り、アメリカを離れてヨーロッパに行くように要求される。バックナーは会社を他社に売却する計画を進めており、邪魔になるロジャーを追放しようというのだった。そして従わないなら、ロジャーが過去に小切手のサインの偽造をしたことなどを明かすと脅しをかけてくる。

 実のところ、ロジャーは以前からバックナー殺害を決意していたため、すぐさまバックナー愛用の葉巻のケースに爆発物を仕込んだものをバックナーの車に置いておく。バックナーは仕事のため部下クインシーの運転する車で出かけ、車内で箱を開けて爆死する。

 夜。バックナーの妻ドリスは、夫が山荘に向かったまま行方知れずになったため警察に連絡し、コロンボがやってくる。ドリスの家の留守番電話には、バックナーが車内からかけた電話が録音されており、葉巻のケースを開けるやり取りが録音されていた。ロジャーは爆弾の爆発が録音されているのかと焦るが、電話はその前に切れていた。

 やがて山荘に向かう道の崖下でバックナーの車の残骸とバックナーや運転手の死体が発見され、また車は崖から転落する前に爆発していたこと判明する。コロンボは、これは事故ではなく、会社売却に反対する社内の誰かによる爆弾での殺人ではないかと推測する。

 ロジャーは、バックナーの運転手クインシーがバックナーのために社員の動きを探るスパイの様な事をしていたことに気が付いていた。そしてクインシーが作った報告書に見せかけて、会社売却反対派の副社長ローガンが実は売却先と密かに結託していたような書類を偽造する。またバックナーが秘書のビショップと男女の関係に有ったという偽写真も作り、それらをクインシーの家に隠してから、わざと警察に捕まる。

 コロンボたちは、クインシーの家から押収した(ロジャーがでっちあげた)書類や写真を見つける。そして内容を知ったドリスは、ローガンが会社を裏切っていたとか、秘書のビショップが夫の愛人だったと信じ込む。その結果、ロジャーは会社の社長になり、ビショップとローガンはクビにされてしまう。

 コロンボは会社に現れ、ロジャーとローガンに、崖下から重要な証拠が見つかったといって一緒に山荘に向かうロープウェイに同席させる。そして焼け焦げた葉巻のケースを取り出して蓋を開き、実はロジャーが葉巻ケースに爆弾を仕掛けてバックナーを殺したのだと考えていた、とズバリと言う。その動機はロジャーが会社を手に入れるためで、そのため社長のバックナーを殺し、副社長のローガンを偽書類で排除し、専務の自分が社長になることを計画した、と説明する。

 コロンボは、葉巻ケースが爆弾では無かったのでこの推理は間違いだった、と延々と話し続けるが、ロジャーは爆弾が爆発すると半狂乱になり、爆弾を外に放り出せとわめきだす。実は葉巻ケースはコロンボが用意した全く無害な物だった。ロジャーは自分が嵌められて自白させられたことに気が付き、やけくそになりながら自分が大事にしているメダルをコロンボの首にかけるのだった。


感想

 評価は○。

 可もなく不可もなくというレベルのエピソードで、コロンボは特に苦戦することも無く、隙だらけの犯人を簡単に逮捕してみせた。今回はコロンボの関わった事件の中ではかなり楽勝の部類に入ると思われる。

 犯人ロジャーは経歴だけならかなりのエリートで、21歳で化学の学位を取り、そのあとさらに弁護士資格も取得したという、そこだけ聞くと超優秀な頭脳の持ち主である。しかし、いかんせん行動が幼過ぎて、輝かしい経歴に全くありがたみを感じさせない。冒頭からひもスプレーを社長秘書たちに浴びせかけてみたり、叔父のバックナーと話すときもカメラを構えてまともに向き合おうとしなかったり、体が大きいだけの子供のようなキャラクターである。

 それだけに、このエピソードでは、コロンボシリーズのストーリーの醍醐味である「コロンボと社会的地位の高い人物との火花を散らす対決」という要素がほとんど無い。他のエピソードの定番である、エリートである犯人が、しつこくまとわりついてくるコロンボを小馬鹿にしているものの、最後に敗れてしまう、というような展開は無く、怪しい人物を順当に捕まえた、という印象しかない。

 ということで、話のプロット的にはあまり見ごたえは無いものの、クライマックスのロープウェイ内で、偽の証拠に騙されてロジャーが犯行を自白したも同然の状態になり、それをコロンボが冷静に見つめている、という展開は劇的で極めて印象的なため、それなりに満足度は高い話ではあった。

 ロジャーの犯行の動機は、最初は「会社から追い出されないため、会社売却を推進する叔父を殺害した」ように見えたのだが、終盤になると「社長になる気満々だったため、叔父を殺害し副社長も排除しようとした」という事になっている。ロジャーはそんなに野心に満ち溢れた人物には見えなかったので、コロンボの動機の説明は何かモヤモヤしたものを感じたのだが、真面目さの欠片も無いぼんくら御曹司のキャラクターは見せかけだったということなのだろうか。

 サブタイトル「死の方程式」は格好いいが、最後になるまで意味が解らず、ちょっと戸惑うタイトルである。これはクライマックスのロープウェイ内で、コロンボがロジャーの動機を推理すると、ローガンが「面白いじゃないか、数学みたいに明快だ」と言い、それを受けてコロンボが「そう、これは死の方程式だ」というところから来ている。

 ロジャー役ロディ・マクドウォールは、映画「猿の惑星」シリーズで猿のコーネリアスを演じたことで有名。吹き替えは野沢那智で、何かと騒々しいロジャーを見事に演じていた。またローガン副社長を演じたウィリアム・ウィンダムは「宇宙大作戦」第35話「宇宙の巨大怪獣」というエビソードでのゲスト・デッカー准将が印象深い俳優である。

 サブタイトルの原題「SHORT FUSE」は「短気、かんしゃく」といった意味。すぐに感情を高ぶらせるロジャーの事を暗示していると思われる。


備考

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第20位にランキングされた。
 
 

死の方程式 SHORT FUSE


日本初回放送:1973年


ロジャー役のロディ・マクドウォールは、映画『猿の惑星』『フライトナイト』シリーズで人気を得た。同役吹き替えの野沢那智は、アラン・ドロンアル・パチーノブルース・ウィリスなど数多くの吹き替えを担当した。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ロジャー・スタンフォード・・・ロディ・マクドウォール野沢那智
ローガン・・・ウィリアム・ウィンダム(村瀬正彦)
ビショップ・・・アン・フランシス翠準子
バックナー・・・ジェームズ・グレゴリー(大木民夫
ドリス・・・アイダ・ルピノ麻生美代子


演出
エドワード・M・エイブロムス


脚本
ジャクソン・ギリス

 

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