刑事コロンボ https://www.nhk.jp/p/columbo/ts/G9L4P3ZXJP/
放送 NHK BSプレミアム。
【※以下ネタバレ】
他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ
第37話 さらば提督 LAST SALUTE TO THE COMMODORE (第5シーズン(1975~1976)・第6話)
あらすじ
刑事コロンボ(37)「さらば提督」
[BSプレミアム]2020年12月9日(水) 午後9:00~午後10:36(96分)
『刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!「提督」と呼ばれる造船会社オーナーが殺害される。本作は最後まで犯人が明かされず、コロンボと一緒に推理を楽しめる!
造船会社のオーナーで巨額の財産を持ち、「提督」と呼ばれているオーティス・スワンソンは、社長として実権を握る娘ジョアナの夫チャーリーの経営方針が気に入らず、会社を売ろうとしていた。その夜、帰らぬ人となった「提督」を海へと遺棄するチャーリーの姿があった…。
●登場人物
・オーティス・スワンソン … 造船会社オーナー。通称「提督」
・ジョアナ・クレイ … 提督の一人娘
・チャーリー・クレイ … ジョアナの夫。
・スワニー … 提督の甥
・ケタリング … 提督の顧問弁護士
・ウェイン … 造船所所長
・クレイマー … 刑事
・シオドア・アルビンスキー … 若手刑事。通称マック
●序盤
造船会社オーナーのオーティス・スワンソン(通称:提督)は、今は会社の経営を娘婿のチャーリー・クレイに任せていたが、富裕層をメインの顧客にするというクレイの経営方針に不満を抱いていた。一方、クレイの方は、提督が気にくわない自分たちを放り出すため会社を売却するつもりでは無いかと怖れていた。
夜。クレイは提督の家で死体の側を綺麗に片付けると、一旦車で屋敷を離れ、警備員に時間を尋ねて時間を記憶させる。そのあとこっそり潜水服で海から戻ってくると、提督の死体をヨットに積み、沖に出たところで死体を海に投げ捨て、自分は潜水服で陸に戻る。
●中盤1
コロンボは提督のヨットが無人で発見されたため、事情を確認するためクレイの家を訪問する。クレイはそしらぬ顔で、提督は夜一人でヨットを操船している最中に不慮の事故で海に投げ出された、という説を披露する。
コロンボたちは、造船所所長ウェイン、提督直属の技術者リサ・キング、等から話を聞いて回る。
やがて提督の死体が発見されるが、水を飲んだ形跡がなく、警察は事故死ではなく、殺されてから海に投げ込まれたと判断する。コロンボは潜水服を使ってこっそり提督の屋敷に戻ってくることが可能であることを確認し、クレイに対する疑いを深める。さらにコロンボたちは、提督の屋敷で壊れた懐中時計や口紅を発見し、提督がこの屋敷で殺害されたことを知り、クレイ犯人説を確信する。
●中盤2
クレイの死体が自宅で発見される。暖炉には何かを燃やした形跡があり、調べた結果提督は会社を売却しようとしていたらしいことが判明する。ジョアナから話を聞くと、提督が死んだ夜もいつものように酔っていて記憶がないという。
壊れた懐中時計を調べると0時42分で停止していたが、クレイが警備員に時間を聞いたのは0時46分で、4分間で殺人を犯して外に出てくるのは不可能で、クレイは殺人犯ではない様に思われた。
●終盤
コロンボは事件の関係者の、ジョアナ、スワニー、ケタリング、ウェイン、リサを提督の家に集め、事件の説明を行う。コロンボの考えでは、クレイは殺人者ではなく、彼は「妻のジョアナが提督を殺した」と考え、このままでは提督の遺産をもらう権利が無くなるため、偽装工作を行ったはずだった。
リサは提督と結婚する予定で、リサは財産を欲していないため、結婚した暁には、提督は娘のジョアナに僅かな金額を残し、それ以外は全て寄付するつもりだった。つまりリサだけは提督を殺す理由が無いため容疑者から外れることになる。
コロンボは、残った容疑者四人に提督の懐中時計が動く音を聞かせるが、スワニーは驚くものの、他の三人はろくに興味を示さなかった。コロンボは懐中時計は提督殺害時に完全に壊れており、時計屋に修理してようやく動くようになったと教える。時計が壊れたことを知っているのは殺人犯だけ、つまり時計が動いていることを知って驚いたスワニーこそ犯人だった。スワニーはジョアナが提督を殺したように偽装して遺産の受け取りの権利を無くさせ、提督の財産を独り占めしようとしたのだった。
監督:パトリック・マクグーハン
脚本:ジャクソン・ギリス
感想
評価は○(まあまあ)。
途中まではいつも通りの倒叙形式だと見せかけておいて、後半突然犯人当て形式に変化してしまうという意表をつく構成の作品だったが、クオリティはなかなかで、結構楽しめた一作だった。
コロンボ作品は、名作・秀作と評価されているものは、全てお馴染みの「犯人の動機をはっきり描写→殺人→コロンボ登場→結末」という形で作ったものばかりで、逆に、このパターンを外すと大抵の場合ロクな作品になっていない。第1・第2シーズンでは、パターン破り、というより、パターンがしっかり固まっていなかったため、前述のフォーマットに沿っていない作品がやたらあるが、大抵ろくでもない作品ばかりである。
ところが、本作品は「殺人シーンなし」「途中まで死体が発見されず、警察は殺人かどうか分からない」「途中で犯人と目星をつけた人間が殺されてしまう」「最後まで犯人が解らない」と、パターン破りを連発しているにも拘わらず、これが意外にも面白く仕上がっていて驚かされた。
いつもとは話の流れが大きく違い、コロンボが「殺人事件の矛盾点を探していく」のではなく、とりあえずあてどもなくあちこちを歩き回り、謎の型紙を見つけたり、提督の遺言状の話を聞いたり、と情報集めをしていくだけなのだが、流れはスムーズで特に退屈することも無く、コミカルなシーンを色々と用意しており、なかなかに楽しく視聴出来た(コロンボのプジョーの前側に、コロンボ、クレイ、マックの三人が乗ってぎゅうずめで走り出すシーン等)
また開始一時間過ぎには、クレイが犯人だと確信した途端にその当人が死体となって発見されるというどんでん返しが待っており、なかなかびっくりさせられた。そしてラスト20分で、豪華な部屋に容疑者全員を集めて、事件の概要を説明していくという「名探偵物」の王道展開が披露されて、と、いつものコロンボとはまるで違う展開だったが、これはこれで非常に楽しめた。
実はこの作品が他作品と全く違う展開をするのには理由があり、この作品は「コロンボの最終回」として製作されていたそうである。本エピソードは、第5シーズン(1975~1976)の最終話だったが、当初の予定ではコロンボは第5シーズンで打ち切りが決定しており、そのためスタッフは視聴者へのお別れ記念としてスペシャルな内容で製作したとのこと。
そういう裏事情を知ると、なるほどと思うところが多々あり、まず警察サイドの面々は、いつもはコロンボは単独で活動しているのに、今回は顔なじみのクレイマー刑事と、さらに新顔のシオドア・アルビンスキー刑事(通称マック)がぴったりと寄り添って一緒に行動し、軽妙な掛け合いを演じてくれていた。また。クライマックスでは、豪華な屋敷に容疑者を集めて、主人公が意外な犯人を指摘する、という、「名探偵物」らしい場面を見せてくれた。
さらに、犯人指摘後、コロンボ、クレイマー、マックが庭に出てきて、のびのびとした感じで雑談する、という場面があり、ここで視聴者へのお別れという姿勢がしっかり表現されていた。この場面で
クレイマー(コロンボが葉巻をうまそうに吸うのを見て)「やめないんですか?」
コロンボ「まだまだ。まだやめられませんよ。もうちょっとだけやらせてもらうよ。もうちょい」
と妙な返事をする。事情を知らないとただの変な会話にしか思えないが、裏が解ると、コロンボ、というかピーター・フォークが「最終回だがまだ続編をやりたいという意思表明をしている」ように見えて、ちょっと面白い。
また最後はコロンボは唐突に手漕ぎボートに乗り込んで沖合に向かって漕ぎ出し、「どこに行くんですか」と聞かれると「カミさんも乗せてやろうと思って。せめてこのボートに」と言いながら向こうに漕ぎ去っていくというオチとなる。以前見た時には妙な結末だと思っていたが「最終回のつもりだった」と言われれば、実に印象的な上手い幕切れである。
まあ、実際は、ここで打ち切りにはならず、コロンボはまだ製作され、(第6シーズンはともかく)第7シーズンで傑作を連発するので、ここで終わらなくて本当に良かったとしか言いようがない。
本作の監督はパトリック・マクグーハンで、28話「祝砲の挽歌」や34話「仮面の男」で印象的な犯人役を演じたあの方。
若手のマック刑事を演じたデニス・デューガンは、その後俳優より監督として活躍しているとのこと。声を当てたのは、なんと玄田哲章氏。当時30歳くらいだった模様で、声が非常に若いが、氏がこんなイケメンキャラの声を当てていたのにはびっくりである。
作品のサブタイトル「LAST SALUTE TO THE COMMODORE」は、意訳すると「提督への最後の敬意」。なんだかよくわからないタイトルである。日本語サブタイトル「さらば提督」の方が遥かにましではなかろうか。
その他
放送時間:1時間36分。
ピーター・フォーク…小池朝雄,ロバート・ボーン…西沢利明,ダイアン・ベイカー…水野久美,フレッド・ドレイパー…佐藤英夫,ウィルフリッド・ハイド=ホワイト…松村彦次郎,ジョン・デナー…小林修,【演出】パトリック・マクグーハン,【脚本】ジャクソン・ギリス