【ドラマ】感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第34話「仮面の男」

刑事コロンボ完全版 1 バリューパック [DVD]

刑事コロンボ https://www.nhk.jp/p/columbo/ts/G9L4P3ZXJP/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 

第34話 仮面の男 IDENTITY CRISIS (第5シーズン(1975~1976)・第3話)

 

あらすじ

刑事コロンボ(34)「仮面の男」
[BSプレミアム]2020年11月18日(水) 午後9:00~午後10:38(98分)


刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!かつて二重スパイで荒稼ぎしていたCIA情報部員が恐喝してきた相棒を殺害。コロンボの前にCIAが立ちはだかる!


表向きは経営コンサルタント、実はCIA情報部員であるネルソン・ブレナーは、かつて二重スパイの“内職”で荒稼ぎした相棒ヘンダソンから、過去の報酬を支払わなければ、“内職”の件をばらすと脅される。するとブレナーは、ヘンダソンを巧みに誘い出し、強盗事件に見せかけて殺害した。やがて捜査の結果、ブレナーにたどりついたコロンボの前に、CIA幹部が立ちはだかる!

 
●序盤

 CIAの情報部員ネルソン・ブレナー(犯人)は、同僚のコードネーム「ジェロニモ」(被害者)に新しい作戦を指示するために接触した。ジェロニモは、かつてブレナーが南米で二重スパイの「内職」を働いて大金を荒稼ぎした時の相棒だった。ジェロニモはブレナーに、当局に「内職」を通報されたくなければ口止め料を払う様に要求し、ブレナーはそれを承諾したあと、ジェロニモに任務を伝える。

 ジェロニモの任務は、スタインメッツなる人物から、海軍の暗号表のマイクロフィルムを買い取る事だった。ジェロニモは夜の海岸でスタインメッツの使者と接触し、今後のことを取り決めるが、その後ジェロニモが一人になったところにブレナーが現れ、隙を見てジェロニモを撲殺した。


●中盤

 「追いはぎ天国」と称される海岸で男の死体が発見された。被害者(=ジェロニモ)は物入れなどを全て奪われており、追いはぎの被害者と思われたが身元の手掛かりは全く無かった。コロンボたちは、被害者が近くのバーで飲んでおり、その後を黒人男性が付けていったという証言を得る。

 ブレナーは犯行の翌日の早朝、演説の草稿をテープに吹き込むが、置き時計の時間を細工し、録音中に時計が11回鳴る音が入るようにする。

 コロンボたちはタクシーやホテルなどを調べ、被害者が広告会社勤務の「A.J.ヘンダーソン」であると突き止めるが、勤務先に照会してみると、被害者はヘンダーソンとは全く別人だった。コロンボはこの偽ヘンダーソンロングビーチ遊園地について尋ねていたことから遊園地に向かい、来園者を撮影している写真屋に当たって、被害者と、被害者の連れらしい男(=プレナー)が映った写真を手に入れる。

 コロンボは、有名な経営コンサルタントのブレナーを訪ね、偽ヘンダーソンについて尋ねるが、ブレナーは偽ヘンダーソンを引き抜こうとして会っただけだとしらを切る。またブレナーはアリバイを聞かれ、犯行当夜はオフィスで演説の草稿を吹き込んでいたという。コロンボは、被害者が正面から殴られていることから顔見知りに殺されたと推測しており、上着が脱がされていたことにも疑問に感じてした。

 また警察は、スタインメッツの使いをしていた男がローレンス・メルビルという前科者であることを突き止めるが、メルビルはスタインメッツに車に爆弾を仕掛けられ、口封じで殺されそうになる。死にかけたメルビルはスタインメッツのについて警察に洗いざらい話すが、容姿以外の詳しいことは何も知らなかった。

 コロンボは、ブレナーの秘書にブレナーのアリバイを確認するなどしていたが、CIAのコリガン部長に接触を受け、ブレナーの裏の顔はCIA諜報部員で西部地区のボスなので、捜査でブレナーを邪魔するなと警告される。

 コロンボはブレナーの屋敷を訪問し、飾られた写真からブレナーが朝鮮戦争中に軍のパイロットとして活躍した英雄だと知る。



●終盤

 コロンボはブレナーのオフィスを令状持参で訪問する。ブレナーの戦争中の写真はいまより髪が少なく、コロンボはブレナーがかつらを着用していると見抜いていた。そして、写真を加工し、ブレナーがかつらを取り髭を付けた姿にすると、謎の人物シュタインメッツそっくりになることを示す。

 さらにコロンボはブレナーが吹き込んだ演説草稿のテープを再現する。プレナーは時計が11回鳴っていることからこれは夜11時に吹き込んだものと主張するが、その演説には「中国のオリンピック不参加」について触れられていた。しかし、そのニュースは夜11時ではなく翌朝6時に発表されたニュースであり、前日の夜にブレナーがそれを知っているはずはなかった。

 コロンボは、ジェロニモ上着を脱がされていたのは、携帯していた拳銃をブレナーが持ち去るために脱がせたと気が付いていた。コロンボはブレナーに何故服を着せなかったかと質問し、ブレナーはアベックが通りかかって邪魔されたと自嘲気味に返事する。


監督:パトリック・マクグーハン
脚本:ウィリアム・ドリスキル


感想

 評価は○(なかなか)。

 コロンボがCIAの諜報部員と対決するという今までに無かったパターンのエピソード。捜査を進めるコロンボがCIAに圧力を受けるなどサスペンス的な要素も盛り込まれており、他作品とは少し雰囲気が違うが、これはこれで面白く、なかなかにお気に入りの一作。


 本作は、過去作品とは違って話が大掛かりというかで、犯人も被害者も国の諜報機関CIAの諜報部員、殺人の動機は過去に南米で行われた二重スパイについて、捜査を進めるコロンボがCIA局員たちに尾行されたり自宅を盗聴されたりする、等、スパイ物のような雰囲気がある。また、(一見)殺人事件とは無関係のスタインメッツの暗躍も殺人事件の捜査と並行して進行するため、ますますその印象が強い。

 そして、そのような新規の要素を盛り込みつつも、コロンボ物として押さえるところはきちんと押さえていており、さらに、コロンボが遊園地で写真屋が撮影した写真を丁寧に調べてブレナーへとたどり着く過程や、自分が尾行されていることにきちんと気が付いている台詞など、コロンボが優秀であることがしっかりと描写されているのもファンとして嬉しい。


 しかし、惜しむらくは、前述のスパイ物要素にストーリーを割いているため、コロンボが細かい手掛かりを追って犯人と心理的な対決を演じるというシーンは少なめ。結局コロンボが突き止めたのは、「ブレナーには犯行時間にアリバイが無い」ということだけであり、犯人の特定に必要な三要素「動機」「機会」「事件とのつながり」のうち、機会しか突き止めていない。

 ブレナーが偽ヘンダーソンを殺害した動機は不明、犯行に関わったという物的証拠もなく、よくこれで令状が取れたものだと思わずにはいられない。まあコロンボ物は「犯人から何かで一本取れば勝ち」的な作品であるので、そこを追及するのは無粋かもしれない。


 本作の犯人ブレナーを演じたのはパトリック・マクグーハンで、第28話「祝砲の挽歌」で陸軍幼年学校の校長を演じ、今回も同様にいかなる状況でも冷静で動じない切れ者の犯人を見事に演じている。吹き替えの佐野浅夫氏の声も実に良い。ちなみにマクグーハンは本作の監督も行っている。


 このエピソードの事件解決のキーとなった「中国のオリンピック不参加」について。この回は1975年11月放送なので、中国が不参加表明したのは1976年のモントリオールオリンピックの事と解る。現在(2022年)からすると想像しにくいが、当時の中国は1952年ヘルシンキオリンピックに一度参加した後、ずっとオリンピックには不参加だったとのこと。ちなみに中国が再度オリンピックに参加するようになるのは、1980年のレークプラシッドオリンピックから。こういう国際的なニュースが事件の解決の鍵になる、というのは、スパイ物的なこのエピソードのオチとしてピッタリだと思う。

 本作では終盤、コロンボがガソリンスタンドで愛車プジョーに給油するシーンが描かれるが(コロンボが「二ドル分だけ」とか注文の仕方が細かいのがおかしい)、スタンドの店員が給油口が無くて戸惑うと、コロンボが指示したのが、車の左後ろのウインカー部分で、ウインカーを上にはね上げると給油口が現れるという面白ギミックは妙に楽しかった(ちなみにこのシーンは過去のNHKの放送とかではカットされていたところ)


 本作はメイン以外のキャストに過去作品で見た顔が続々出てくるのもファンとして嬉しい。

・クレイマー刑事 … ブルース・カービー。コロンボ物ではおなじみの顔。今回は被害者の身元調査で走り回らされ愚痴っているのがちょっと面白い。

・偽ヘンダーソンジェロニモレスリー・ニールセン。第7話「もう一つの鍵」に続く再登場。映画「フライングハイ」以降コント演技の俳優のイメージが強いが、本作では家弓家正氏のドスの利いた声が印象的。

・バー・シンドバッドの親父 … ヴァル・アヴェリー。第25話「権力の墓穴」の泥棒アーティ―役。

・デフォンテ … ヴィト・スコッティ。第19話「別れのワイン」でレストラン支配人、第20話「野望の果て」の背広屋の店主、などなど、いつもコミカルな役柄で楽しませてくれるお方


 さて、このエピソードのラストを締めくくるのが、有名な(?)コロンボの笑い話。
 ↓
 コロンボ「笑い話があるんですよ」
 ブレナー「ぜひ聞きたいね」
 コロンボ「ある日ポーカーとね、麻雀が賭けをした」
 ブレナー「どうなった?」
 コロンボ「前半はポーカーが優勢」
 ブレナー「ところが後半……、逆転」
 コロンボ「そのとおり」

 これ、全く意味が解らず毎回ポカンとさせられる。アメリカンジョークの類で翻訳すると意味が通じなくなるものかと推測するが、一度本場のコロンボファンにきっちり解説してもらいたいものである。


 作品のサブタイトル「IDENTITY CRISIS」は、意訳すると「自己認識の危機」。一体何がどうでこんなサブタイトルが飛び出してきたのかサッパリわからない。これも本場のファンに説明してもらいたい……

その他

 放送時間:1時間38分。
 
 

ピーター・フォーク小池朝雄,パトリック・マクグーハン…佐野浅夫レスリー・ニールセン家弓家正,オーティス・ヤング…渡部猛,デイビッド・ホワイト…早野寿郎,【演出】パトリック・マクグーハン,【脚本】ウィリアム・ドリスキル

 

他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 
刑事コロンボ完全版 2 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 3 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全版 4 バリューパック [DVD]
刑事コロンボ完全捜査ブック