感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第15話「溶ける糸」

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放送開始50周年 刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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perry-r.hatenablog.com
 

第15話 溶ける糸 A STITCH IN CRIME (第2シーズン(1972~1973)・第6話)

 

あらすじ

メイフィールドは、緊急入院した世界有数の心臓外科医ハイデマン博士の主治医となり、手術の準備を看護師のシャロンに命じる。博士を慕うシャロンは、メイフィールドが博士との共同研究で名をあげようと野心に燃えていたことを知っており、彼が博士を殺害するのではないかと、手術中も監視していた。だが手術は無事終了。しかし彼女はある事実に気がつき、メイフィールドに詰め寄る。

 
 外科医バリー・メイフィールドは、高名な心臓外科医ハイネマン博士の助手として共同で研究を行っていた。メイフィールドは研究の成果を早く世間に発表したがっていたが、慎重なハイネマンは、まだ一年はテストが必要だと言ってメイフィールドの提案を却下する。ハイネマンは元々心臓が悪かったため、ついに手術を受けることを決め、メイフィールドに執刀を依頼する。

 看護婦のシャロン・マーチンは、ハイネマンを敬愛すると同時に野心家のメイフィールドを嫌っていた。そしてメイフィールドが研究を独占するため、手術のミスのふりをしてハイネマンを殺害するのではないかと危惧し、手術中観察していたが、メイフィールドは手術を無事成功させた。

 しかし、手術後、シャロンは手術に使われた糸が何かおかしいと感づき、糸を調べようとするものの、メイフィールドに撲殺される。メイフィールドはシャロンの部屋に忍び込み、中を荒らして誰かが何かを探したように偽装する。

 コロンボシャロン殺しの担当として捜査を開始するが、すぐにシャロンの部屋が荒らされており、さらに部屋に麻薬(モルヒネ)が隠されていたことを知る。状況的には、シャロンは職場から麻薬を持ち出して売りさぱいており、そのため麻薬常習者に殺害されたように見えた。しかしコロンボは、犯人が指紋を残さないように周到に立ち回っている事から、麻薬常習者の犯行ではないと直感する。

 コロンボは捜査を進め、シャロンが殺された日に「マック(MAC)」なる男と面会の約束をしていた事や、ハイネマンの手術が済んだ後、シャロンは安心するどころか逆にイライラしていた、という証言を得るなど、手掛かりを集めていく。

 メイフィールドは別人に疑いを向けようと、シャロンの友人マーシャを呼び出し、シャロンがかつて付き合いのあった元麻薬常習者ハリー・アレキザンダーの名前を思い出させる。コロンボはマーシャからの話でハリーを調べるものの、ここ半年は会っていないという言葉を信用する。メイフィールドはハリーを犯人と思わせるため、ハリーの自宅で待ち伏せして麻薬を注射し、さらに麻薬の瓶や注射器を残していく。しかしコロンボはハリーが左利きなのに左手に注射していたことから、誰か別人が注射したのだと推理する。

 コロンボは偶然から、「マック(MAC)」が人名ではなく、医療品メーカー「マーカス・アンド・カールソン」の略称だと気が付く。そしてシャロンは殺された日、MACの社員の化学者と面会する予定だった事が判明する。さらに病院はMACから手術に使う糸を購入していたが、糸にはずっと残る「パーマネント」と、体内で溶けて消えてしまう糸の二種類が有ることを知る。もしも、ハイネマンの心臓手術に溶ける糸が使用されていたなら、数日で糸は溶けてしまい、ハイネマンは死亡してしまう。

 コロンボはメイフィールドに正面から対峙し、メイフィールドがハイネマンの心臓手術に溶ける糸を使い、それに気づいたシャロンを殺したと糾弾する。メイフィールドは証拠が何もないとせせら笑うが、コロンボはハイネマンが死んだ場合には、警察が検死解剖すると脅しをかける。メイフィールドは、ハイネマンに薬を盛って症状を悪化させ、心臓の緊急手術を実施する。

 手術が終わった後、コロンボに率いられた医師たちが手術室に乗り込み徹底的に調べるものの、メイフィールドが取り出したはずの溶ける糸がどこにも見つからない。コロンボは敗北を認めかけるが、最後の瞬間、メイフィールドが手術室で怒りでコロンボにつかみかかったふりをして、コロンボの服のポケットに糸を隠したことを見抜くのだった。
 
監督 ハイ・アバーバック
脚本 シャール・ヘンドリックス
 
 

感想

 評価は○(まずまず)。

 劇的な幕切れがあまりにも有名なエピソード。その他の部分の構成もまずまず手堅く、飛びぬけた作品とは思わないものの、それなりの一作と評価出来る作品である。

 サブタイトルの原題「A STITCH IN CRIME」の「STITCH」は「(傷口を縫う)ひと針」という意味。全体としては「犯罪のひと針」という事になるのだろうが、まあ意味は解らなくもないものの、ぼんやりとしていて切れ味はもう一つ、というところである。翻って日本語サブタイトルの「溶ける糸」だが、こちらはちょっとネタバレ気味という感じがして、やはりもう少し別の感じのものが良かったような気がする。


 この作品の最大の特徴は、殺人犯はメイフィールドだと解っているものの、「何故彼女を殺したのか?」という動機が視聴者にも隠されているところであろう。基本的にコロンボ作品は、冒頭の20分ほどで、犯人と被害者の関係、犯人が殺人を決意した理由、犯行の様子、などが手早く描写される。

 ところが本作は、被害者のジャニスが何に気が付き、犯人のメイフィールドは何故シャロンを口封じしなくてはならなかったのか、という点を伏せており、視聴者はコロンボと一緒に謎を解明していくことになる。犯人を先に明確にする「倒叙」のスタイルを守りつつ、同時に謎解きも並行して進めさせる、という話の作りが中々にユニークである。

 また、終盤になってメイフィールドのシャロン殺しの動機が明白になったあとも、また別の謎かけを用意しているというのも憎い構成である。クライマックスの「メイフィールドは、何も隠せず何も持ち出せない手術室から、溶ける糸をどうやって消し去ったのか?」という不可能トリックに対して、コロンボがあっと驚く答えを導き出してみせ、そしてそのまま物語が終わる、という作りは実に印象的だった。


 また本作はコロンボのキャラクター付けのためのシーンが色々と用意されていて、ファン的には楽しい回となっている。まず序盤に、コロンボが殺人現場に呼び出された際、被害者の車に持参したゆで卵をぶつけて殻を割り、さらに殻を地面に落とし始めたため、車の指紋を取っていた鑑識の人間が文句を言うシーンは、見ていてつい笑いが込み上げてきた。

 さらにそのあとがもっと楽しくて、制服警官が凶器のバールを見つけてきてコロンボに見せると、コロンボは「もっとちゃんと持っていてくんない?」と警官に指示するものの、凶器を調べるのかと思ったら、二つ目のゆで卵をバールにぶつけて割るためだった、という事が解り、もうこの辺りでは声を出して笑ってしまった。

 またコミカルなシーンだけではなく、終盤にはコロンボは追及をのらりくらりとかわすメイフィールドに腹を立て、デスクの上の物を叩きつけて、メイフィールドに厳しい口調で食って掛かる。いつもひょうひょうとしていて、激しい感情には縁の無さそうなコロンボだけに、この一幕はやたら記憶に残った。


 このエピソードで気になるのは、ラストシーンのその後がどうなったかである。作品はコロンボが溶ける糸を見つけ出したところで終わってしまっており、メイフィールドが素直に負けを認めたかどうかは描かれない。もしも、メイフィールドが糸の事などは知らないとあくまでしらを切った場合、コロンボはメイフィールドを追い込むことは出来たのかどうか、は、かなり微妙なような気がするが、コロンボには勝算は有ったのだろうか。


備考

 放送時間:1時間15分。

 本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第4位にランキングされた。
 
 

#15 溶ける糸 A STITCH IN CRIME
日本初回放送:1973年




スター・トレック」シリーズのミスター・スポック役としておなじみのレナード・ニモイがゲスト。“ミスター・スポック”さながらに論理的で冷静に行動する犯人を演じる。ラスト1分間で大逆転するエンディングは、まさに『コロンボ』の極み!。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
バリー・メイフィールド・・・レナード・ニモイ天田俊明
ハイデマン・・・ウィル・ギア(巖金四郎)
シャロン・・・アン・フランシス翠準子
マーシャ・・・ニタ・タルボット(佐原妙子)


演出
ハイ・アバーバック


脚本
シャール・ヘンドリックス

 

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