感想：海外ドラマ「刑事コロンボ」第２０話「野望の果て」

刑事コロンボ｜NHK ＢＳプレミアムＢＳ４Ｋ海外ドラマ　https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送　NHK BSプレミアム。

【※以下ネタバレ】
　

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perry-r.hatenablog.com
　

第２０話　野望の果て　CANDIDATE FOR CRIME　（第3シーズン（1973～1974）・第3話）

あらすじ

『刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送！議員候補ヘイワードは、脅迫状を受け取ったとマスコミに発表し、邪魔な選挙参謀者を殺害するが…。

投票日を間近に控えた上院議員候補ヘイワードは、脅迫状を受け取ったとマスコミに発表する。実は選挙参謀のストーンが考えた票稼ぎのためのやらせだったが、ヘイワードはこれを利用して何かと邪魔になってきたストーンの殺害を決行する。彼はヘイワードの上着を着ていたため、ヘイワードと間違えられて殺されたかのように見えたが、コロンボは数々の矛盾点を見逃さなかった。

●序盤

　上院議員選挙に出馬中のネルソン・ヘイワードは、公約として組織犯罪撲滅を掲げていた。ある日ヘイワードは何者かから脅迫状を受け取ったといって警察に出向くが、マスコミを前に、警察の護衛は受け入れるが、選挙戦からは撤退しないと宣言する。

　実は、脅迫云々はヘイワードの選挙参謀ハリー・ストーンが計画した、同情票を得る為の自作自演だった。ストーンは、ヘイワードが妻の秘書リンダ・ジョンソンと浮気していることを批判し、選挙のために別れるように口うるさく命令する。しかしヘイワードはリンダと別れる気は毛頭なく、逆に疎ましいストーンを殺害することを決意していた。

　ヘイワードはストーンを上手く騙して自分の背広と帽子で外出させてから別荘に向かわせ、自分は別荘で待ち伏せておいて、やって来たストーンを射殺する。そのあと、犯行時刻の偽装のため、用意しておいた腕時計を実際よりも遅い午後9時20分に合わせてから壊してストーンの腕につける。そして家に戻ると妻の誕生日パーティーに参加してアリバイを作り、最後にパーティー中の午後9時20分過ぎに自宅から匿名で警察に電話し、別荘でヘイワードを殺したと伝える。

●中盤

　警察はヘイワードの別荘でストーンの死体を発見し、ストーンはヘイワードと人違いされて殺されたと考える。しかしコロンボは、別荘近くの街路灯が壊れていた事から、もし犯人がストーンを尾行してきて射殺したとしたら、車を不自然な状態で停止させるしか無かった事に疑問を抱く。

　コロンボはヘイワードに会い、ストーンの死体が発見された時にはストーンの車のエンジンが冷え切っていたことを指摘し、本当に犯行時刻は午後9時20分より速かったのではないか、と疑問を呈する。

　コロンボは、事件翌日にヘイワードの事務所にオーダーメイドの新しい背広が届いたのを見かけるが、背広は事件の10日も前に注文されていたことを知る。またストーンは、選挙参謀なのに、事件当日にヘイワードが妻のパーティーに参加することを知らなかったらしいことも判明していた。

　コロンボはヘイワードに、何故事件の10日も前に背広を注文したのか尋ねるが、ヘイワードは背広が古くなっていたと切り返す。しかしコロンボはさらに事件現場周辺には電話を掛けられる場所が無く、犯行時刻が午後9時20分なら、犯人が警察に電話を掛ける事が出来なかったことを指摘する。

　コロンボは、生前のストーンは持ち物に頑丈さを第一に求めるタイプだったにも関わらず、死んだときにはめていた腕時計は簡単に壊れてしまうものだった事にも疑問を呈する。

●終盤

　投票日当日。ヘイワードは、また何者からか脅迫状が届いたように自作自演した後、こっそりホテルの自室で、消音機付きの銃を使い、ベランダから窓ガラスを撃ちぬいて室内に弾を打ち込む。そして一旦投票に出た後、再度自室に戻ってから爆竹を鳴らしておいて、今ベランダから撃たれたと騒ぎ立てる。

　しかしやって来たコロンボは犯人はこの部屋の中にいると言い、それを聞いたヘイワードはコロンボは自分を疑っていると激怒してみせ、コロンボに対し、すぐに弾丸を取り出して検査をしろと要求する。しかしコロンボは、３時間も前に弾丸を取り出して検査も済ませていると言い、ヘイワードを唖然とさせる。

　コロンボは、ヘイワードが自室で一人で電話をしていると言ったにも関わらず外線を使用した形跡がなかったため、ヘイワードの留守中に部屋を調べ、窓ガラスの穴や壁の弾痕を見つけていた。そして弾の検査の結果、使用された銃はストーン殺しに使用されたものと同じだった。それを聞いたヘイワードは何も言えなくなり、コロンボはヘイワードを逮捕とすると言う。
　
　
監督　ボリス・セイガル
脚本　アービング・パールバーグ＆アルビン・R・フリードマン＆ローランド・キビー＆ディーン・ハーグローブ（原案：ラリー・コーエン）

感想

　評価は◎（面白い）。

　93分枠の長尺に相応しい充実した内容のエピソード。シナリオはなんと原案一人＋脚本四人の五人がかりで作られているだけあり、コロンボが犯人を追い詰める過程も面白いし、結末は劇的、と、満足度の高い一作。

　サブタイトルの原題「CANDIDATE FOR CRIME」は「犯罪の候補者」といった意味。犯人のヘイワードが上院議員選挙の候補者であることから来ているタイトルで、まあ及第点といったところ。逆に日本語版の「野望の果て」は、今一つピンと来ずもうひとつである。

　コロンボが事件の些細な矛盾に気が付き、誰も疑わないような人物に注目し、どんどん追い詰めていく、という王道の展開がきっちりと作りこまれており、まさにコロンボ物の理想ともいえるエピソード。

　コロンボが気が付く事件の手掛かりが、「被害者がガレージで射殺された時の照明」「犯行時刻直後に電話をかける場所がない」「被害者の物とは思えない壊れやすい腕時計」など、何故そこに気が付くのか、という細かいことばかりで、コロンボの鋭い頭脳、「名探偵」ぶりがしっかり示されていて見ていてゾクゾクさせられた。

　さらに、最初は余裕だったヘイワードが、コロンボの繰り出す疑問をだんだんさばききれなくなり、さらに終盤に妻のビクトリアの口から、コロンボに自身のことを色々追及されたと聞かされて焦りを募らせていく描写も実に巧みだった。

　最後は充実したエピソードに相応しい劇的な結末で、ヘイワードが自作自演の銃撃を騒ぎ立て、かさにかかってコロンボを責め立てようとするものの、逆にヘイワードの行動を全て見切っていたコロンボが銃弾を取り出してヘイワードを黙らせてしまう、という展開は痛快の一言だった。

　この話で唯一気になるとすれば、ヘイワードの動機くらいで、愛人の事をうるさく言われたくらいで側近の選挙参謀を殺すか？という点が弱かった感があるが、それ以外の「殺人事件発生から犯人逮捕まで」の部分はもう完璧だった。さすが五人がかりで知恵を絞って作り上げたシナリオである。

　この話は長尺版なので、時間に余裕があるため、コミカルなシーンも結構用意されていて、特に面白いのがコロンボがヘイワードが上着を仕立てた紳士服店にいき、店員と会話をするところ。既製服は扱わず、オーダーメイドしか受け付けない、という高級店での、あきらかに場違いなコロンボと店員との会話がコントの様になっていて妙におかしい。最後も、コロンボが上着が土曜日までに間に合わないとぼやくと、店員が「お急ぎでしたら、手軽なところで、デパートなどでは？」と投げやりにいうのが楽しい。ちなみに店員を演じているのはヴィトー・スコッティという俳優で、第１９話「別れのワイン」でもレストランのマネージャーを演じていた。

　もう一つはコロンボがおんぼろ愛車を運転中に制服警官に停車させられて、ヘッドライトやウインカーやワイパーの不備を指摘される場面。これだけでも愉快だが、ちゃんとその次の、コロンボが車の修理のためガソリンスタンドを訪ねるシーンのための伏線になっていて、ガソリンスタンドでも、コロンボが警察官と知った店員が、あまりの車のオンボロぶりに「変装して仕事中ですか？」と聞くのには吹き出してしまった。

　ちなみに、ガソリンスタンドでの車の修理中に、コロンボが代車としてスタンドのトラックを借り、ヘイワードの別荘からの所要時間をストップウォッチで計測する展開があり、コロンボが自分の車以外を運転しているシリーズでも珍しいシーンを見ることが出来た。

　事件の捜査の過程、劇的な結末、ほどよいユーモラスさ、と、全てにおいて申し分も無い出来栄えで、コロンボ物としてはトップクラスの出来栄えの一作だった。

備考

　放送時間：1時間33分。
　
　

#20　野望の果て　CANDIDATE FOR CRIME
日本初回放送：1974年

「議員候補」が犯人という大胆な設定で、複数の脚本家が周到に練り上げた隙のないミステリー。コロンボが犯人を追いつめていく「手数」が多くパワフルな展開。さらに今作では珍しくコロンボが冒頭から登場している。
出演
コロンボ･･･ピーター・フォーク（小池朝雄）
ネルソン・ヘイワード･･･ジャッキー・クーパー（中谷一郎）
ビクトリア･･･ジョアンヌ・リンビル（稲野和子）
リンダ･･･タイシャ・ステアリング（津田京子）

演出
ボリス・セイガル

脚本
アービング・パールバーグ
アルビン・R・フリードマン
ローランド・キビー
ディーン・ハーグローブ