刑事コロンボ|NHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム。
【※以下ネタバレ】
他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ
第18話 毒のある花 LOVELY BUT LETHAL (第3シーズン(1973~1974)・第1話)
あらすじ
『刑事コロンボ』旧シリーズ一挙放送!化粧品会社の女社長が、社運をかけた新商品の開発をめぐって恋人だった開発スタッフを殺害!
化粧品会社の美しき女社長ビベカは、社運をかけた奇跡のシワ取りクリームの開発に成功。ところが、開発スタッフのカールがライバル会社にクリームのサンプルを持ち込んでいたと知り、彼の家を訪れる。かつては恋人でもあったカールに侮辱され、カッとなったビベカは彼を顕微鏡で撲殺してしまう。一方、捜査を進めるコロンボは謎の手のかぶれに悩まされていた。
●序盤
有名化粧品会社ビューティー・マークの社長ビベカ・スコットは、会社がここ二年ヒット商品を出せず株価が下落していることから、新開発の画期的しわ取りクリームを大々的に売り出すつもりだった。ところが発売直前になって、クリームの開発スタッフから失敗作だったとの報告が入り、計画は水泡に帰してしまう。
直後、ライバル社の社長秘書でビベカのスパイであるシャーリーから、何者かがしわ取りクリームを売り込みに来たという情報が入る。ビベカはそれが自社のクリーム開発スタッフの一人・カールだと気が付き、深夜カールの家に向かう。
カールはかつてはビベカの恋人だったが、今はビベカを恨んでおり、クリームの分子式とサンプルを盗み出した後、残りのサンプルは使えないように細工をしていたのだった。ビベカはカールからサンプルを取り戻し、さらに分子式を買い取ろうとするが、カールから侮辱され、我を忘れて顕微鏡で殴り殺してしまう。
●中盤
旅行会社の社員がカールの死体を発見して通報し、コロンボたちが捜査にやってきた。カールは安月給にも拘らずヨーロッパへの豪華な旅行を予約しており、また室内の紙には大金を思わせる数字が書きつけてあった。さらに台所には何かの容器を隠していた痕跡が残っていた。
コロンボはビューティー・マーク社に行きビベカに会うが、ビベカはカールなど知らないとシラを切る。コロンボは大金をメモしたのは筆記用具ではなく眉墨だったことから犯人は女であろうという推測を話す。またコロンボは会社で開発していた何かが最近プロジェクト失敗で中止されたこと、そのサンプルが入っていた容器がカールの家の痕跡と同じであること、を発見する。
コロンボはビューティー・マーク社のライバル社の社長ラングに会い、カールの家に社長室直通の電話の番号が残っていたことを尋ねるが、ラングは何も知らないととぼける。
シャーリーは状況証拠から、ビベカがカールを殺したと考え、口をつぐむ引き換えとしてビベカに重役の地位を要求してきた。ビベカはシャーリーを呼び出すと、薬を仕込んだタバコを渡し、運転中にタバコを吸ったシャーリーは意識がもうろうとなった末に事故を起こして死んでしまう。
コロンボはビベカがカールと二年前に恋人だった事実を突き止め、またビベカに最近手のかぶれに悩まされていることを愚痴る。そして原因は毒ヅタの成分「ウルシオール」で、カールはアルバイトで自宅でウルシオールを扱っていたことも確認する。そして同じ頃ビベカもまた同様の手のかぶれに襲われていた。
●終盤
警察が突然ビベカの部屋の家宅捜索のために乗り込んできたため、ビベカは泣く泣くしわ取りクリームの唯一のサンプルを海に捨てる。そこにコロンボが現れ、ビベカを殺人容疑で逮捕すると通達する。
カールはウルシオールを扱っていたが、それは顕微鏡のスライドの上に乗っていた。コロンボは現場でスライドの破片のガラス片に触れたためウルシオールにかぶれてしまった。そしてビベカも明らかにコロンボと同じ症状であり、それは顕微鏡で殴りつけた時にスライドのウルシオールに触れた証拠だった。ビベカは観念しておとなしく連行されていった。
監督 ジュノー・シュウォーク(=ヤノット・シュワルツ)
脚本 ジャクソン・ギリス(原案:ミルナ・ベルコヴィッチ Myrna Bercovici)
感想
評価は○(そこそこ)。
記念すべき第三シーズンの第一話。トリッキーな要素の無い手堅い構成の一作だが、オチが弱くてもう一つ物足りなさが残るのが惜しいエピソードである。
サブタイトルの原題「LOVELY BUT LETHA」は「美しいが致命的」といった意味で、劇中でコロンボがビベカの事を何度も美人だと讃えていたので、美人の殺人者であるビベカを指していると思われる。日本語タイトル「毒のある花」も同じ趣旨だと思われ、どちらもまずまずといったところである。
本作では、コロンボが細かい証拠(眉墨など)を見落とさずに拾い上げ、またカールの自宅、ビューティー・マーク社、ライバル会社、などを丹念に調べて回って事件とその背景をじっくり明らかにしていく展開は、コロンボ物らしい雰囲気に満ちている。コロンボがあまりにたびたび訪ねてくるため、仕事を邪魔されるビベカがイライラし始めるところなども王道展開である。
さらにいち早く事件の真相に気が付いたシャーリーが、欲をかいたためにビベカに口封じのため殺されてしまう流れも、(コロンボ物にはありがちなパターンだが)なかなか面白い。
しかし、クライマックスでコロンボがビベカを犯人と指摘する証拠が、ウルシオールのかぶれだけ、というのはあまりにも弱すぎて拍子抜けだった。ビベカのかぶれがウルシオールのためだと特定されたとしても、それが犯行現場で付着したという証明にはなっていないので、ビベカはいくらでも言い逃れが出来てしまうと思われる。自社の研究室でうっかりさわったとか言い訳しても、ビベカを守ろうとする社員たちが偽証してくれるような気もする。そこがどうにも不満に感じられた。
もっとも、ビベカは家宅捜査の知らせを聞いて、しわ取りクリームの唯一の現物を、証拠隠滅のため泣く泣く海に投げ捨てる羽目に陥っている。時間と資金を投入して開発したクリームを、それを取り戻す過程で殺人を犯したのに、その殺人の証拠を隠滅するためクリームの始末を迫られる、というオチは実に皮肉であり、本作で一番印象的なシーンだった。ビベカもこのことで精神にダメージを受け、犯行の言い逃れをする気力を失っていたのかもしれない……
と色々考察することは出来るが、いずれにしろラストがもう一つパンチ力が足りなくて物足りない一作、という評価となった。
本作の監督は「ジュノー・シュウォーク」……、と聞くと誰かと思ってしまうが、「ヤノット・シュワルツ」と書けばそれなりに有名な人物である。フランス人だそうで、そのため表記が色々とあるらしい。
被害者カール役を演じるのは、あのマーチン・シーン。後に映画・テレビで有名になる大スターだが、放送当時(33~34歳)の頃はまだ中堅俳優だったようで、あっという間に姿を消してしまう。その後の大成功を考えると、まさに人に歴史ありという感じである。
備考
放送時間:1時間14分。
#18 毒のある花 LOVELY BUT LETHAL
日本初回放送:1974年
本作にはヒッチコック映画で活躍したベラ・マイルズ、ホラー映画に数多く出演したビンセント・プライス、ドラマ『ザ・ホワイトハウス』主演のマーティン・シーンが出演。演出は映画『ある日どこかで』『ジョーズ2』のジュノー・シュウォーク。
出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク(小池朝雄)
ビベカ・スコット・・・ベラ・マイルズ(伊藤幸子)
ラング・・・ビンセント・プライス(三田松五郎)
カール・・・マーティン・シーン(伊武雅之)
シャーリー・・・シアン・バーバラ・アレン(芝田清子)
演出
ジュノー・シュウォーク
脚本
ジャクソン・ギリス