【推理小説】感想:小説「福家警部補の挨拶」(大倉崇裕/2008年)

福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4488470025
福家警部補の挨拶 (創元推理文庫) 文庫 2008/12/12
大倉 崇裕 (著)
文庫: 347ページ
出版社: 東京創元社 (2008/12/12)
発売日: 2008/12/12

【※以下ネタバレ】
 

本への愛を貫く私設図書館長、退職後大学講師に転じた科警研の名主任、長年のライバルを葬った女優、良い酒を造り続けるために水火を踏む酒造会社社長―冒頭で犯人側の視点から犯行の首尾を語り、その後捜査担当の福家警部補がいかにして事件の真相を手繰り寄せていくかを描く倒叙形式の本格ミステリ刑事コロンボ古畑任三郎の手法で畳みかける、四編収録のシリーズ第一集。

 

あらすじ

 捜査一課の福家警部補を主役とする連作短編集。シリーズ第一作。全ての作品が、まず犯人側から犯行の様子を描写し、続いて捜査担当の福家が犯人のミスを見つけ出して犯人を突き止める過程を描く、倒叙形式の作品。


「最後の一冊」

 私設図書館の女性館長は、図書館を売却しようとする現オーナーを夜中に図書館に連れてきて、殴り倒した後、本棚を倒して下敷きにして殺す。そしてオーナーが夜中に本を盗みに来て、事故に巻き込まれたかのように装う。しかし自分がその夜に本を図書館に持ってきたことを福家に見抜かれてしまい、犯行を認める。


オッカムの剃刀

 元・警察の科学捜査部主任で、復顔術の権威であり、今は大学講師の男が、同じ大学の準教授を路上強盗を装って殺害する。しかし無数のミスを犯した挙句福家に犯人だと指摘される。実は男は自分が妻を殺して山に埋めた後、妻が失踪したと騒いでいた。そのあと妻の白骨死体が見つかった際、自分が復顔を担当したのを良い事に全く別人の顔に復顔して事件を迷宮入りさせていた。しかし殺された准教授にそのインチキがばれて脅迫されていたのだった。


「愛情のシナリオ」

 ある女優がライバル女優を自宅で睡眠薬で眠らせた後、車のエンジンをかけっぱなしにしてガス中毒死させる。しかし死んだ女優が死ぬ直前自分の携帯電話で外に連絡していたことから、その夜その場にいたことがばれてしまう。犯行の動機は、長年のライバル関係がこじれたからではなく、自分の隠し子の新人女優を殺された女優がスキャンダルで潰そうとしたからだった。


「月の雫」

 酒造会社の社長が、自社を乗っ取ろうとするライバル社の社長に屈したふりをして夜中に蔵に案内し、タンクの中に突き落として殺す。しかし夜中に誰かが蔵の窓を開けたことを指摘され、自分が開けたことを白状するしか無くなり、犯行も認めざるを得なくなる。


感想

 評価は○(結構面白い)

 どの作品も、完全にドラマ「刑事コロンボ」の雰囲気そのままという凄い本。まあ元々作者の大倉崇裕氏はコロンボのノベライズ作品も手掛けたことが有るコロンボマニアだそうで、それが高じてこの「福家警部補」物を書き始めたらしいので、理由が解るとまあ納得というところですが。

 主人公・福家警部補(女性)は、童顔でしかも身長が152センチしか無いため、初対面の人間には絶対警察関係者と思われません。そのため、事件現場に行ったり聞き込みに行くたびに、毎回相手に侮られて婦警か事務員かマスコミ関係者にしか見られない、というお約束の展開から始まり、福家が犯人が見逃した細かい点を目ざとく見つけ出し、犯人に何度も面会してイライラさせた挙句、最後に証拠をズバリと突きつけて相手を参らせる、というのが定番の流れで、つまり「刑事コロンボ」そのまんま。

 正直言って、毎回毎回毎回、福家が相手と「責任者を呼んできて」「いや、私がここの責任者ですが」云々というやり取りをする流れには心底飽き飽きしましたが、それ以外の部分はなかなかに面白かった。

 犯人が適度にミスをして、福家がそれを鋭い観察眼で見落とさずに見つけ出し、何かがおかしいと言って考え込み、着実に真相に迫る流れは面白いし、文章もすっと読めて、ドラマのように情景が頭に浮かんできます。ということで、あまりにもコロンボの真似くさいところを気にしなければ、良質な推理小説シリーズだと思いました。

 ということで評価はまずまずです。


補足

 「オッカムの剃刀」は、NHKが2009年1月2日に「福家警部補の挨拶 ~オッカムの剃刀~」のタイトルでドラマ化しています。

正月ドラマ 福家警部補の挨拶
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009050267_00000
主な出演者
永作博美小泉孝太郎、きたろう、野間口徹池田成志大杉漣加藤夏希蛭子能収笹野高史伊藤裕子草刈正雄小松政夫日村勇紀


大学教授・柳田(草刈正雄)は、同僚の池内(池田成志)から恐喝されていた。柳田は「科警研の伝説」とうたわれたキャリアを生かし、周到な手口で池内を殺害。事件は連続強盗の仕業で処理されるはずだった。しかし、警視庁捜査一課・福家警部補(永作博美)が疑問を抱く。30過ぎ・童顔・地味・マイペースな福家だが、抜群の推理能力と強じんな体力で、周囲を振り回しつつ、柳田の犯罪を暴いていく。そして過去の犯罪をも…。


原作:大倉崇裕 脚本:福原充則 音楽:瀬川英史

 

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