【推理小説】感想:小説「写本室の迷宮」(後藤均/2002年)

写本室(スクリプトリウム)の迷宮 (創元推理文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4488450016
写本室(スクリプトリウム)の迷宮 (創元推理文庫) 文庫 2005/3/1
後藤 均 (著)
文庫: 305ページ
出版社: 東京創元社 (2005/3/1)
発売日: 2005/3/1

【※以下ネタバレ】
 

大学教授にして推理作家の富井に託されたのは、著名な画家・星野が遺した手記だった。―終戦直後のドイツ。星野は迷い込んだ城館で催される推理ゲームに参加したが、現実に殺人事件が起きる!推理合戦の果てに到達した驚愕の解答とは?さらに手記には大いなる秘密が隠されているという。富井は全ての謎を解き、星野の挑戦を退けることが出来るのか?第十二回鮎川哲也賞受賞作。

 

あらすじ

 大学教授で推理作家である富井は、スイスを旅行中、偶然から第二次大戦前に欧州で活躍していた画家・星野の手記を入手する。星野は20年前に、いつの日か日本人が通りかかることが有ったら手記を渡してほしいと言づけていたという。


 星野の第一の手記。1945年12月。スイスを移動していた星野は、大雪で立ち往生し、近くにあった貴族アイヒェンバッハの屋敷に助けを求める。屋敷内ではアイヒェンバッハを始めとする推理マニアたちが集まっており、アイヒェンバッハの書いた犯人当て小説「イギリス靴の謎」に挑むことになっていた。富井は飛び入りながら、その犯人当てに参加する。


 犯人当て小説「イギリス靴の謎」。イギリス人商人ピート・ロバーツが殺害された。ロバーツは商用でベルギーに旅行していたが何者かに拉致され、ロンドンで首を切断された死体として発見されていた。しかし胴体が置かれてい公園は偶然から警察の非常線の中にあり、首をその外に持ち出せたはずも無かった。犯人はいかなるトリックを使って首を移動させたのか?


 星野の第二の手記。アイヒェンバッハが死体となって発見され、状況的に館の中にいる誰かが犯人でしかあり得なかった。また犯人当て小説の回答部分も見つからなかった。やがて一行はアイヒェンバッハの死の真相を突き止めようと推理ゲームの内容を分析する内、この犯人当て小説が、9年前に現実に起きた事件を元にしていることが解る。アイヒェンバッハはこの小説を使って犯人を挑発し、殺しに来させることで真犯人を突き止めようとしていたのだった。結局犯人は参加者の一人アッシャーでソ連のスパイであることが判明し、諜報機関に逮捕された。


 富井は手記を読み終わり、その中に色々隠されている手掛かりを元に五島列島に向かい、そこで星野の娘に出会う。星野の娘は富井に対し、星野も解けなかった有るミステリーに挑戦してみないかと誘う。〆。


感想

 評価は△(つまんない)

 小説が三重入れ子構造、すなわち一番外側の富井の物語、その内側の星野の物語、一番内側の犯人当て小説、という複雑な形になっており、どんな面白いことになるのかとワクワクしていたら、とんだ見掛け倒しだった。

 一番内側の「イギリス靴の謎」の読みおえたところまでは面白かったが、そのあと「この犯人当て小説は、現実の事件を元にしているだけで答えはない」とか言い出した時点でガクッと来たし、さらに集まった人間が色々知恵を出し合って、自分たちの中に潜んでいる殺人犯を探し当てるというシチュエーションも全然そそらなかった。

 「イギリス靴」の事件の不可思議性も「スパイ組織や警察が何人もで協力してやった事だった」という事なので、それだったら何でも有りになるはずで、もう謎解きに何一つ感心する箇所が無く呆れただけだった。

 さらに富井が手記の中に隠されているという諸々を適当に組わせて五島列島に出かけると、「次の事件に挑戦してください」とか切り出されて、全く終わりじゃないオチで締めるので、もう脱力が甚だしく、本を床に叩きつけたくなった。

 小説のコピーを見て、巧妙な叙述トリックとかそういう物を期待して読んだだけに、期待と現実の落差が物凄過ぎ、もう怒りすら湧いてきた。まごうこと無き外れ小説であった。
 
 

2019年の読書の感想の一覧は以下のページでどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
 

写本室(スクリプトリウム)の迷宮