【推理小説】感想:小説「気分は名探偵 犯人当てアンソロジー」(有栖川有栖、他/2006年)

気分は名探偵―犯人当てアンソロジー

http://www.amazon.co.jp/dp/4198621675
気分は名探偵―犯人当てアンソロジー 単行本 2006/5
我孫子 武丸 (著), 霧舎 巧 (著), 貫井 徳郎 (著), 法月 綸太郎 (著), 有栖川 有栖 (著), 麻耶 雄嵩 (著)
単行本: 319ページ
出版社: 徳間書店 (2006/05)
発売日: 2006/05

【※以下ネタバレ】
 

犯行現場へようこそ。名手6人、極上の謎できました!
列車、別荘、学園、・・・謎多き事件現場に、本格推理のリーダーたちが、あなたを招く!!


「バラエティに富んだ内容になったので、読者の方それぞれの好みに合った楽しいのが、ひとつあるはずです。」(我孫子武丸)


「1日1本だったら、1週間近く楽しんでいただけます。ああだこうだ考えながら、ゆっくりお楽しみください。」(有栖川有栖)


「犯人当てではあるけれど、普通に短篇として読んでもおもしろいものばかり、出揃ったと思います。」(霧舎巧)


「競馬も馬券を買わずに見ているだけではつまらないのと同じで、ぜひ謎を解きながら読んでいただきたいですね。」(貫井徳郎)


「もとが新聞連載だったので、ふだんのぼくたちとは、また違うおもしろさも出ているのではないでしょうか。」(法月綸太郎)


「問題篇と解決篇にせっかく分かれているので、1回は問題篇だけ読んで考えてみるのもいいのでは。」(麻耶雄嵩)

 

あらすじ

 2005年にタブロイド新聞「夕刊フジ」で連載された犯人当て小説のアンソロジー。どの作品も本編と解決篇に分けられている。


・1 有栖川有栖「ガラスの檻の殺人」(正解率11%)

 主人公の探偵(仕事が無くて暇)は、大学時代の女友達からストーカーに対しての護衛役を依頼される。そして一度相手を追い払うものの、次に出会ったとき相手は刃物で刺された死体になっていた。犯行現場周辺は人通りの少ない地域で、刑事が言うところの「ガラスの檻」であり、犯行時刻に周囲にいた人間は特定されていた。しかし凶器の刃物がどうしても見つからない。犯人は誰で凶器は何処に消えたのか?


 解決篇。犯人はタバコ屋の親父。凶器はタバコの自動販売機の中の空きスペースに隠されていた。



・2 貫井徳郎「蝶番の問題」(正解率1%)

 吉祥院先輩は大ベストセラー作家。美形で大金持ちで、その上警察の捜査に協力して難事件を解決した事のある名探偵である。ある日、後輩の桂島は吉祥院にある事件を持ち込むが、それは奥多摩で五人の変死体が見つかったというものだった。どうやら五人のうちの誰かが他の四人を殺し、最後に自殺したらしいのだが、誰が犯人なのか解らない。しかし、五人のうちの誰かがノートパソコンに手記を残していたので、そこから事件の真相を解明してほしいという。

 手記は、劇団員五人が奥多摩で合宿したものの、仲間がどんどん何者かに殺されていく、という内容だった。しかし手記は途中までしか書かれておらず、犯人が誰かも記されずに終わっていた。


 解決篇。手記は叙述トリックで、明記されていないものの、劇団員たちの大半は耳が不自由だった。その事から明らかに耳が聞こえる人物が犯人と特定できる。ちなみにこの手記は桂島が創作したもので、作家になれないかと思って試しに書いたものだったが、吉祥寺にあっさり見破られる。



・3 麻耶雄嵩「二つの凶器」(正解率22%)

 名探偵・木更津の元に大学時代の女性の先輩が現れ、殺人の疑いをかけられている弟を助けて欲しいと依頼してくる。事件は大学の研究室でオーバードクターがレンチで撲殺されたというもので、関係者の証言を突き合わせると彼女の弟しか犯人ではありえないという。

 木更津は関係者の証言を確かめて回るが、怪しい人物がナイフを購入したという事実が浮上する。犯人はナイフを購入したのに、何故殺人ではレンチを使ったのだろうか? そして殺したのは誰なのか?


 解決篇。実は犯行は二人組の仕業で、被害者も共犯者だった。共謀して偽のアリバイを構築した後、もう一方が裏切って相棒を撲殺した。全ては木更津の先輩の弟をハメるためだった。という真相。



・4 霧舎巧「十五分間の出来事」(正解率6%)

 新幹線の中で男が撲殺されていた。男は周り中の人間に威張りちらしてかなりの人数とトラブルを起こしており、その誰からも恨まれていた。男に関係ある人間が集められるものの、誰も撲殺が出来るような凶器を持っていなかった。犯人は誰で凶器は何か。


 解決篇。犯人は鉄道マニアの青年。凶器は手にしていた時刻表の背の部分で、殴り殺した後ゴミ箱に捨てた。



・5 我孫子武丸「漂流者」(正解率8%)

 主人公の男性は救命胴衣を着けた状態で瀬戸内海の小島に流れ着き、男女に救出されるが、記憶を失っており、自分が誰かわからない。

 救命胴衣には手記が入っており、その内容は芸能会社のマネージャーが記したものだと解る。その会社の社長は、自分の会社のアイドルにテレビ局の重役相手に枕営業をさせるために孤島に連れていったものの、やがて社長と重役が何物かに殺されたという内容だった。もしこの内容がフィクションではないとすると、この主人公は手記のどの人物なのか?


 解決篇。叙述トリック。まず手記の中で男性ぽく書かれていた「専務」が実は中年の女性。そして島で主人公を助けた二人のうちの一人がその専務。主人公は手記の中の関係者ではなく、島で観光していたら、救命ボートで逃げてきた専務に殴り倒されて海に放り込まれた。そのあと第三の人物が通りかかったので、専務は仕方なく観光客のふりをして主人公を引き上げた。



・6 法月綸太郎ヒュドラ第十の首」(正解率28%)

 男の死体が発見され、調査の結果、被害者は妹を妊娠させた後捨てて自殺に追い込んだ相手を探していたと解る。その相手が逆に男を殺した可能性が高い。法月綸太郎も父・法月警視の捜査に協力することになり、被害者の残したデータから、三人の「ヒラド・ノブユキ」という容疑者が浮上するが決定的な証拠が見つからない。しかし綸太郎は被害者の部屋で犯人がとった行動から、犯人を特定する。


 解決篇。犯人は外科医のヒラド・ノブユキの妻。現場の行動から犯人はゴムアレルギーと特定できたため。


感想

 評価は○(まずまず)


 犯人当てミステリーというのは推理小説好きの人間なら誰しも大好物ですし、しかも売れっ子作家をずらりとそろえているので、クオリティも安定しており、ハズレ作品が無くてまずまずの満足度でした。


・1 有栖川有栖「ガラスの檻の殺人」(正解率11%)

 かなり素直な謎解き。タバコ屋の親父が鍵を持っていた事や、刑事たちがタバコの自動販売機の周囲を調べた、という描写から、なるほど推理は可能ではある。



・2 貫井徳郎「蝶番の問題」(正解率1%)

 叙述トリック物。手記の中の登場人物の大半が耳が不自由だった、というのがキモだが、これに気がつけというのは無理じゃね?



・3 麻耶雄嵩「二つの凶器」(正解率22%)

 理詰めで回答可能ではあるが、ややこしすぎてちょっとどうかという印象。



・4 霧舎巧「十五分間の出来事」(正解率6%)

 なんか真相は実にあっさりしたもので、正直言って拍子抜けした。他の作品と比較して謎の密度が薄すぎ。



・5 我孫子武丸「漂流者」(正解率8%)

 手記の内容を分析して、参加者六人のうち、男は三人・女も三人、としたのは解るが、何故専務が女だと解るのか、その説明が無い。そこが引っかかってどうも回答に素直に納得できなかった。



・6 法月綸太郎ヒュドラ第十の首」(正解率28%)

 被害者の部屋で犯人が軍手を五枚もとっかえひっかえしている、という事実から犯人を特定するが、なんか推理小説というより頭の体操的パズルを読まされているような気がした。



 と色々不満を述べつつも、推理クイズ物としてはまずまずの出来栄えだったという評価です。
 

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気分は名探偵―犯人当てアンソロジー (徳間文庫)