【ゲームブック】感想:ゲームブック「王の冠(ソーサリー第4巻)」(スティーブ・ジャクソン/2024年)【クリア】

Crown of Kings (Puffin Adventure Gamebooks)
Crown of Kings (Puffin Adventure Gamebooks)

http://www.amazon.co.jp/dp/4815619638
ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~スティーブ・ジャクソン編~「サラモニスの秘密」 単行本(ソフトカバー) 2024/2/16
安田均グループSNE (著)
出版社:SBクリエイティブ (2024/2/16)
発売日:2024/2/16
単行本(ソフトカバー):2056ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

王の冠
ついに物語は最終局面となるマンパンの砦へ。パラグラフ数800というファイティング・ファンタジー史上最大の規模で贈るシリーズ完結巻。

 
 2024年2月に発売されたゲームブック5冊詰め合わせセット「ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~スティーブ・ジャクソン編~「サラモニスの秘密」」

ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~スティーブ・ジャクソン編~「サラモニスの秘密」 | SBクリエイティブ
https://www.sbcr.jp/product/4815619633/

www.sbcr.jp
 
 の中の一冊「王の冠」(スティーブ・ジャクソン/本国イギリスでは1985年発売)をクリアしたので感想をば。
 

概要

 「ファイティング・ファンタジー(FF)・シリーズ」内の「ソーサリー」四部作の最終巻・第4巻。剣と魔法系ファンタジー物。


あらすじ

 「王の冠」奪還を目指すきみは、ついに大魔王の居城マンパン砦を望むザメン低地までたどり着いた。しかし砦に至るまでにはまだ幾多の難所が待ち構えており、さらに砦は大魔王の部下たちによって厳重に守られているに違いない。きみは大魔王を倒し見事「王の冠」を取り戻すことができるか!?


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は800。システムは、ファイティング・ファンタジー・シリーズ共通の「サイコロを振ってキャラクターの3つの能力(技術点・体力点・運点)を決定」、「必要に応じてサイコロで判定を行い、戦闘や運試しなどを行う」というもの。

 また魔法を使用するルールがあり、魔法関連のルールを使用せず戦士として戦う「初級ゲーム」と、魔法を使う魔法使いとなる「上級ゲーム」の二通りのプレイ方法が用意されている。

 前巻からの経験・装備・所持金などを引き継いでプレイすることも、本巻単独でプレイする事も可能。


感想

 評価は○(面白いけど重かった)

 ゲームブックの歴史上に燦然と輝く「ソーサリー四部作」の最終第四巻。シリーズのクライマックスにふさわしい、すさまじい質と量の一冊でした。


 本作のパラグラフ数は800で、シリーズの第1~3巻がどれも500前後だったことと比較すると1.6倍にもなっています。さらに言うなら、標準的なFFシリーズ作品のパラグラフ数400の実に二倍です。これだけの大ボリュームですから、もう長大なストーリーが余裕をもって描かれており、どの場面でも、複雑な構成を持つ、よく練りこまれた展開が十二分に堪能出来ました。

 本シリーズの最大の特徴である魔法は、さすがに最終巻まで来たため使えないものは無くなっており、様々な場面で役に立ってくれました。しかし全ての局面で魔法が有用というわけではなく、「どの魔法を選んでも役に立たない(ただ体力を消耗するだけ)」という意地悪な局面や、さらには「魔法を使うと却ってデッドエンドに直行してしまう」という局面、も用意されており、魔法ばかりに頼りきりにならないように作られているのにちょっと感心させられましたね。

 本作では隠しパラグラフ(※「●●という場合には、現在のパラグラフ番号から□□引いた新たなパラグラフへ進むこと」云々)が多用されており、これもうまく機能していました。例えば、前巻「七匹の大蛇」ですべての蛇を倒していた場合には、特典として本巻では敵に見つかっても、主人公の侵入を予想していないという、より難易度の低い隠しパラグラフへ移動することが可能で、シリーズ物という特徴と隠しパラグラフの効果をうまく組み合わせていて印象的でした。

 またそれ以外の場合では、オーソドックスに「隠しパラグラフの情報を知らないと、重要などこかで行き詰ってクリアできなくなる」というパターンがあり、こちらも効果的に使われていました。隠されたドアを通り抜けるために、何回この隠しパラグラフを利用したことか……

 しかし、「羊皮紙を読める相手」「コレタスの居場所」「老婆をいたぶる三人」などの隠しパラグラフは、通過しなくてもそれなりに先に進めてしまうので、なかなか飛ばしたことに気が付きませんでした。最終決戦前近くになってようやく「あれ、このままではコレタスに会えずじまいになりそうだ……? どこか見逃していたのか……?」と、慌ててパラグラフを読み直す羽目になりました(笑)

 このように本作は、圧倒的な物量の中に様々な技巧が盛り込まれており、ゲームブックの一種の頂点と言ってもよい内容となっています。これだけの大作を、スティーブ・ジャクソンがたった一人で執筆した、とはとても信じられない思いですね。


 さて、ボードゲームでプレイに時間がかかるものを「重量級」という風に呼びますが、それに倣えば、本作はまさしく「重量級ゲームブック」と呼ぶのにふさわしい物量で、パラグラフ総数800というのはいささかやりすぎ、という感もありました。

 最序盤のマンパン砦を目指してザメン低地を進む辺りはまだいいのですが、一旦砦の中に入ってしまうと、以降はもう「敵と遭遇した」→「戦って何とか切り抜けた」→「ドアを開けた」→「敵と遭遇した」の単調な繰り返しになってしまい、先に進んでいる感が無くなってしまったため、かなり精神的にきついものがありました。

 各場面でどのような選択をして危機を乗り越えるか、という作業自体はどれも面白く、フローチャートを書き出すと時間を忘れるほどでしたが、その作業が延々続いていつまでたっても終わる見込みが立たない、となると、かなりつらくなりました。まあ理屈の上では「スローベン・ドアをどんどん開けているから先に進んでいるはず」とは分かりますが、もう少し具体的に大魔王に近づいているという証が欲しかった…… このあたりが本作の唯一最大の欠点と言えるかもしれません。


 とは言え、ようやくたどりついた大魔王との最終決戦の辺りはさすがに大盛り上がりを見せ、第1巻でただ主人公の荷物になっただけだったミニマイトのジャンが再登場して「時空を移動する究極魔法ZED」の秘密を教えてくれるうえに、ZEDで時間を遡って魔王と再対峙し決戦の末倒す、という展開など、もうジャンル違いのタイムループSF小説の様なノリで、この手の時間SFが好きな身としては大いに気に入りました。このあたりの展開はとても1985年に書かれた作品とは思えず「さすがスティーブ・ジャクソン、只者ではないな」と唸らされましたね。


 このように、本作はそのすさまじい物量故に、完全クリアまでには体力の限界まで必要とされるきつい作品でしたが、それだけの苦労に見合う一作でした。全四巻・パラグラフ数合計約2300の一大シリーズの幕引きにふさわしい大作でしたね。
 
 
 

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