【推理小説】感想:小説「あなたが名探偵」(泡坂妻夫ほか/2005年)

あなたが名探偵 (創元推理文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4488400531
あなたが名探偵 (創元推理文庫) 文庫 2009/4/20
小林泰三 (著), 霞流一 (著), 泡坂妻夫 (著), 法月綸太郎 (著), 麻耶雄嵩 (著), 芦辺拓 (著), 西澤保彦 (著)
文庫: 336ページ
出版社: 東京創元社 (2009/4/20)
発売日: 2009/4/20

【※以下ネタバレ】
 

蚊取湖の氷上で発見された死体の首には、包帯が巻きつけられていた。前日に、病院で被害者の男性と遭遇した慶子と美那は、警察からあらぬ疑いをかけられて―。泡坂妻夫「蚊取湖殺人事件」をはじめ、西澤保彦小林泰三麻耶雄嵩法月綸太郎芦辺拓霞流一が贈る七つの挑戦状。問題編の記述から、見事に事件の真相を推理できますか?犯人当てミステリの醍醐味をあなたに。

 

あらすじ

 犯人当てミステリー短編集。東京創元社のミステリー雑誌「ミステリーズ!」のVol.01~VOL.07(2003年~2004年)に掲載された。


泡坂妻夫「蚊取湖殺人事件」

 冬の観光地。湖の氷の上で男が殺され、首には包帯が巻き付けられていた。犯人は誰か?


 犯人は看護婦。死体の乗った氷が風で流されて湖の東から西に移動してしまったため、犯人が意図しないところでアリバイが出来てしまった。



西澤保彦「お弁当ぐるぐる」

 失職中の50代男性が自宅で撲殺されていた。さらに家の蔵に有ったはずのお宝がそっくり盗み出されていた。犯人は誰でいつ蔵の物を盗み出したのか?


 犯人は被害者の息子の嫁。毎日昼に被害者を自宅に招いて食事を食べさせ、その間に家に出かけて蔵の物を盗み出していた。ある日、それを見つけられてしまい、争って殺した。



小林泰三「大きな森の小さな密室」

 大きな森の中に建つ高利貸しの家。しかし男は密室の中で死んでいた。犯人は誰でどうやって密室にしたのかのか。


 密室トリックはドアに接着剤を流し込んで簡単に開かないようにしてあっただけ。犯人は自分の服が返り血で汚れていたので、それを誤魔化すため、ドアをこじ開けるふりをして勢いあまって死体の血がついてしまった様にふるまった。



麻耶雄嵩ヘリオスの神像」

 学生が部屋で絞殺されていた。被害者は知人の誰かを恐喝していたらしい。しかし関係者の全員完全なアリバイは無く犯人は絞り込めない。名探偵木更津悠也の推理は……


 部屋のエアコンが付きっぱなしだったのは、入れっぱなしの風呂の蒸気で部屋が湿ったのを乾かすため。といった要素を組み合わせて犯人を特定。夏川。



法月綸太郎「ゼウスの息子たち」

 名探偵・法月綸太郎は新作の執筆のため有名ホテルに缶詰めにされるが、そのホテルで殺人が発生する。被害者はルポライターとは名ばかりの恐喝屋でホテルのオーナーを脅そうとしていたらしい。オーナー夫妻は双子のきょうだい同士が結婚したものの、片方は事故で亡くなっており、死んだ夫婦とオーナー夫妻は入れ替わっているなどという不穏なうわさも流れていたが……


 一種の叙述トリック。双子のきょうだいどうしが結婚して二組のカップルが誕生したというので「双子の兄・弟」「双子の姉・妹」がそれぞれ結婚したように思わせて、実は「双子の兄と妹」「双子の姉と弟」の結婚だった。それを知っているはずなのに知らないシェフ、というよりシェフの偽物が犯人。



芦辺拓「読者よ欺かれておくれ」

 探偵・森江春策物。推理小説をテーマにしたペンシオンで殺人事件が発生する。犯人は誰だ。


 叙述トリック。作中で「森江」と書かれている人物は、名探偵「森江春策」、ではなく、下の名前が「森江」という女性だったというオチ。この森江が犯人。



霞流一「左手でバーベキュー」

 高原の別荘で殺人事件が発生する。被害者は撲殺された上に左手首が切断され、手首はバーベキュー場で焼かれていた。 犯人は誰で、左手を切った理由は何か。


 犯行現場はガラス細工のアトリエで、ガラス細工が太陽の光を集めるレンズとなりそれでマッチに火がついて死体の手が燃えてしまったので、その事実を隠すために左手を斬った。犯人は小野寺。


感想

 評価は○(イマイチ)

 日本の推理小説の総本山的東京創元社の雑誌に掲載された犯人当て作品群……、のわりにイマイチの作品が多く、どうも食い足りなかった。正直期待外れだった。


泡坂妻夫「蚊取湖殺人事件」

 大ベテランの泡坂妻夫が書いたとは信じられないようなつまらなさ。お得意のユーモアも全く発揮されておらずこれは大外れ。



西澤保彦「お弁当ぐるぐる」

 ユーモアミステリー。謎解きは難しすぎず、それでいて適当に歯ごたえが有り、これは面白かった。



小林泰三「大きな森の小さな密室」

 引っ張った割に謎解きが大したことなかったな、と。



麻耶雄嵩ヘリオスの神像」

 名探偵・木更津悠也物。ということでいつものように(?)ややこしい理屈攻めの一作。まあ用意された手掛かりを全てクリアすれば犯人にたどり着くのだから、文句を言う筋合いではないのかもしれませんが……



法月綸太郎「ゼウスの息子たち」

 名探偵・法月綸太郎物。双子のきょうだい同士の結婚というとすぐに「兄弟」×「姉妹」と思ってしまうが、その根拠のない思い込みをついた作品。ただ謎がシンプルな割に話が無駄にめんどくさすぎる感も無くも無く。


芦辺拓「読者よ欺かれておくれ」

 コミカル作品。冒頭からかなりのページを使って、作者が「すでに締め切りは過ぎているのにまだ書けない」「犯人当て小説は苦手」「読者のみんなに正解されてバカにされたらどうしよう」とか延々と言いわけが書いてあるので、謎解き本編より面白い(笑)

 謎解きパートは……、こってこての叙述トリックで、主役の名探偵・森江だと思っていた人物が、実は下の名前が「森江」という女性だったという悪質な引っ掛けなので腹も立ちましたが、最後にまたくどくどと言い訳みたいなことを書いてあったので、まあ許してあげようかと思います(笑)



霞流一「左手でバーベキュー」

 なんというか「トリックのためのトリック」を並べ立てているだけというか、推理小説の体をなしてない、というか、そういう辛辣な評価しか浮かびません……


 全体にパンチ力が無く、東京創元社の作品にしては期待外れでしたね……
 

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