http://www.amazon.co.jp/dp/4334747108
密室キングダム (光文社文庫) 文庫 2010/1/13
柄刀 一 (著)
文庫: 1240ページ
出版社: 光文社 (2010/1/13)
発売日: 2010/1/13
【※以下ネタバレ】
昭和最後の夏に、札幌で起きた密室連続殺人事件。それは、伝説的な奇術師・吝一郎の復帰公演が発端だった。吝家を覆う殺意の霧の中に浮かぶ忌まわしき宿縁―。妖艶にして華麗、絢爛という言葉さえ似合う不可能犯罪の連鎖に、若き推理の天才・南美希風が挑む。瞠目せよ!そして驚愕せよ!奇跡を現出して、読者を魅了する本格の旗手が放つ渾身の巨編千八百枚。
あらすじ
昭和63年(1988年)夏。かつて天才奇術師と謳われた吝一郎(やぶさか・いちろう)の復活公演は大成功を収めた。一郎は十年前手が麻痺するという病に侵されるものの、それを克服して見事にカムバックしたのだった。
そしてその後、抽選で選ばれた数十名の観客が一郎の屋敷に招待され、ここで公演の第二部が開催されることになっていた。しかし一郎は第二部の幕開けとなるはずの脱出マジックの最中に何者かに殺害されてしまう。しかも一郎が殺害された部屋は、出入り口が内側から施錠されていただけではなく、周囲にも人間の目が有り、何者も脱出不可能な密室だった。
一郎の奇術の弟子である青年・南美希風(みなみ・みきかぜ)は、その天才的な頭脳を持って、警察に協力し事件に挑むことになった。
やがて屋敷内に住人の知らない抜け穴が有るらしいことが解り、美希風たちはかつて吝家に仕えた老女キヌが事情を知るのではないかと家を訪ねるものの、キヌもまた密室の中で殺害されていた。しかし美希風は、キヌが誤って大怪我をしてしまい、これが殺人でないことを示そうと今際の際に自ら密室状態を作ったと看破する。
やがて古い資料から吝邸の抜け道を記した設計図が見つけ出され、一旦屋敷の図書室に収納されるものの、図書室で火事が起こり、設計図は焼失してしまう。しかも図書室を見張っていた警官はドアの外で殺害されており、また図書室は内側から鍵のかかった密室となっていた。姿なき犯人はまたしても密室から消え去ったのだった。
さらに別の密室の中で家政婦の諏訪が殺害され、鍵穴から見えた仮面とマントの怪人は一瞬にして姿を消していた。美希風は犯人が毒で朦朧としている諏訪に仮面とマントを着せておき、それらとドアとを紐で結び、誰かがドアをけ破れば仮面とマントが一瞬にして引きはがされ、人間が消えたように見えるトリックだと見抜く。諏訪は真犯人の共犯者だったらしいが、口封じされてしまう。
そして美希風は犯人が一郎の双子の弟で盲目の吝二郎で有ると推理する。二郎はマジシャンとして成功した兄に嫉妬し、カムバックの場で殺すことで自らのゆがんだ欲望を満足させようとしたのだった。
警察は二郎を尋問しようとするが、二郎は屋敷内で何者かに拉致され、警察が見つけ出した時には縛り上げられた状態で、その側には暖炉に上半身を突っ込んで死んでいる謎の男の死体が転がっていた。ここにきて二郎に代わる犯人らしい人間が現れたことに警察は困惑するが、美希風は今いる「二郎」が今まで誰も知らなかった吝家の「三つ子」の一人・三郎だと言い当てる。三郎は母親すら知らない間に産み落とされ、別の家に養子に出されていたのだった。
一郎殺しを始めとする一連の事件は確かに二郎が主犯であったが、この三郎も二郎の身代わりとしてアリバイ工作にかかわっていた。しかしやがて二人は決裂し、三郎は二郎を殺してすり替わろうとしたのだった。そして真相を語った三郎は自殺し、事件は終わった。
感想
評価は○(それなり)
名探偵・南美希風(みなみ・みきかぜ)シリーズの四作目で、美希風最初の事件であり、作者の幻のデビュー作、とのこと。
ボリュームがすさまじく、文庫本で1200ページもあるため、もう小説というより国語辞典か何かのような厚みがあり、本がブックエンドなどを使わなくても直立するというとんでもない形をしている。
内容はタイトル通り密室尽くしで、なんと合計五つもの密室が登場し、それぞれの謎を名探偵が解き明かしていく、という、古典的な香りのするタイプで、方向性そのものは悪くはない。
しかし、人物描写は薄っぺらく、主人公・美希風は頭は切れるが心臓が悪くてすぐに倒れる病弱青年とただそれだけだし、美希風の姉・美貴子もその他のキャラも、全く生きている人間のような感じがしない。決められた台詞を喋るためだけに存在する、記号のようなキャラクターばかりである。
また事件に全く関係ない心理描写やおしゃべりなどで何ページも使うため、それらを読んでいると無駄に思えて仕方がなかった。
さらに事件の展開も「事件だ、密室だ」→「また事件だ、密室だ!」という展開が延々繰り返されるだけなので単調だし、また屋敷の中の人間の誰かが犯人に違いないのに、住民が互いを疑いあって疑心暗鬼になる事も無く、ごく普通に生活しているのもおかしいのではなかろうか。
また1000ページくらいまでは美希風は全く犯人を絞り込めていないのに、ここを過ぎると突然「犯人は二郎さんです」と前からわかっていたようにとうとうと解説を始めるので唐突感が物凄かった。
さらに最終盤になって「実は双子ではなく三つ子で、読者も知らなかった三男が真犯人だった」とか言い出し、それはどうなんだという気持ちにさせられた。まあ伏線は無くも無かったが、どんでん返しに驚いたとか言うより、今更そんなことを言い出すかと愚痴りたくなった。
ということで、確かに五つも密室の作り方を考えたのは凄いとは思うが、小説としてはあまり感心する出来栄えでは無かった。密室トリックを披露するためだけに書かれた小説、というのが相応しい気がする。