【推理小説】感想:小説「名探偵の掟」(東野 圭吾/1999年)[講談社文庫]

名探偵の掟 (講談社文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4062646188
名探偵の掟 (講談社文庫) 文庫 1999/7/15
東野 圭吾 (著)
出版社:講談社 (1999/7/15)
発売日:1999/7/15
文庫:348ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 

完全密室、時刻表トリック、バラバラ死体に童謡殺人。フーダニットからハウダニットまで、12の難事件に挑む名探偵・天下一大五郎。すべてのトリックを鮮やかに解き明かした名探偵が辿り着いた、恐るべき「ミステリ界の謎」とは?本格推理の様々な“お約束”を破った、業界騒然・話題満載の痛快傑作ミステリ。

あらすじ

 名探偵・天下一大五郎が活躍する連作短編集。コメディというかギャグというか的な内容。


●プロローグ

 主人公・大河原番三は県警捜査一課の警部で、「名探偵・天下一大五郎」シリーズで主人公を引き立てるためのわき役である。大河原の役どころは「威張っているが見当外れの捜査ばかりする無能な警察官」だが、実はこの役目は楽ではない。なにせ、意識的に見当外れの捜査を行わなければならず、しかもうっかり間違って名探偵より先に犯人を捕まえてもいけないので、名探偵より先に事件の真相を見抜きつつ、わざわざ真相に近づかないように間抜けな行動をしなくてはならないのである…… そして、大河原は過去に遭遇した無数の事件を思い出していた……


●第一章 密室宣言 トリックの王様

 とある村で起きた殺人事件。被害者は自宅で殺されていたが、家の戸には内側から心張り棒が噛まされ密室となっていた。天下一大五郎は密室トリックを暴けるか?



●第二章 意外な犯人 フーダニット

 高名な画家が自宅で殺害された。犯人は犯行当時家の中にいた誰かである。犯人は誰だ?!



●第三章 屋敷を孤立させる理由(わけ) 閉ざされた空間

 大雪で閉ざされた屋敷に宿泊していた客が殺害されるが、死体は屋敷からはるか離れた山頂で発見された。当時屋敷にいたものは全員アリバイがあった。名探偵・天下一大五郎の推理や如何に?



●第四章 最後の一言 ダイイングメッセージ

 ワンマン社長として悪名高い老人が殺害されたが、被害者は死の間際、絨毯に筆で奇妙な文字を書き残していた。この文字は何を表しているのか?



●第五章 アリバイ宣言 時刻表トリック

 軽井沢のホテルで若い女が殺害されたが、容疑者には水も漏らさぬアリバイがあった。天下一大五郎はこのアリバイを崩せるか?



●第六章 「花のOL湯けむり温泉殺人事件」論 二時間ドラマ

 休暇で温泉にやって来た大河原警部は若いOLの死亡事件に遭遇する。彼女の死は覚悟の自殺かはたまた何者かによる毒殺か? 大河原警部はミステリ研究会に所属している女子大生・天下一亜里沙とのコンビで捜査に乗り出すが……



●第七章 切断の理由 バラバラ死体

 森の中で女性のバラバラ死体が発見された。犯人は異常者か、はたまた別の理由があったのか? 名探偵・天下一大五郎は真相を暴けるか?



●第八章 トリックの正体 ???

 名探偵・天下一大五郎は遺産相続で揉めている富豪の屋敷に招かれるが、そこで殺人事件に遭遇する。ところが犯人は衆人環視の中どこかへと消えてしまい?!



●第九章 殺すなら今 童謡殺人

 離れ小島で旧家同士の結婚式が行われようとする中、島に伝わる童謡になぞらえた連続殺人が発生する。犯人の目的は何か?



●第十章 アンフェアの見本 ミステリのルール

 製薬会社の社長が自宅に届いた毒入りチョコレートによって殺害される。名探偵・天下一大五郎の推理で暴かれたあまりにも意外な犯人とは!?



●第十一章 禁句 首無し死体

 富豪が屋敷に作られた塔の最上階で殺されるが、死体には首が無かった。犯人は何故首を持ち去ったのか?!


●第十二章 凶器の話 殺人手段

 ロッジの主人が刺殺死体で発見されたが周囲に凶器は見つからなかった。被害者を死に至らしめた凶器の正体とは?



●エピローグ

 蛇首村子守唄殺人事件のあまりにも意外な犯人とは!?



●最後の選択 名探偵のその後

 超大金持ちの西野刑吾が所有する日本海に浮かぶ島に十人の客が集められる。それは天下一大五郎を始めとする高名な名探偵ばかりだった……


感想(超ネタバレ)

 「東野圭吾」というと作品がやたら映画やテレビドラマになっている有名な作家ですが、今まで作品を一作も読んだことは無く、映像作品のイメージからして「感動」とか「泣かせ」とかそういう作風の人かと思っていたのですが、この作品を読んでイメージがひっくり返りました。

 なにせ、この本の収録作品はとにかく全てにおいて推理小説というジャンルをおちょくりまくっている(笑) 登場人物たちは全員自分たちが推理小説の中のキャラクターだという事を認識しており、割り振られた役目で「ふん、素人探偵に何ができる?」とか言うのですが、時々役柄を離れて

 「今回はどんな事件てすかね?」「きっとあのトリックだよ、作者はあれが大好きだからな」
 とか

 「登場人物が少なすぎる。こんな状況で作者はどうやって読者の意表を付く気なんだ?」
 とか

 「アリバイ崩しものが好きなファンは別に推理なんかしていないんだ。漫然と名探偵が推理していくのをよんでいるだけだよ」と

 とかメタ発言を連発し、そのたびにププッとなるのですが、特に毎回「密室」とか「アリバイもの」とか「ダイイングメッセージ」という個々のテーマに対し「推理作家がそれを言ったらおしまいだろ?(笑)」みたいなことをキャラクターに言わせまくっていて、最初から最後までヘラヘラしながら読んでました(笑)



●第一章 密室宣言 トリックの王様

 密室物。平屋の戸に内側から心張り某が噛ませてあったが犯人はどうやって密室を作ったか? 実は家が雪の重さで歪んで戸が開かなかっただけで密室でも何でもなかった。

 軽い小手調べ的な作品。トリック自体はしょうもないけど、「推理小説をバカにしてやろう」という意欲は既に感じられます(笑)

 あと、登場キャラが「密室」と聞いた途端バカにして笑いだしたり、大河原が「また密室もの? (タネが違うにしても)同じ手品を何度も見せられているみたいでもう飽き飽き」とか言い出したり、他のキャラが「トリックで読者の気を引こうだなんて陳腐すぎる」と言ったり、密室トリック全般をバカにしまくっていて吹いた(笑)



●第二章 意外な犯人 フーダニット

 殺人の容疑者は屋敷の中にいた五人。犯人は誰だ? 実は被害者は二重人格で、故人の右脳が別人格として殺した。別の人格の犯行なので、これは殺人であって自殺ではありません。

 この手の犯人当て物で犯人を当てたという読者に「推理してあてたのではなく、適当に狙いを付けたら当たっていただけである」とか言い切っておちょくっているのがすごい(笑)



●第三章 屋敷を孤立させる理由(わけ) 閉ざされた空間
 
 雪に閉ざされた屋敷からさらに離れた場所で死体が見つかった。誰も屋敷を離れていないのに誰がどうやって殺したのか? 犯人は屋敷の主人で、実は屋敷がまるごと山頂まで移動する仕掛けが作られており、屋敷が山頂に到着したときに殺してから、また屋敷を元に戻した。

 これは気に入った(笑) こういうバカミス話を待っていました(笑)

 オチで大河原に「こんな仕掛け作るくらいなら殺し屋を雇って殺させた方が早いじゃん」とか身もふたもない事を言わせているのもイイネ(笑)



●第四章 最後の一言 ダイイングメッセージ

 ダイイングメッセージ物。アルファベットの「W」「E」「X」だと見えたのは実は「ベ」「ヨ」「ヤ」で「イシヤヨベ」と書いてあった。

 説明がややこしすぎてなんかイマイチ良く分からず。

 名探偵たちに「これから死ぬ人間がメッセージなんか書いている余裕なんかないよな」「それになんで犯人の名前をズバリ書かないんだよ?」とか言わせて、ダイイングメッセージモノを完全否定してた(笑)



●第五章 アリバイ宣言 時刻表トリック

 容疑者はどうやって軽井沢で殺人を犯してから大阪に夜十一時に到着できたのか? 実は「日本アルプス縦断超特急」が開通したので問題なく到着できますよ。え、犯人はそんなものは使っていないと言っている? そんなこと知らんがな。

 いつものごとくアリバイ崩しものの王道設定をバカにしてきており、「五分刻みで自分のアリバイを証言できるとか芸能人かよ!」とか「下手にアリバイを作ろうとするから破られたときに言い訳できなくなるのでは」とか「アリバイ崩し物って共犯者の可能性を無視しているよね」とか言いたい放題(笑)

 さらに重要容疑者(モロ犯人)に「あなたはアリバイがあるから容疑者から外します」と言うと「えっ? 困る。ヒントを出すからアリバイを崩してください」とか言い出す(笑) しかも最後はアリバイトリックを崩すのではなく、新しい路線ができたからそれ使ったんでしょ、とか言って強引に解決してしまうという(笑)



●第六章 「花のOL湯けむり温泉殺人事件」論 二時間ドラマ

 天下一シリーズが二時間ドラマ化され「幽閉された季節」というカッコイイタイトルが「花の~」というタイトルに変えられてしまったという話(笑) 視聴者を引き付けるため、原作は大改編され、天下一は男から美人女子大生に変更され大河原と恋愛関係を進めつつ事件を捜査する、とか、原作の内容が超簡単にされてしまっているとか、たぶん作者の実体験じゃないかと思われる事柄がいくつも出てきて苦笑いしながら読んでました(笑)



●第七章 切断の理由 バラバラ死体

 女性のバラバラ死体が発見された。切断された理由は? SMの緊縛プレイ中に誤って殺してしまった。犯人は郵便局員で死体の肌に残った縄の跡を見ているとミシン目に見えてきてついばらばらに切ってしまった(笑)

 今回は軽いジャブ程度で、バラバラ死体を扱う推理物に対して「おどろおどろしい雰囲気でごまかしているけど、よく考えたらそんな馬鹿な、みたいなものばかり」とか書いてました。



●第八章 トリックの正体 ???

 とある屋敷の中で殺人事件が発生。しかし犯人は消えてしまい? 一人二役ネタ。おっさんが若い女性に変装していて二役を演じており、登場人物は一目でそのことに気が付いていたので謎でも何でもなかったが、作者がそのあたりをワザと描写しなかったので一応トリックになっていた。

 よく言えば叙述トリック。しかし「気味の悪い女装をした中年男」が犯人というオチ(笑)



●第九章 殺すなら今 童謡殺人

 十番まである童謡になぞらえて殺人が起きる。犯人の目的は? 実は犯人は二人いて、犯人Aが一番になぞらえて殺すと、それに便乗して犯人Bが二番になぞらえ、それに便乗して犯人Aが三番(以下略)を繰り返したという。そして最後、残った十番になぞらえた殺人が島中で起きまくったという(笑)

 この手の童謡殺人モノについて、「あんまり早く犯人を突き止めると話が盛り上がらないので、被害者が出まくってしまい、探偵が有能に見えなくなる」とか「歌が何番まであるかで犠牲者の数がバレてしまう」とか、それ言っちゃダメだろ的なことを書きまくってました(笑)



●第十章 アンフェアの見本 ミステリのルール

 製薬会社の社長が毒殺される。天下一はすぐに犯人の見当をつけるが、わざわざ読者に「犯人は僕でも大河原警部でもありません」とヒントをくれる。実は犯人は「警部」なのだが、この話に限って天下一と一緒に捜査をしていた警部とは、新キャラの「金田警部」という人物だった。

 まあアンフェアには違いないのですが、オチは「オッそう来たか」と純粋に驚けたので、これは気に入りました。



●第十一章 禁句 首無し死体

 とある塔の最上階で見つかった首なし死体。被害者は何故首を切られたのか? 実は死体が別人であることをごまかす、というアレではなく、風船で死体を塔の上まで運ぼうとしたら重すぎて浮かばなかったので仕方なく首を切りました、という理由。

 天下一や大河原が首のない死体を見つけた途端、「死んだと思われている人間とは別人の死体だよな」「そんなことを思っているのはよほどノンキ者かまじめにこの話を読んでいない人間です」とか言っちゃう(笑)



●第十二章 凶器の話 殺人手段

 とあるロッジの主人が視察死体で発見されたが凶器が見つからない。被害者はどうやって殺された? 天下一は「血を凍らせた刃物で殺した」と言い切るが、死体を検死した結果は被害者が自身の足の骨が折れた先で自分の体を傷つけたことが判明する。しかし大河原は天下一の推理を否定することはできないので「いやーそうなのか、血の刃物だったとは~」とか真相をうやむやにしてしまうのだった(笑)

 名探偵が間違った推理をしたら、真相の方を捻じ曲げるという展開がもうね(笑)



●エピローグ
 
 蛇首村子守唄殺人事件のあまりにも意外な犯人とは!? 何とビックリ、シリーズキャラの大河原警部だった。

 大河原に「シリーズ物のキャラを犯人にする、とかいう安直な方法で意外性を出そうとするような作者はそのうち行き詰まる」とか言わせてしまうのに苦笑(笑)



●最後の選択 名探偵のその後

 孤島に集められた十人の名探偵。ところが彼らは一人ずつ何者かに殺されていく。犯人は誰か? 天下一以外の誰かが犯人のはず……、しかし、それでは意外性も何もない。天下一を犯人にしてこそ読者は驚くのではないのか……、

 と「シリーズ物の主人公は絶対犯人ではない」という常識を破るべきなのではと問いかけつつ終わり。

総括

 評価は○(まずまず)

 もっとゲラゲラ笑えるような「バカミス」を期待していたので、そういう意味ではちょっと「浅かった」という気がしますが、登場人物たちが「メタ発言」というか、自分たちがフィクションの中のキャラであることを自覚しつつ、作者や読者を小馬鹿にしたり、推理小説の王道設定をおちょくったりするのには楽しませてもらいました。まずまずの作品だったと言えましょう。
 
 
 

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