【ゲームブック】感想:ゲームブック「バーナム2世事件」(フーゴ・ハル/2013年)【クリア済】

ホームズ鬼譚~異次元の色彩 (The Cthulhu Mythos Files 8)

http://www.amazon.co.jp/dp/4798830089
ホームズ鬼譚~異次元の色彩 (The Cthulhu Mythos Files 8) 単行本 2013/9/3
山田 正紀 (著), 北原 尚彦 (著), フーゴ・ハル (著, イラスト), 小島 文美 (イラスト)
出版社: 創土社; 四六版 (2013/9/3)
発売日: 2013/9/3

【※以下ネタバレ】
 

1つのクトゥルー作品をテーマに3人の作家が小説、ゲームブック、漫画などの様々な形で競作するオマージュ・アンソロジー・シリーズ。
第3弾は『異次元の色彩』に捧げる。
巻末には原作の冒頭(荒俣宏訳)を掲載。


《バーナム2世事件・フーゴ・ハル著》
2011年の春、アメリカのマサチューセッツ州アーカムにあるミスカトニック大学で、J・H・ワトスン博士の未発表の手記が発見された。
手記の内容は19世紀末のロンドンで起きた怪奇な殺人事件をめぐるものだった。
迷宮状に枝分かれしている文章を少しずつ読み進め、あたかもワトスン博士と共に捜査するようにして、事件の謎を解き明かす、新感覚ゲームブック

 

概要

 創土社クトゥルー神話小説シリーズ「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」の第8巻「ホームズ鬼譚~異次元の色彩」に収録されている短編ゲームブック

 内容は、シャーロック・ホームズの世界を舞台に、プレイヤーはワトソン博士となり、常識では考えられないような奇怪な殺人事件を捜査していく、という物。


あらすじ

 1898年8月14日。ベーカー街遊撃隊の元メンバーで、今は刑事として働くマロウンがシャーロック・ホームズの元を訪れ、殺人事件の捜査への協力を求めてきた。被害者はかつてサーカス団の団長だったバーナム2世という人物で、20ポンド(約9Kg)もある石を連続して投げつけられ、それが直撃して死んだという、常識では考えられないような死に方だった。しかしホームズは今は別の事件で忙しいため、とりあえずワトソン博士がマロウンと共に事件の捜査を行うことになり……


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は76。「パラメーター」「サイコロ振り」といった概念は無し。

 本作は普通のゲームブックのように選択肢を選んでストーリーを分岐させていく物ではなく、「選択肢がない」という独特な構成となっている。

 内容は、大まかに言って「事件の発端」「捜査」「解決編」に分かれており、まず「事件の発端」で、マロウンがホームズの元を訪れ、事件の概要を説明するくだりが描写される。その文章の中に含まれる重要なキーワードに番号が振られており、それがパラグラフの番号に対応している。

 イメージ
 『~バーナム二世という人物が屋敷(1)で殺害されていました~執事(5)の証言によれば~近くをパトロールしていた巡査(3)が~』

 プレイヤーはこのキーワードのうち、捜査に必要と判断した物(番号)を選んで、該当するパラグラフを読んでいく。例えば上記の例で言えば「1」のパラグラフを選択すれば屋敷の見取り図が表示され、各部屋にはさらに番号が振られているので、それらを調べて様々な手掛かりを見つけていく。また「3」や「5」を選んだ場合は、執事や巡査の証言を聞くことができる。そういった捜査の中で、さらに別の手掛かりが見つかるので、それらを順番に辿っていくことで事件の真相を解明していく。

 そして謎を全て解き明かしたと判断した場合には、最後の解決編に進む。ここでホームズが事件の真相を全て説明してくれる。


真相

 犯人はバーナード・バリモア卿の従者たち。被害者の乗っていた馬車を横倒しにしておき、そのあと建物の上から石を投げ落して被害者を殺害。さらに馬車を元にもどしておくことで、超常の力で石が横向きに投げ込まれたように装った。


感想

 評価は◎。プレイ時間:約1時間30分。

 シャーロック・ホームズクトゥルー神話をミックスさせた異色のストーリーですが、基本的には正統派の推理ゲームブックであり、謎解きも含めて極めて良く出来た作品でした。

 基本のゲームシステムは、1985~87年に二見書房から発売された推理ゲームブックシャーロック・ホームズ 10の怪事件」「同 呪われた館」「同 死者からの手紙」のシステムを簡略化した物で、ゲームブックマニアではないクトゥルー神話ファンにもとっつきやすくなっています。ちなみに作者のフーゴ・ハル氏は、過去にこの二見書房のシリーズの監修に携わっていたとのことです。

 文中に仕込まれたキーワードが手掛かりパラグラフに該当するという構成、ホームズ自身が捜査に参加するのではなく、別人が手掛かりを拾い集めて行って事件を捜査し、最後にホームズが得意げに真相を教えてくれる、という展開、等がもう二見書房の本と全く同じで、読んでいて物凄く懐かしくなりました。


 ストーリーは基本的には正当な推理物なのですが、捜査していく中で、被害者がアメリカのアーカム(あのアーカムです)から怪しげな品物を輸入していたことが判明したり、魔法を使えるとうそぶく魔術サークルのリーダーが容疑者として浮上したり、一滴の血と引き換えにあらゆる質問に答えるという自動人形が登場したり、となかなかにミステリアスな展開となります。こうなると、作者がまともに推理物として進める気があるのか、はたまた超常現象を認めたオカルト的なオチに着地させる気なのか、が読めず、結局真相は推理できませんでした。

 それだけに「解決編」でホームズがワトソンに「偽りの怪異に惑わされるなと警告しておいたはずだ」とたしなめつつ、事件の真相を理路整然と説明し始めるのにはしびれてしまいました。確かに、ホームズの言うとおり、犯人を突き止めるための手掛かりはちゃんと読者の前に提示されていて、それらを正しく読み解けば真相にたどり着けたはずなのです。手掛かりの出し方も犯行に使われたトリックも無理が無く、ミステリ好きとして素直に称賛できる物になっていました。


 まあこれだけでもホームズの出て来る推理物として良い出来なのですが、さらにこの解決編の終盤で、偽りではなく本物の怪異が存在しているらしいことが明示され、突然オカルトノリに変貌します。そして最後の最後に、「この事件には後日談があるが、恐ろしい内容なので掲載は差し控えた。もし読みたい場合は、場違いな挿絵の有るパラグラフを読め」と指示されます。そして、ページをめくりまくって、該当する、どこからもつながっていないパラグラフ66番を読むと、自動人形の内部に宇宙から落下した隕石が仕込まれており、そこには謎めいた何かが潜んでいたらしいことが暗示されて、本当の終り、となります。

 この二段構えの構成、推理物として満足させつつ、さらにクトルゥー要素もきちんと盛り込む、という作りには心の底から拍手を送りたくなりました。本当に良く出来たゲームブックであり、同時にクトゥルー神話の一作でありました。
 
 特殊な構成で、特にメモを取る必要もなく手軽にプレイできるゲームブックでありながら、推理物好きにもクトゥルー好きにも楽しめる内容で、これは傑作と呼んで間違いありません。素晴らしい作品でした。
 
 

誤植情報

P272下段 
×「執事のバレット(5)」
○「執事のバレット(40)」
 
 
シャーロック・ホームズ 10の怪事件
シャーロック・ホームズ呪われた館
シャーロック・ホームズ 死者からの手紙―クイーンズ・パーク事件 (シャーロック・ホームズミステリー・ゲーム 3)