【ゲームブック】感想:ゲームブック「ウィットネス」(大川タケシ/1987年)【クリア】

ウィットネス (アドベンチャーノベルス)

http://www.amazon.co.jp/dp/4880632414
ウィットネス (アドベンチャーノベルス) 新書 1987/3/1
大川 タケシ (著), INFOCOM
出版社:JICC出版局 (1987/3/1)
発売日:1987/3/1
新書:276ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

本書は、アメリカのインフォコム社より製作・発売された、パソコン用ゲームソフト『ウィットネス』を基にしたアドベンチャーノベルスです。パソコンゲームの楽しさに読み物の面白さをプラスした、新しい形のエンターテイメントとなっています。舞台は1930年代のロサンゼルス、貿易商リンダー氏が、主人公である警部の前で殺害されるというところからこの物語ははじまります。事件の捜査を進めるなか、被害者リンダー氏をめぐる様々な人間関係が浮かび上って…。殺人のからくりは?そして真犯人は…?

 

概要

 インフォコム社(米)から発売されたテキストアドベンチャー「ウィットネス」を原作とする推理ゲームブック


あらすじ

 1938年12月。ロサンゼルス。私ことケニー警部は、貿易商リンダー氏の要請で氏の屋敷を訪問した。リンダー氏はケニー警部に、ある男に脅迫されていると訴えるが、次の瞬間、リンダー氏は部屋の外から発射された弾丸により殺されてしまう。犯人は一体誰か?! ケニー警部は捜査チームを率いて事件の捜査を担当するが……


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は198。主人公のパラメーター無し、サイコロ振り無し、の分岐小説タイプ。

 ただしフラグチェック要素があり、特定のパラグラフを通ると「A~J」のどれかのフラグが立ち、その後の選択肢で「もしフラグAがチェックされていれば~、チェックされていなければ~」という形でストーリーが分岐する。


感想

 評価は○(そこそこ)。

 インフォコムの推理アドベンチャーを原作にしたゲームブック。評価はそこそこ、でした。


 インフォコムは、パソコンゲーム黎明期に名をはせたテキストアドベンチャーゲームのブランドで、「ゾーク」三部作が有名です。しかし「ゾークI」以外の作品は日本のマシンには移植されなかったため、インフォコムブランドのゲームは日本では殆ど知られていません。本作はインフォコムの推理ゲーム三部作の一つをゲームブック化したもので、ストーリーは原作に忠実とのことで、ゲームの資料としても貴重な一作です。


 本作のストーリーは、たたき上げの警部が目の前で人を殺されてしまったため、名誉挽回という意味も含めて事件の解決にまい進するが、関係者は誰もに動機があり、捜査は暗礁に乗り上げ……、という展開で、読み物としてなかなか面白く、例えば映像化してもそれなりに楽しめるのではないかと思えるレベルでした。その辺りはさすが有名なインフォコム、という感じでしたね。


 しかし……、本作はゲームブックとしてはあまり褒められた物ではありませんでした。

 理由は複数ありますが、まず第一が「選択肢が少ない」こと。ゲームブックの良さは、パラグラフ毎の色々な選択肢を選ぶことで多彩な物語を楽しめる、というところですが、本作はとにかく選択肢が少ない。

 例えば「パラグラフ5番」を読むと選択肢が無くただ「10番へ進め」と書いてあるだけ、そしてパラグラフ10番を読むとやはり「15番へ進め」と書いてあるだけ……、という具合で、大半のパラグラフには選択が無く、ただひたすら別のパラグラフを指定されてそこに向かうだけでした。つまり、本作は大半の部分が一本道の小説をわざわざ細かく分断した見せかけだけのゲームブックで、これでは面白い訳がありません。


 第二の理由が「数少ない選択肢にすら、あまり意味がない」こと。本作はただでさえ選択肢が少ないのに、その選択に大した重みが無いのです。例えば容疑者を尋問する選択肢で「容疑者1を尋問するか? それとも容疑者2にするか?」と選択肢の場合、

容疑者1を選んだ
→結果「容疑者1を尋問したが成果は無かった。そのあと続けて容疑者2も尋問したが同様だった」

容疑者2を選んだ
→結果「容疑者2を尋問したが成果は無かった。そのあと続けて容疑者1も尋問したが同様だった」

 という感じで、どちらを選んでも起きることに大して変わりが無いのです。さらに、このあとストーリーはすぐに合流して一本の流れに戻ってしまうので、つまり選択しようがしまいがストーリーに何の変化もありません。この辺りは、作者がゲームブックらしい体裁を繕うために大して意味も無く分岐を作ったのではないのか、というネガティブな印象しかありませんでした。


 第三が「フラグチェックにもさして意味がない」こと。特定のパラグラフを通ると「アルファベットのAをチェックせよ」という風に指示され、さらに後から「もしフラグAがチェックされていればXXX番へ、チェックされていなければXXX番へ」という形でストーリーが分岐します。ところが、実のところこのフラグ分岐にもあまり意味がない。

 仮に、ケニー警部が被害者の知人から重要な証言を得ると同時に「フラグAをチェック」と指示されたなら、 普通の読者は「フラグAが事件解決への重要な手がかり」と考えるわけですが、全然そんなことはありませんでした。後の方の分岐で「もしフラグAがチェックされていなければ~」という方に進んだ場合は、ケニー警部の代わりに部下が被害者の知人から重要な証言を聞き込んでくる、という具合につじつま合わせされており、話の本筋には何も影響がありません。

 まあ、コンピューターゲームのフラグというのはそういう細かい部分の差異の表現のためにも使われているよね、とは思いましたが、わざわざゲームブっクでそんなことをしても意味がないのでは、と不満タラタラでした。


 第四に「同じような内容のパラグラフが複数存在する」こと。この作品は一つ一つのパラグラフの文章のボリュームがかなりあり、一つあたり2ページほどになることも珍しくありません。という事で読みごたえがあるのですが、殆ど文章が変わらないようなパラグラフが複数あり、「別のパラグラフ番号なのにさっき読んだものと内容が変わらない……?」という事が頻繁に起こり、困惑させられました。同じ文章をコピペしてそれでボリュームを水増しするとかやめてほしかった……


 結局のところ、この作品で重要な選択肢は、終盤の「本ボシ(犯人)は誰だと思うか?」という選択肢だけです。正直、ここまでに犯人を特定できるような証拠は全然出てこないのですが、にもかかわらず一人に犯人を絞り込まなければならない、という理不尽極まりない状況に追い込まれてしまうのです。

 さて、ここで容疑者1,2,3がいるとして、容疑者1を選ぶと、それ以降に容疑者1が怪しいという証拠がゾロゾロと見つかり、最終的に「容疑者1が真犯人だった」という事で事件は解決します。ちなみに、本ボシでない容疑者2や3を選んだ場合は、「容疑者が警察の目を逃れて逃亡してしまった。結局、この事件は迷宮入りとなった……」というバッドエンドになります(ひどい)


 という事で、本作は、ストーリーその物は面白いのですが、ゲームブックという媒体で作成する過程で色々と不備が生じてしまっています。手間をかけさせる価値のないフラグチェック、終盤以外意味のない選択肢、当てずっぽうでしか的中させようのない真犯人、等々、何だかなぁ感が物凄い作品でした。あと見た目ほどのボリュームは無く、約2時間でクリア出来てしまって拍子抜けでしたし。


 なんというか、期待外れも甚だしい作品でした。もう少し頑張ってほしかった……
 

(ネタバレ)真犯人

 被害者リンダーの娘のモニカ。父親が母につらく当たった挙句自殺に追い込んだのを憎み、父親の狂言銃撃事件を利用し、時計に仕込んだ銃の角度をいじってリンダーの頭を直撃するようにした。そのあと外出してアリバイを作っておいた。父親の偽の遺言状に残した偽造サインが命取りとなった。
 
 
 

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