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ティーンズ・パンタクル (創元推理文庫) 単行本 1990/3/1
鈴木 直人 (著)
出版社:東京創元社 (1990/3/1)
発売日:1990/3/1
単行本:332ページ
★★【以下ネタバレ】★★
あたしの名は大島いずみ、半年前にこの全寮制の学校、洋貝台学園に転校してきた。実はあたしには霊媒の血が流れていて、念力で人を気絶させるぐらいのことはできてしまう。でも、そんな力があることは隠して、みんなと仲よくやっている。これでけっこう人気者なのだ。でも、楽しく平和な学園生活も、氷室京子という、美しい転校生が来てからというもの、暗い影がさし始めた。学園になにやら異様な雰囲気が標いだしたのだ…。スーパーアドベンチャーゲーム。
概要
発売当時の現代日本(1990年代)を舞台にした学園サイキックバトル物。
ゲームブック「ドルアーガの塔」三部作からのスピンオフ作品で、現代日本の物語にも関わらず「ドルアーガの塔」のキャラクターである魔術師メスロンが登場する。
あらすじ
「あたし」こと女子高生・大島いずみは、霊媒の血筋だった亡き母から、霊的な物を見たり念の力で他人を気絶させたりする力を受け継いでいる。いずみは家庭の事情で半年前から寮生活を送っていたが、ある日不気味な黒猫に襲われ、それ以降学校の生徒が次々と失踪し始めた。学校には一体何が起きているのか? 謎めいた美少女転校生・氷室京子の正体とは?
ゲームシステムなど
パラグラフ数400。主人公の能力値(技量・念力・体力・気力・武器・超能力)有り、サイコロ振り(戦闘等)あり、持ち物管理あり。
フラグチェック要素があり、特定のパラグラフを通るとニ~三桁の数字やアルファベット一文字を記録しておくように指示され、その後の選択肢で「もし記録している数字が、100ならばパラグラフ***番へ、200ならばパラグラフ***番へ」のような形で分岐先を指定される。
感想
評価は○(そこそこ)。
1986年に発売され絶大な人気を獲得したゲームブック「ドルアーガの塔」三部作からの派生作品。作中の人気キャラだった魔術師メスロンのファンからの声にこたえ、メスロンが(発売当時の)現代日本に現れ、主人公の女子高生を助けて活躍してくれる、というファンサービスにあふれた作品となっています(その辺りのいきさつは、作者あとがきに書かれています)。
展開は王道的な学園物で、主人公のいずみが、学園内をうろうろしつつ、手掛かりを探したり、敵と戦ったり、男子生徒からラブレターをもらってデートしたり、友達と買い物にいったり、と、色々なイベントをこなしていくことで話が進んでいきます。
ちなみに、いずみは、学校内で使い魔的な物に襲撃されたり、夜な夜な友人たちが次々と失踪したり、と異常事態が立て続けに発生しているのに、気にも留めずに男子にデートに行こうと言い出すとか肝の座り方が凄く、とても可憐な女子校生とは思えません(笑)
そしてある程度フラグが立つといよいよ最終決戦となり、メスロンと共に敵の本拠に殴り込んでラストバトル、となります。
現代を舞台にした作品は、ファンタジー物と違ってもろに時代の変化の影響を受けるもので、本作も現代(2023年)に読むと、今となっては設定とか雰囲気にかなり違和感というかを感じます。
まず主人公がわざわざ「あたし」と名乗るところからなんか妙ですし、また「霊媒の家系で念能力を持ち、また剣道は五段並みの腕前のスーパー少女」という設定も80年代風味というかです。また男子生徒がバイクに乗って来ていずみをデートに誘うというシーンも「昭和かな?」という雰囲気ですよね(1990年=平成二年発売の作品ではありますけど)
さて、作者の鈴木氏はあとがきで本作を「初心者向け」とうたっていますが、正直それほど初心者向けの難易度とは思えません。理由はフラグ立てがやたら多いことで、特定のパラグラフを通過するたびに「今まで覚えていた数字を消し、新しい数字***を記録せよ」とひっきりなしに要求されるため、正直メチャクチャ面倒でした。初心者向けというのは、フラグ管理などメモを取る要素は一切ない作品のことだと思うので、個人的にはこれを初心者向けにカテゴリーする気にはなれません。
作者の鈴木氏によれば、このフラグ管理を行う事で、主人公のいずみがある日に出合わなかったイベントを翌日以降に体験できるようにしており、結果としてイベントの見逃しが無くなり濃いプレイ体験が出来る、と自画自賛していますが、ややこしくて面倒くさいだけだった気がします。
あと、この複雑な作りにしている事で、何度も同じパラグラフにループして戻ってきてしまうので、フローチャートが滅茶苦茶書きづらく、正直気力が萎えそうでした……
こういうフラグでイベントを管理して同じシーンからでも別の場面に分岐する、とかの作りは、コンピューターを使ったゲームならストレスなくプレイできるのでしょうけど、人力でやらされると読み手に負担が多すぎでしたね。
あと、一度に選べる選択肢が6個も8個もあるのも選択の楽しさというより面倒くささが先に来ましたし、ラストバトルに敵の本拠に乗り込んだあとでも何かというとスタート視点に送り返されるのもイライラしましたし…… 現代バトル物ならば、あまり複雑な事はせずに、それこそ疾走するように手早く読める作品にしてほしかったというところですね。
まあ、メスロンが助っ人で来てくれたり、タウルス(にそっくりな男)が出てきてたり、まさかのゴルルグが復活している上に味方になってくれたり、と、「ドルアーガの塔」からのゲスト要素はそこそこ嬉しかったですけど、ゲームブックとしての楽しさはもう一つだったなぁ、という感想です。ちょっと残念でした。