【ゲームブック】感想:ゲームブック「ハードボイルド探偵ゲーム 三つ数えろ!」(ロバート・ディキアラ/1986年)【クリア】

ハードボイルド探偵ゲーム 三つ数えろ! (サラブレッド・ブックス)

http://www.amazon.co.jp/dp/457686064X
ハードボイルド探偵ゲーム 三つ数えろ! (サラブレッド・ブックス) 新書 1986/5
ロバート ディキアラ (著), 小鷹 信光 (翻訳), 木村 二郎 (翻訳)
新書: 304ページ
出版社:二見書房 (1986/05)
発売日:1986/05

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

気分はフィリップ・マーロウかサム・スペードか…ミステリ・アドベンチャーゲーム 事件(ヤマ)は三つ。三人のタフな私立探偵になりきって、犯人を捜しだせ!謎解きロール・プレイング・ゲーム


あんたは、卑しき街('30年代ロサンジェルス)をうろつく、しがない酔いどれ探偵――。
ダイスを振りつつ、体力・知力・魅力の三つの持ち点を使いわけ、A、B、Cの事件(ヤマ)の謎を解かねばならない。
もし途中で殺されたら? 三つ数えて、タフな探偵に生まれ変わって、出なおすんだ。

 

概要

 推理ゲームブック。1930年代のロサンジェルスを舞台に、ハードボイルド系の私立探偵となって三つの事件の謎を解くことを目指す。


あらすじ

 あんたは1930年代のロサンジェルスに事務所を構える酔いどれ私立探偵だ。あんたは以下の三つの事件を調査し謎を解かなければならない。どの事件から手を付けるかはあんたの自由だ。もし途中で殺されたら? 三つ数えて、タフな探偵に生まれ変わって、出なおすんだ。

事件A「長袖を着た女 -Sucker in Spades-」
事件B「血の金脈 -Money Nover Bleeds-」
事件C「黒い燭台 -The Hot Stick-」


ゲームシステムなど

・長袖を着た女 … パラグラフ数119。持ち点125点。
・血の金脈 … パラグラフ数130。持ち点145点。
・黒い燭台 … パラグラフ数127。持ち点145点。

 まず事件毎に指定されている「持ち点」を、探偵の三つのパラメータ「体力点」「知力点」「魅力点」に自由に割り振る。この点数はストーリー中の展開によって増減するが、ゼロ以下になってもゲームオーバーにはならない。ただし捜査完了時にマイナスが多いほど探偵としては無能という評価となる。

 各事件とも、プロローグで事件の概要が説明され、解き明かすべき複数の謎が提示される。地図には移動可能な地名とパラグラフ番号が記載されているので、その場所に移動し、パラグラフを選択して調査を行い、物的証拠や証言などの手掛かりを手に入れていく。一通り調査が終了した後は、また地図に戻り別の場所に移動する。

 最初から移動できる場所は限られているが、捜査の過程で手掛かりをつかむと別の場所にも移動できるようになっていく。最終的に全ての場所を調査し終わると捜査完了となる。巻末の袋とじには謎の答えと事件のエピローグが記載されている。調査完了時に点数が何点になっているかで探偵としての評価が決まる。


感想

 評価は◎(推理ゲームブックの最高峰)

 ハードボイルド系探偵となり事件を捜査する推理ゲームブック。もう目茶苦茶面白くて、プレイしていて興奮しっぱなしでした。(^_^)b


 プレイヤーは探偵となり、事件に関係する場所を調査し、謎(例「△△を殺した犯人は誰か」「△△は何故殺されたのか」「盗まれた◇◇は今どこに隠されているのか」等々)の答えを突き止めなくてはいけません。

 展開は推理物として実にオーソドックスで、地図に記載された場所を調査して回り、手掛かりや証言を集め、事件の真相をあぶり出していきます。選択肢によっては調査中に殺されてしまう事も有りますが、そこでゲームオーバーにはならず、「もっとタフな探偵に生まれ変わって出直すんだな」とかお説教された後に、少し前のパラグラフに戻されて、そこから調査を再開するだけですみます。ただし死亡する度にマイナス評価が加算されていくので、うかつな選択をして殺されないようにしなければなりません。


 文章は、登場人物の台詞も地の文も徹頭徹尾ハードボイルド調になっているのがなんともイカしています。まずゲームシステムの説明部分からハードボイルド臭がプンプン漂っており、「あんたは私立探偵だ。」「まず○○を△△しろ」「◇◇となったら、その度に点数を□□しておくんだ」といった具合に、実に乱暴な口調で指示されるので、もう事件が起きる前からハードボイルドな空気にどっぷり浸ることが出来ます。カッコイイ。

 また調査中には、有力者の用心棒と殴り合う展開になったり、調査を快く思わない者に襲撃されて殴りつけられてから倉庫に監禁されたり、とかの荒事がしょっちゅう発生しますので、生半可な探偵では調査を続けることはできません。ハードボイルドです。

 さらに調査の合間にランダムイベントが発生するようになっており、「別れた女房から慰謝料の小切手が届いていないと文句の電話がかかって来た」とか「与太者から尾行されている」とかそれっぽい出来事が次々と起こるのにもしびれました。


 本作の翻訳者は「小鷹信光氏」と「木村二郎氏」ですが、二人ともハードボイルドには縁の深い人物です。まず小鷹氏は日本のハードボイルド小説翻訳の大御所で、ハードボイルドイコール小鷹氏、というくらいの超大物ですので、この人が翻訳してくれたというだけで凄いありがたみです。また木村二郎氏も、ミステリーの翻訳者として有名ですし、「マルタの鷹協会日本支部」の創設者というくらいハードボイルドと縁の深い方です。この二人に本書の翻訳を依頼した二見書房のセンスには感心しました


 事件の難易度は、三つとも絶妙なレベルに設定されており「簡単すぎではないが、まるで歯が立たない物でもない」というところで、入手した手掛かりをじっくり分析して推理すればなんとか真相が解るレベルになっていました。まあ、それでも全部の謎が解けたわけではなく、真相にたどりつけなくて「あれはそういう事だったのか!?」と悔しくなることもありましたが、どれも挑戦しがいのある事件ばかりでした。

 またエピローグがきちんと用意されているという造りにもグッときましたね。ゲームブックは得てして結末に凝ったものが無く、クリアしてもラストがあっさりしすぎて何か物足りないという事が起こりがちですが、この作品は事件毎にきっちりと(ハードボイルドな)オチが付くので、クリアした後は一篇の推理小説を読み終えたような満足感が味わえました。

 ただ点数システムはあまり機能していなかった、というか、プレイ中の点数の足し引きが面倒になったので途中で止めてしまいました。しかし点数カウントをしなくても作品の面白さは何ら損なわれることはありませんでしたね。


 ということで、「複雑になりすぎず、それでいて調査している感を与えてくれるゲームシステム」、「解きがいのある謎」、「ハードボイルド風味たっぷりのセンスのある文章」、「満足感を与えてくれるエピローグ」、等々と、全てが素晴らしく、プレイ中はもう90年前のロスアンジェルスの雰囲気にどっぷりつかって夢中になりながらプレイしました。

 本作があまりに面白かったので、続きがニ~三冊あれば良かったのに、と狂おしいくらいの気持ちになりましたね。

 本作は様々な選択をして冒険を楽しむ様なゲームブックとはやや方向性が異なりましたが、「犯人当て推理小説」といったものが好きな人間にはもう堪えられない一作でした。大満足です。
 
 
 

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