【文化論】感想:文化論「非実在青少年論 オタクと資本主義」(鏡裕之/2010年):エロゲシナリオライターによる文化論

非実在青少年論―オタクと資本主義

http://www.amazon.co.jp/dp/4750003824
非実在青少年論―オタクと資本主義 単行本 2010/6/1
鏡 裕之 (著)
単行本: 339ページ
出版社: 愛育社 (2010/6/1)
発売日: 2010/6/1

【※以下ネタバレ】
【※以下の内容は、テーマ上から18禁的な話題が多いのでご注意】
 
 

自由化した恋愛市場と資本主義が、オタクと婚活の問題を準備した―。男らしさの確立に悩む男の子、女らしさの受容に苦しむ女の子。エッチな漫画を読む人たちはどういう人なのか。エッチな漫画やBL小説は、資本主義的な理由から批判されている…!?日本で最も巨乳フェチな作家が、性の世界と表現規制の理由を大解剖!規制される側の気鋭のポルノクリエイターによる、性的文化論。


目次
序章 非実在青少年
第1章 性の多様性
第2章 SとMの真実
第3章 性的嗜好とメンタリティ
第4章 傷つく男らしさ
第5章 オタクと資本主義
第6章 二十一世紀の魔女狩り

 

内容

◆序章 非実在青少年

 2010年。東京都は、フィクションの中のキャラクターでも「行政が18歳未満と判断した」ならば「非実在青少年」として取り扱い、そのキャラクターとの性行為が肯定的に描かれていれば、現実の人間同様に取り締まろうとした。この目論見は「一時的」にストップしたものの、まだ葬られたわけではない。



◆第1章 性の多様性

 性には「これが標準・一般的」というものはない。場所・文化・時代によって「これがメジャー/マイナー」ぐらいの言い方しかできない。だから「●●だから正しい/▲▲だから異常・変態」などとは言えない。



◆第2章 SとMの真実

 SMは「S 残虐」「M 被虐」と認識されがちだが、全く違う。S側はM側を気遣う必要がある、つまり「与える側」であり、Mはそれを受け取る側である。

 人間には愛情を与える行為と受け取る行為のバランスを取っているが、他人に命令するような立場になると受け取りが不足する。そのため地位の高い人はMが多い。



◆第3章 性的嗜好とメンタリティ

 性的嗜好とそういう嗜好についての分析。性的嗜好に優劣はない。だから「●を好むから幼稚」とかいう発想こそ幼稚。



◆第4章 傷つく男らしさ

 性的妄想と性的行動は無関係。妄想はファンタジーであり、それを空想して喜ぶだけであり、実行したいわけではない。規制派はそこが理解できていない。

 ポルノ小説は80年代は凌辱や調教物がメインだった。しかし男女雇用機会均等法で女性が社会に進出し、男性を尊敬しなくなり、その後の不況でリストラが始まると、男性は完全に自信を喪失し、もはや凌辱系の主人公に共感できなくなった。そして癒しを求めて、若い主人公が義母と関係するような路線が人気になっていった。



◆第5章 オタクと資本主義

・今では芸能人がアニメ作品好きを公言するようになっているが、「アニメ好き」と「オタク」は違う。境界線は「オタクは日常会話の中で、架空のキャラクターの台詞をそのまま引用する」ところ。


・最初期の「オタク」は「ファッション」「恋愛」の二大能力が欠けているとみなされて嘲笑の対象だった。しかし90年代に入ると、コミケで服装に気を遣うおしゃれな人たちが増えた。過去の基準ではオタクは定義できない。


・かつて資本主義国家が国民に求めたのは「働いて納税する」「結婚して子供を増やす」の二つだけだった。そして結婚相手は会社が見つけてくれたので、結局することは「働く」だけだった。ところが1980年代に男女雇用機会均等法が施行されると、状況が変わり
1)働いて納税する
2)自力で異性と相思相愛になる
3)その相手と●●する
4)その相手と結婚して子供を増やす
 と一気に増えてしまった。しかしこの国家の要請に対応できず「男性性」「女性性」が傷ついたままの人たちが出てきた。それの男性版が「オタク」で、女性版が「腐女子」。


・アニメで戦うヒロイン物が需要が有るのはなぜか。男性性が傷ついている男性は、男らしい主人公が活躍する物語に耐えられない。そこで代わりに女性というフィルターを通してマッチョバトル物を吸収することになる。女性性が傷ついた女性は、女性が主人公の物語に耐えられないので、主人公を男性にした物語を受容する。つまりBL。


・「萌え」とは、社会に「男性性」を求められて疲れた男性が疲弊して、可愛い物に癒しを求めた、ということ。


・萌えの対象は何でもいいわけではない。例えばボンドガールやレースクイーンは萌えの対象にならない。それはそういった人たちが女性性が高いから。資本主義社会の成功とは、金持ちになってヨーロッパの上流社会的生活を送ること。つまり欧米美女を妻にして、ヨーロッパ的文化にひたること。そしてオタクは大抵社会的成功者ではなく、それどころか真反対なので、ボンドガールやレースクイーンは挫折感を意識させる対象でしかない。だから萌えの対象にはならない。


・オタクが社会から批判されるのは、近代国家の要請である「経済的成功」と「結婚」に背を向けているため。そのため国家の維持に協力しないとみなされ、故に批判される。



◆第6章 二十一世紀の魔女狩り

 ポルノ規制派の手口(確率を無視する、一つの事例を全てに当てはめようとする、既に規制しているものをしていないと嘘を言う、等)。その他、規制に関する諸々。


感想

 10年前に大騒ぎになった「非実在青少年」ネタの本を今頃読破。この問題は珍妙な「非実在青少年」という言葉を外したうえで、規制法案が2010年12月に可決してしまったので、今読み返すとちょっとモヤモヤしますが……

 しかし、

・性的思考とそれを求める理由
・オタクの定義
・何故美少女バトル物が需要があるのか

といった点についての見解は今でも面白く読めました。
 
 

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