【歴史】感想:歴史番組「ダークサイドミステリー」シーズン3(2021年版)「“ヒトラーの予言者”と呼ばれた男 謎の霊能力者ハヌッセンの野望」(2021年7月15日(木)放送)

Erik Jan Hanussen: Hitler's Jewish Clairvoyant

ダークサイドミステリー NHK https://www.nhk.jp/p/darkside/ts/4847XJM6K8/
放送 NHK BSプレミアム。毎週木曜夜9時放送。

www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想

perry-r.hatenablog.com
 

本当の謎は、人間の闇


背筋がゾワゾワ、心がドキドキ、怖いからこそ見たくなる。世界はそんなミステリーに満ちている。世間を揺るがした未解決の事件、常識を越えた自然の脅威、いにしえの不思議な伝説、怪しい歴史の記録、作家の驚異の創造力…。こうした事件・出来事を徹底再検証!
人智を超えた謎に迫る「幻解!超常ファイル」を拡大スピンオフ!今度は人間や自然が生み出した謎と恐怖に満ちた事件・伝説の正体に、栗山千明志方あきこ中田譲治のダークなトライアングルで引き続き迫ります。

 

ヒトラーの予言者”と呼ばれた男 謎の霊能力者ハヌッセンの野望 (2021年7月15日(木)放送)

 

内容

ダークサイドミステリー「“ヒトラーの予言者”謎の霊能力者ハヌッセンの野望」
[BS4K] 2021年07月15日 午後9:00 ~ 午後10:00 (60分)


魔法植物マンドラゴラをヒトラーに贈ったとウワサの、世界的霊能力者ハヌッセン。彼はヒトラーの黒幕だったのか?世界をあやつる怪しい2人が出会った時、何が起きたのか?


アメリカCIA保管の機密文書に“ヒトラーのアドバイザー”と記された謎のドイツ人・ハヌッセン。1920~30年代、予言、テレパシー、交霊術で世間を驚かせたスーパースター。彼のもう一つの顔が、「ヒトラーを首相に!」と予言プロパガンダを重ねた危険な扇動者だ。ヒトラーと人気霊能力者、怪しい2人に何があったのか?陰謀と激動の時代を霊能力でのし上がり、壮絶な最期をとげた人生とは?闇の予言者、驚きの生涯に迫る。


【ナビゲーター】栗山千明,【ゲスト】作家…佐藤亜紀関西大学文学部教授…森貴史,【語り】中田譲治,【司会】青井実

 
 今回のテーマは「予言者エリック・ヤン・ハヌッセン」。


●予言者ハヌッセン

 エリック・ヤン・ハヌッセンは、1920年代頃にヨーロッパやアメリカのエンターテインメントの世界で活躍した人物で、自らを予言者・霊能者として売り出していた。

 ハヌッセンこと、本名ヘルマン・シュタインシュナイダーは、1889年6月2日、オーストリア・ウィーン生まれ。父ジークフリートは旅役者、母ジュリーは同じステージに立つ歌手で、子供時代は貧しい暮らしをしていた。

 自伝によれば、9歳の時に初めて予言能力に目覚め、指名手配中のギャングが廃工場にいると予言した。そしてハヌッセンが工場に火をつけると、中からギャングが飛び出してきたという。もっとも、このエピソードはどうやら作り話らしい。

 ハヌッセンは、14歳で親元を離れ、猛獣使い・歌手・マジックショーなど様々なテクニックを学ぶが一向に芽が出なかった。1914年、25歳の時、第一次世界大戦で徴兵される。ある時、ハヌッセンは上司に霊能力で「男の子が生まれた」と予言してみせ、五日後そのとおり男子が生まれたという内容の手紙が届いた。上司は予言が当たったと喜んでハヌッセンを後方勤務にした。しかしこれには裏があった。ハヌッセンは野戦郵便局で働く友人を買収し、あらかじめ上司宛の手紙の内容を把握していたのである。



●成功への道

 1918年、ハヌッセンが30歳の時に戦争が終わった。ハヌッセンはドイツ・ベルリンに拠点を移し、テレパシーショーを演じて大評判となる。それは

1)舞台でハヌッセンが目と耳をふさぐ
2)観客の誰かが他の観客にもわかるように何かを会場に隠す
3)ハヌッセンが無作為に客を選び、その人物の心を読み取る
4)ハヌッセンがその客に連れて歩いてもらい、物を隠したところに来るとぴたりと当てる

 というものだった。

 ステージは大評判となり、各地から公演の依頼が殺到、月収は1000万円となった。さらに評判を聞きつけたセレブ相手に一回30万円で交霊術や個人占いも始めて大儲け。ハヌッセンは富と名誉を手に入れ、週末には自家用ヨットにセレブを集めていかがわしいパーティ三昧という日々を送った。

 ちなみに「テレパシーショー」は、おそらく、自分を案内する客に触れて筋肉の微妙な動きなどを読み取る「筋肉リーディング」ではなかったかと思われる。物を隠した場所に来ると無意識に体が緊張するのを手を通して感じ取っていた、と推測される。

 「霊能力」に種も仕掛けもあるとはいえ、ハヌッセンの能力は飛びぬけたものがあった。公演前にアシスタントに観客数百人について調べさせて、公演までに完璧に記憶し、どの客が相手でも対応できるようにしていた。しかも毎ステージ異なる観客の情報・計数千人分を数ヶ月後でも完璧に記憶していたという。



ナチスとの急接近

 1930年初頭のドイツは、前年の世界恐慌により失業率が30パーセントを超える惨状となっていた。ドイツ議会ではドイツ共産党とナチ党が激しく対立しつつ議席を急激に増やしていた。そんなある日、ハヌッセンは、ナチ党幹部でベルリンの突撃隊の指揮官ヴォルフ=ハインリヒ・フォン・ヘルドルフ伯爵と知り合いになった。突撃隊とはナチ党が政敵を排除するための暴力組織である。

 へルドルフはギャンブル好きで、借金が一億六千万円もあったが、ハヌッセンはその半分を肩代わりし、これを契機としてナチ党の幹部に食い込むことを狙ったのである。


 1932年1月。ハヌッセンは印刷所を買収し、自分が編集する「週刊ハヌッセン新聞」を発行し始めた。内容は、健康やお役立ち情報をハヌッセン風味のオカルトで味付けた内容だったが、これが大ヒット。最初8000部でスタートしたものの、一年後には15万部を発行するに至った。

 ところが1932年5月。ハヌッセン共産党の機関紙「ベルリン・アム・モルゲン」から、名指しで詐欺師呼ばわりされ、猛烈に叩かれた。ハヌッセンは反撃のため、1932年7月から「ヒトラーを首相に」云々と、共産党の敵ナチ党を持ち上げる記事を連発し始める。ハヌッセンは友人の多いナチを応援することで共産党の勢力をそぎ、自分への攻撃から身を守ろうとしたのである。

 またプロバガンダ大好きなナチ党としても、人気の予言者ハヌッセンが、予言で自分たちを応援してくれるのでありがたがっていた。



ヒトラー政権誕生

 1932年7月。ナチスは第一党に躍進した。1932年10月ハヌッセンは新聞で予言の形で「ヒトラーとナチ党でなくてはドイツは復活できない」云々と応援を加速させた。

 世間ではハヌッセンヒトラーへの入れ上げぶりに、ハヌッセンが魔法植物マンドラゴラをヒトラーに送った、という噂が流れる程で、アメリ諜報機関OSSヒトラーの黒幕にハヌッセンがいる、と指摘している。しかしハヌッセンヒトラーのアドバイザーをしていた、というのは噂レベルの話で真実では無かったらしい。

 ところが、ハヌッセンヒトラー応援はなかなか予言通りにはうまくいかなかった。1932年8月にヒンデンブルク大統領はヒトラーを首相にすべきではという意見を拒否している。また1932年11月6日の選挙でナチ党は議席を230から196に減らし急成長が行き詰ってしまった。

 さらに1932年12月12日に新聞のスクープでハヌッセンユダヤ人であることがすっぱ抜かれた。ナチスユダヤ人を敵視しており、すぐさまヘルドルフが真偽の確認にやってくるが、ハヌッセンは自分はデンマーク貴族の末裔で両親の死後ユダヤ人に育てられたと誤魔化した。

 ハヌッセンは、ナチ党の反ユダヤ政策は大衆の支持を得る為のトリックだと深刻に考えておらず、またナチ党幹部に金を貸しているので、ナチはその事を公表されたくないとふんでいたのである。

 1933年1月28日に内閣が突如総辞職し、1月30日にヒトラーが首相になった。ハヌッセン歓喜し、新聞でヒトラーに対し猛烈なエールを送りまくった。



ハヌッセン死す

 ヒトラーが首相となったのと同じころ、ハヌッセンは高級アパートに移り住み、内装に2000万円かけた通称「オカルト宮殿」を披露した。交霊術や占星術を行う部屋があり、また各部屋には盗聴器がしかけられ、客の個人情報を盗み聞きできるようになっていた。

 1933年2月27日夜、国会議事堂が炎上する事件が発生し、ナチ党はこれは共産党の放火だと主張した。その前夜、ハヌッセンはオカルト宮殿にセレブや新聞記者を招いた交霊会を開き、議事堂の放火を予言していた。現在では、この事件はナチスの自作自演であったとされている。ヒトラーは、事件翌日には国民の基本的人権のほとんどを停止し、共産主義者の徹底弾圧をおこなった。逮捕者は25000人以上。

 ハヌッセンはおそらくナチスを通じてこの放火を知っていたのだが、計画遂行の前に浅はかにもそれをリークしてしまったことになる。ハヌッセンはこの頃から自分の周囲の影について怯えるような発言をしている。またアメリカ移住を考えているとも語っている。

 1933年3月19日、ハヌッセンは印刷会社の買収を計画していたが、そこにナチス突撃隊のヴィルヘルム・オーストが横入りしてきたことを知らされ、つい、オーストはこんなことをするなら自分への借金を返済すべきだと口走ってしまう。

 五日後、3月24日。オーストたちがハヌッセンのオカルト宮殿に押し入り、借用証書を全て取り上げた。その後ハヌッセンは車でどこかに連れていかれ、4月7日にベルリン郊外の森で射殺死体で見つかった。ハヌッセンが消える前日の3月23日に、ナチスによって「全権委任法」が成立しており、ヒトラーは好き勝手に法律を作る権限を獲得していた。

 ハヌッセンの遺体はベルリン郊外のシュターンスドルフの墓地に埋葬された。

感想

 ナチ党とつながりのあった「予言者」の回。この人物の事は全然知らなかったので、物凄く面白かったです。しかし、大衆の心をがっちりつかんで富と名誉を手に入れたのに、時代の流れを上手く読み切れずに最後は自滅のような形になってしまったというのがなんとも言えない人生です……
 
 

光と闇のナビゲーター 栗山千明
MC 青井実 (アナウンサー)
語り 中田譲治
テーマ音楽 志方あきこ

 
 

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