【歴史】感想:歴史番組(新番組)「ダークサイドミステリー」シーズン3(2021年版)「笑顔が暴力を生んだ夜 ~なぜ人々はヒトラーに従ったのか?~」(2021年4月1日(木)放送)

ヒトラーの大衆扇動術

ダークサイドミステリー NHK https://www.nhk.jp/p/darkside/ts/4847XJM6K8/
放送 NHK BSプレミアム。毎週木曜夜9時放送。

www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想

perry-r.hatenablog.com
 

本当の謎は、人間の闇


背筋がゾワゾワ、心がドキドキ、怖いからこそ見たくなる。世界はそんなミステリーに満ちている。世間を揺るがした未解決の事件、常識を越えた自然の脅威、いにしえの不思議な伝説、怪しい歴史の記録、作家の驚異の創造力…。こうした事件・出来事を徹底再検証!
人智を超えた謎に迫る「幻解!超常ファイル」を拡大スピンオフ!今度は人間や自然が生み出した謎と恐怖に満ちた事件・伝説の正体に、栗山千明志方あきこ中田譲治のダークなトライアングルで引き続き迫ります。

 

笑顔が暴力を生んだ夜 ~なぜ人々はヒトラーに従ったのか?~ (2021年4月1日(木曜日)放送)

 

内容

ダークサイドミステリー[新]▽笑顔が暴力を生んだ夜 なぜ人々はヒトラーに従った?
[BS4K] 2021年04月01日 午後9:00 ~ 午後10:00 (60分)


現代にヒトラーがいたら、あなたは従わない自信はありますか?近年の研究で判明したナチの「気持ちよく従わせる」手法。人々を笑顔で地獄へ暴走させた恐怖の人心操作とは?


1938年、ドイツでユダヤ人街襲撃事件「水晶の夜」発生。ヒトラーのナチ・ドイツが大量虐殺“ホロコースト”に向かう端緒のこの事件は、庶民が“笑顔”でヒトラーを支持した先に生まれていた。「公平」「団結」「格安旅行」などの施策で快感をくすぐられ、簡単にコントロールされる人々。そこに「社会の敵」を与えられると、恐ろしい集団行動へと暴走していく…。近年の新たな研究をもとに“笑顔”社会の闇の落とし穴を探る。


【ナビゲーター】栗山千明,【出演】甲南大学 文学部 教授…田野大輔,立正大学 心理学部 教授…西田公昭,【語り】中田譲治,【司会】青井実

 
 今回のテーマは「ナチスファシズム」。


ドイツ国民はナチスの犠牲者か

 かつては「ナチス・ドイツ時代、ナチスは国民をプロバガンダで騙した/SSなどの暴力で従わせた、のであって、国民は犠牲者だ」と考えられてきた。ところが、現在でもドイツにはヒトラーを慕い、ナチス時代を懐かしむ人が存在する。このように国民は実は喜んでナチス政権を支えていたことが明らかになってきた。

 1920年代、ドイツはワイマール共和国体制(1919~1933年)だったが、「第一次大戦の賠償金220兆円の支払い」と「世界恐慌」の二重苦ですさまじい不景気に陥り、失業者が550万人も出る惨状だった。

 そんな時代に現れたのがアドルフ・ヒトラーで、国民に対し「戦って奪われた領土を取り戻そう」といった威勢のいい事を並べ立て男たちの支持を得た。また女性に対しては、働く「新しい女性たち」より、家庭を守る女性の方が大切といったことを語り、女性の心をつかんだ。

 ヒトラーの掲げたのは「民族共同体」という概念で、国民が一致団結して公正な社会を作る、というものだった。これによりナチス党は議席を大幅に増加させ、ヒトラーは1934年には首相と大統領を兼ねた「総統」に就任した。当時のスローガンは「総統は命じ、我々は従う」で、国民が積極的に独裁を支持していたことが伺える。

 2020年に発売された「ファシズムの教室」という本では、大学の授業としてファシズムを体感させることが行われている。生徒がみな白いシャツと青いジーンズを身につけ、全員で「ハイル(万歳)」と叫び、足踏みを行う。生徒たちは、大人数でこのような事を行うと、一体感が得られ、気分が高揚してくる、と述べている。ナチ政権時代のドイツ人も同じような感覚だったのではないのか。

 当時のドイツ国民は、ヒトラーに従うことに喜びと誇りを感じていて、「合意独裁」が行われていたと思われる。



ナチスも良い事をした?

 ヒトラーは国民を喜ばせるため数々のサービスを行った。

・その1 歓喜力行団(かんきりきこうだん)
  労働者向けにリゾート地や温泉などの宿泊を格安で提供する。

・その2 国民車構想
  国民が格安で自動車を買えるようにした。国民は喜んで積立金を支払った。

・その3 高速道路アウトバーン
  高速道路アウトバーンを建設した。また建設に出来るだけ機械を使わないようにすることで、60万人もの雇用を生み出した。


 しかし、これらの「ナチスが行った良い事」として宣伝されるものには裏があった。アウトバーンナチスが考えたのではなく、ナチ政権以前からすでに計画が存在していた。国民車は結局国民の元に届くことはなかった。歓喜力行団に参加できたのはごく一部の労働者に過ぎなかった。

 ナチ政権になって失業率が低下したというのも、数字上のトリックで「若者をボランティアにつかせる」「仕事のない女性を家庭に戻らせる」といった手で数字上の失業者を減らしただけだった。またやがて「労働者を徴兵する」「兵器産業につかせる」という方法で失業者を減らしたのだった。



ユダヤ人を敵に

 またナチスは「民族共同体」の団結のため、ユダヤ人を生贄にした。ユダヤ人は商業的に成功しているものが多く、一般大衆から妬み・憎しみの対象として見られていた。

 ナチスは1933年4月にはユダヤ人から物を買わないようにボイコットを呼びかけた。突撃隊員が店の周りを取り囲み、ボイコットどころか商売を妨害した。市民たちはそれを見物しているだけで止める者はいなかった。

 「ファシズムの教室」では、カップル役の学生がわざと公衆の面前でいちゃつき、それを生徒たちが取り囲んで「リア充爆発しろ」とののしるという実験が書かれている。周囲で見物していた関係ない学生たちも、やがて飛び入り参加して一緒に叫んだりしたという。見られている方は見物人がいることで気持ちが高揚していくなど、周囲の見物人も一種の共犯者となるのである。

 ナチスはやがてユダヤ人の就業の自由などの権利を奪っていった。



●水晶の夜

 1933年5月、ドイツの大学都市で学生たちはユダヤ人に関わる書物を焼き捨てる焚書を行った。そして五年後の1938年11月、ユダヤ人街を襲撃する暴動、通称「水晶の夜」が発生した。

 事の起こりは、1938年11月7日、パリのドイツ大使館の館員がユダヤ人に殺害されたことで、その報復としてドイツのシナゴーグユダヤ教の礼拝堂)が放火された。宣伝大臣ゲッベルスは、この件について「自然発生的な動きなので止める必要はない」と発言した。政府がユダヤ人攻撃を黙認すると宣言したのである。

 11月9日の夜。突撃隊がユダヤ人街を襲撃し、放火などを行いユダヤ人に暴力をふるった。市民は見物しているだけで止めようとはしなかった。警察も消防もこの動きを止めることなく傍観しているだけだった。

 この事件の後、暴動の責任はユダヤ人にあるとして、三万人が逮捕された。ナチスユダヤ人に対し、強制労働につくか、財産を全て放棄して国外退去するか、を迫った。



●T4作戦

 1939年、ドイツは第二次世界大戦に突入すると、障がい者の介護費用を兵器生産など別の目的に振り向けるため、障がい者の組織的に安楽死させる「T4作戦」を開始した。障がい者の肉親には治療のため別のところに連れていくと説明し、ガス室に送り込んで大量殺戮を敢行したのである。

 しかし、このことが国民に知られると、宗教界から猛烈な反発を受け、ヒトラーは1941年8月に作戦を中止した。しかし作戦に関わった医療関係者は、その後も勝手に自分たちの判断で安楽死を継続した。そして対象は障がい者から拡大し、高齢者、重傷者、第一次大戦の退役軍人、等にまで及んだ。

 T4作戦に参加した医療関係者は、その後のユダヤ人大量虐殺ホロコーストにも関わることになった。


●「民族共同体」の終わり

 1945年4月30日、ヒトラー自殺。5月7日にドイツは敗北、「民族共同体」は崩壊した。国民が喜んで独裁を支えた「合意独裁」の結果、ドイツ国民自身も含めた数千万の命が失われる結果となった。

感想

 シーズン3第一回目からいきなり見ていて憂鬱になる暗い内容の回でした……

 現代ドイツって「ヒトラー時代は良かった、ヒトラー大好き」とか言っちゃっていいんですね…… ナチズム肯定したら逮捕されるとかそういうのかと思ってたよ。ダメなのはホロコーストの否定だけなのかな……
 
 

光と闇のナビゲーター 栗山千明
MC 青井実 (アナウンサー)
語り 中田譲治
テーマ音楽 志方あきこ

 
 

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