【推理小説】感想:小説「大きな森の小さな密室」(小林泰三/2011年)

大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4488420117
大きな森の小さな密室 (創元推理文庫) 文庫 2011/10/22
小林 泰三 (著)
文庫: 356ページ
出版社: 東京創元社 (2011/10/22)
発売日: 2011/10/22

【※以下ネタバレ】
 

会社の書類を届けにきただけなのに。森の奥深くの別荘で幸子が巻き込まれたのは密室殺人だった。閉ざされた扉の奥で無惨に殺された別荘の主人、それぞれ被害者とトラブルを抱えた、一癖も二癖もある六人の客。名探偵は幸子、ではなく偏屈な老人?! ……表題作をはじめ、死亡推定時期は150万年前! 抱腹絶倒の「更新世の殺人」など7編を収録。ミステリお馴染みの「お題」を一筋縄ではいかない探偵たちが解く連作集。(単行本版タイトル『モザイク事件帳』を文庫化・改題)

 

あらすじ

 短編集。2008年に発売された「モザイク事件帳」を文庫化する際に改題したもの。全作品で世界観が共通しており、ある作品での探偵役が別作品で脇役として登場するなど、一冊で一つの世界を構築している。



●「大きな森の小さな密室」 犯人当て

 大きな森の中に建つ高利貸しの家。しかし男は密室の中で死んでいた。犯人は誰でどうやって密室にしたのかのか。

 密室トリックはドアに接着剤を流し込んで簡単に開かないようにしてあっただけ。犯人は自分の服が返り血で汚れていたので、それを誤魔化すため、ドアをこじ開けるふりをして勢いあまって死体の血がついてしまった様にふるまった。



●「氷橋」 倒叙ミステリ

 ある雑誌編集者は自分の担当している女性作家と浮気をしていたが、それが妻にばれるのを恐れ、作家の殺害を企てる。そして睡眠薬で眠らせた後風呂に入れ、氷でかけた橋の上にドライヤーを動かしっ放しにしてから部屋を離れる。しばらくして氷の橋がくずれ、作家がドライヤーで感電するものの、自分はその間のアリバイが作れるという寸法だった。

 ところが被害者の夫に弁護を頼まれたという弁護士が犯人の元にやってきて、アリバイトリックを看破する。ポーチしかもっていなかった犯人がどうやって氷を持ち込みバスタブにかけられる氷の橋を作れたか。それは食塩を振って氷の温度を下げ細長い氷を連結したのだった。



●「自らの伝言」 安楽椅子探偵

 コンビニのアルバイトである早苗の友人・菜穂子には猛士という恋人がいた。猛士はニューサイエンスを対象としている研究所に勤務しており、水からの伝言を研究しているという。ところがある日菜穂子が猛士が死んでいたと言って早苗のいるコンビニに飛び込んでくる。早苗は菜穂子が疑われないように親切に証拠の隠滅を勧めるが、同じコンビニに勤務するバイト・新藤礼都が、横で話を聞いただけで「早苗が殺人犯だと看破するのだった。



●「更新世の殺人」 バカミス

 主人公は名探偵「超限探偵Σ」の友人「わたし」。Σのところに知人の警部がまたしても難事件を持ち込んできた。遺跡の発掘現場に埋まっていた若い女性の遺体が発見されたが、その遺跡は150万年前、更新世のものだった。つまり殺人は150万年前に行なわれた事になる。150万年前に殺された死体が、何故現代の人間の服装をしていて、しかもまるで昨日殺されたみたいに新鮮なのだろうか!?

 Σはその超頭脳により、殺人が150万年前ではなく発見前日に行われ、犯人が死体を遺跡に埋めた、という驚愕の真相を見抜く。Σが犯人を問い詰めると、なんと犯人は片腕をサイボーグ化しており、そのメカで反撃を試みる。しかし警部が手っ取り早く犯人の脳天をぶち抜いて殺して一件落着。



●「正直者の逆説」 ??ミステリ

 主人公「わたし」は旧知の丸鋸遁吉先生に、探偵を始めたので助手になれと言われ、ある資産家の別荘までついていくことになった。ところが別荘が大雪が孤立したところに、さらに依頼人の資産家が毒殺されてしまう。丸鋸先生は事件解決のため、自らが開発した「万能推理ソフトウェア」を起動させ探偵Σを呼び出す。

 しかし外部との通信が切れたためΣとの連絡もつかなくなったため、丸鋸先生はこの短編の冒頭に書いてあった「犯人しか嘘を付かない」という宣言部分を引き合いに出して、必ず犯人が解るような論理クイズ的な質問を考え始める。「わたし」は超難解な質問を執事にぶつけ犯人と断定し、実際犯人だったが、他の人物から謎解きの意味が解らないとクレームがつく。しかしこれ以上長くすると他の作品とバランスが取れないと言いわけして、説明なしで〆。



●「遺体の代弁者」 SFミステリ

 主人公・田村二吉は大怪我で30分以上記憶を保てないという症状に陥っていたが、マッドサイエンティストの丸鋸博士により、他人の海馬を脳に接続することで、その海馬に蓄積された記憶を体験できるように改造されていた。そして警察は秘密裏に殺人の被害者の脳から海馬を取り出して、殺人事件の捜査に使用していた。

 田村は男女二人がビルの屋上から転落して死亡したという事件の捜査のため、被害者の女性の記憶を再体験することになった。容疑者は死んだ男性の妻だが記憶には彼女の顔は無かった。しかし妻が死体とは別の女性をさらに殺して、その海馬を現場に置いて偽装工作をしていたという真相が看破されて〆。



●「路上に放置されたパン屑の研究」 日常の謎

 田村二吉の部屋に「徳さん」と名乗る老人が現れ、散歩コースに数日おきにパンくずが落ちているので、その理由を推理してみろという。田村は困惑しつつもそれなりの推理をして徳さんを追い返す。

 田村二吉の部屋に「徳さん」と名乗る老人が現れ(以下同上)

 田村二吉の部屋に「徳さん」と名乗る老人が現れ(中略)。田村は困惑しつつも、それは記憶能力に問題が有る人間がパン屋までの道を忘れないようにパンくずで道標を残したものの、その事すら忘れてしまったのだと推理する。すると徳さんはその犯人まで当てろと迫り、田村はそれが自分のしている事だと理解する。

 実は徳さんは真相を知っていたものの、暇つぶしのため、今までにも何度も何度も何度も何度も田村に同じ質問をして推理をさせては楽しんでいたのだった。


感想

 評価は○(微妙)

 作者の小林泰三(こばやし・やすみ)氏はSF・ホラー小説が本業のようで、正直推理小説としての出来栄えは感心しないのだが……、どう考えても真面目な推理モノではないバカ小説については無性に面白かったので、完全否定できない微妙な短編集となっている。



●「大きな森の小さな密室」 犯人当て

 正統派の謎解きだが、全く面白くない。取ってつけたような密室トリックが浅い。



●「氷橋」 倒叙ミステリ

 結局謎は「氷を食塩で温度を下げて連結した」という子供向け推理クイズみたいな真相で、読んでいてバカバカしくなった。



●「自らの伝言」 安楽椅子探偵

 タイトルは、一時期流行ったオカルト「水からの伝言」のパロディ。「水から~」をコケにするために書かれた作品。登場人物の一人の頭のカラッポな娘がニューサイエンスを無邪気に信じており、探偵役の新藤礼都がこの娘を徹底的にバカにするシーンのためだけに書かれていると思われる。謎解きはくだらないレベルで推理小説としては駄作。



●「更新世の殺人」 バカミス

 クソバカ小説(笑) 超絶知性を持つという探偵役とその友人や警察関係者が、読者は100%突っ込まずにはいられないような的外れのバカ推理を開陳しながら話を進めていくギャグ話。一応最後には探偵Σが犯人を当てるのですが、唐突に犯人が片腕サイボーグだったとか言い出し(笑)、最後までバカを貫き通します(笑) あと遺跡発掘のスペシャリストで、遺跡に行くと必ず大発見をするという「ゴッドハンド」(笑)も登場し、現実への皮肉もたっぷり。



●「正直者の逆説」 ??ミステリ

 これも推理小説ではない(笑) 大体、本筋と全く関係の無い、主人公たちが目的の大金持ちの別荘に付くまでの珍道中がもうただのドタバタギャグ小説(笑) そのあと中盤以降は、キャラクターたちが自分が小説の中の存在であることを自認して発言する、つまり「メタフィクション」となり、「犯人しか故意に嘘をつかない」という作者が決めたルールを元に犯人をあぶり出そうとするという(笑) しかし探偵役が犯人を断定するために使った超絶難しい論理的質問は、何回読み返しても全く理解できない(笑)



●「遺体の代弁者」 SFミステリ

 これも推理小説ではなく、推理っぽいものがあるただのSFである(これでミステリを名乗るとかおこがましい)。ただしちょっと感心したのは、途中で物語の語り手が変わってるという叙述トリック的な事を仕掛けている事である。まあ面白いのはそこくらいだったが。



●「路上に放置されたパン屑の研究」 日常の謎

 同じ展開が何回もループするので何かと思ったが、記憶喪失の主人公を質の悪い老人がおちょくっているだけの小説。結末が底意地が悪く不愉快に尽きる。



 ということで「更新世の殺人」と「正直者の逆説」は面白かったが、東京創元社はこの本を「推理文庫」で売るというのは不誠実に尽きるのではないのか。SF文庫の方にでも突っ込んでおくべき内容だった。まあ、全作品とも推理小説雑誌「ミステリーズ!」に掲載されたらしいが……
 

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