感想:小説「サイモン・アークの事件簿V」(エドワード・D・ホック)(2014年1月29日発売)


 小説「サイモン・アークの事件簿V」(エドワード・D・ホック)の感想です。

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■データ(公式)
http://www.amazon.co.jp/dp/448820113X
サイモン・アークの事件簿V (創元推理文庫) [文庫]
エドワード・D・ホック (著), 木村 二郎 (翻訳)
文庫: 409ページ
出版社: 東京創元社 (2014/1/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 448820113X
ISBN-13: 978-4488201135
発売日: 2014/1/29

東京創元社
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488201135
サイモン・アークの事件簿〈V〉

>風変わりな人々や事物が関わる奇妙な事件の起こるとき、謎の男サイモン・アークは現れる。あるときは超常現象研究者、またあるときは私立探偵として。警官が監視する中、焼死したはずの男が遂げた不可能犯罪、ブラジルの海岸で見つかったミイラのように防腐処理された死体の謎、現代ニューヨークに住まう魔女が生み出した回転ドアの密室……暗黒の事象と犯罪が交差する怪事件を、オカルト探偵が明晰な推理力で解いていく8編を収録した第五短編集。解説=木村仁良

目次
「闇の塔からの叫び」
「呪われた裸女」
「炙り殺された男の復讐」
シェイクスピアの直筆原稿」
「海から戻ってきたミイラ」
「パーク・アヴェニューに住む魔女」
「砂漠で洪水を待つ箱船」
「怖がらせの鈴」

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■データ(個人的補足)

 「サム・ホーソーン」や「怪盗ニック・ヴェルヴェット」などの名探偵で知られるホックが創造した「《オカルト探偵》サイモン・アーク」の作品をまとめた日本独自の作品集。前作「サイモン・アークの事件簿IV」(2012年12月発売)から1年1ヶ月ぶりの新刊。

 本巻でシリーズ完結とのこと。


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■あらすじ/感想

 サイモン・アークは、外見は70歳前後の老人で、宗教や超自然現象について豊富な知識を持つ神秘的な人物。作中では数十年が経過しても全く老いることがなく、おそらく不老不死で、年齢は1500歳とも2000歳とも言われています。彼は悪魔を探して戦う事を人生の目的としており、そのために超自然的な事件を求め、世界中を旅しています。サイモンとサイモンの友人で物語の語り手「わたし」は毎回不可思議な状況で発生した事件に遭遇しますが、周囲がその状況に幻惑される中、サイモンは常に論理的に真相を導き出します。



1「闇の塔からの叫び」(1958年)

 中篇。「わたし」が勤めている「ネプチューン・ブックス」から本を出す予定だった作家が殺された。「わたし」は何故か社長に呼び出され、サイモン・アークと共に事件を解決するように命じられるが…


 訳者が意図的に凄いタイトルをつけていますが、内容は怪奇も宗教も関係無い普通の殺人事件で、謎解きも含めてイマイチ。



2「呪われた裸女」(1959年)

 探偵事務所を営むサイモン・アークと「わたし」に奇妙な依頼があった。姪が服を着ないで徘徊するのでなんとかして欲しいというのだ。しかもその姪は殺人事件の容疑者でも有るらしい…


 これも謎解きとしてはもう一つ。ちなみに、何故か「わたし」とサイモンが私立探偵をやっています。サイモンだけならともかく、「わたし」は出版社の社員のはずなのに…、パラレルワールド設定か何か?



3「炙り殺された男の復讐」(1959年)

 中篇。かつてネプチューン・ブックスの社員で、不祥事を起こして失踪した男が帰ってきた。男は関係者への復讐のため、中傷だらけのゴシップ新聞を発行しようと企んでいたが、やがて焼死体となって発見され…


 やや長めですが、謎解きとしてはまずまず。色々な手がかりで読者の目を散々混乱させておいて、最後にあっと驚く犯人に到達します。



4「シェイクスピアの直筆原稿」(1972年)

 「わたし」はシェイクスピアの直筆原稿の売り込みの話を聞き面会しようとするが、持ちこみ相手は殺され原稿は消失していた…


 これも底が浅い…、



5「海から戻ってきたミイラ」(1978年)

 サイモンと「わたし」は、リオの海岸にエジプトのミイラのような死体が漂着した事件の調査のためブラジルに飛んだ。被害者は何かの宗教の生贄にされたのだろうか?


 「これこそサイモン・アーク」という感じの事件。リオの異教崇拝の様子をたっぷり描写した後、金銭的なトラブルについても手がかりを出して行き、犯人の目星すら付けさせません。また遺体をミイラにした動機が実に納得のいくもので、さすがというところです。



6「パーク・アヴェニューに住む魔女」(1982年)

 サイモン・アークは法律事務所からの依頼で、魔女を自称する富豪と面会することになった。彼女は最近邪魔な元夫を黒魔術で呪い殺し、さらにその弟の命も狙っているらしいので、対処して欲しいというのだが…


 衆人環視の中で、周囲に誰もいない状況で起きた殺人。これはやはり魔女の黒魔術による殺しなのか? と怪奇ムードで盛り上げて、最後はサイモン・アークらしい論理的な推理で解決されます。これもなかなか良し。



7「砂漠で洪水を待つ箱船」(1984年)

 「わたし」とサイモン・アークはカリフォーニアの砂漠で、洪水に備えて箱舟を作っているという奇妙な男に出会う。近くのホテルでは「わたし」と旧知の人物と出会うが、彼は何かを調査中らしい。この近辺では何が起きているのだろうか…


 どんでん返しの面白さというか、最初に見えていた光景が話の進展と共にどんどん変わっていくのが楽しい。ちなみに文中に「ポケベル」が登場しますが、20歳以下の読者には何のことだか解らないのではないかと心配。



8「怖がらせの鈴」(2001年)

 サイモンと共にイギリスに滞在していた「わたし」は、奇妙な殺人事件の調査を依頼される。200年前に作られた礼拝堂の中で人が殺されていたが、唯一つの扉は閉まったままだったという。興味をそそられたサイモンは現地に向かうが…


 話が思わせぶりなわりに、犯人当てやトリック解明の楽しさは薄く、正直イマイチ。


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■総括

 気に入ったのは「海から戻ってきたミイラ」「パーク・アヴェニューに住む魔女」「砂漠で洪水を待つ箱船」の三作。それ以外は推理物として謎解きの妙味といったものが感じられず、いささかがっかりでした。

 まあ、傑作の連発だった「サム・ホーソーン」シリーズと比較しての評価ですので、それなりに面白い一冊、とは言えましょうか。

 なんだかんだ言っても楽しみにしていたシリーズでしたので、未訳作品を残しつつ本巻で完結というのは残念ではあります。


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■評価

(5段階評価の)3点。

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■おまけ:シリーズ既刊

04 サイモン・アークの事件簿IV (2012年12月発売)
03 サイモン・アークの事件簿III (2011年12月発売)
02 サイモン・アークの事件簿II (2010年12月発売)
01 サイモン・アークの事件簿I (2008年12月発売)
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