感想:小説「隅の老人 完全版」(バロネス・オルツィ)(2014年1月発売)

 「隅の老人 完全版」(バロネス・オルツィ)の感想です。

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■アマゾン
http://www.amazon.co.jp/dp/4861824699
価格: ¥ 7,344
単行本: 608ページ
出版社: 作品社 (2014/1/31)
言語: 日本語
ISBN-10: 4861824699
ISBN-13: 978-4861824692
発売日: 2014/1/31
商品パッケージの寸法: 21.8 x 16 x 5 cm

●作品社|隅の老人【完全版】
http://www.sakuhinsha.com/oversea/24692.html

>元祖“安楽椅子探偵”にして、もっとも著名な“シャーロック・ホームズのライバル”。世界ミステリ小説史上に燦然と輝く傑作「隅の老人」シリーズ。原書単行本全3巻に未収録の幻の作品を新発見! 本邦初訳4篇、戦後初改訳7篇! 第1、第2短篇集収録作は初出誌から翻訳! 初出誌の挿絵90点収録!
>シリーズ全38篇を網羅した、世界初の完全版1巻本全集!


>日本で出版された「隅の老人」の単行本は、残念ながら現在までは(…)日本での独自編集によるものばかりで、オリジナルどおりに全訳されたものがなかった。とくに第三短篇集『解かれた結び目』は未訳作品がほとんどである。本書では、三冊の単行本とこれらに収録されなかった「グラスゴーの謎」を全訳して、完全を期した。


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■データ(個人的補足)

 推理小説。19世紀末〜20世紀初頭にかけて、ホームズ物の成功に対抗して多数登場した「シャーロック・ホームズのライバルたち」の一人「隅の老人」の作品集。


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■あらすじ/感想

 時は20世紀初頭(と1920年代)。舞台はロンドンにある「ABC喫茶店」の隅のテーブル。そこには主人公の「婦人記者」と「老人」が座っており、毎回世間を騒がせたまま迷宮入りした事件が話題になります。そこで老人は婦人記者に請われるがままに事件の背景や経過について詳細に語った後、最後に「真相」(とおぼしき物)を披露します。


 舞台は喫茶店の中に限定されていますが、老人は世間を騒がせるスキャンダラスな事件が大好きらしく、新聞の情報を詳細にチェックしているばかりか、自分で事件現場周辺に出かけて写真を撮影してきたり、法廷に傍聴に出かけて関係者の証言を確認したり、と実にまめに行動しており、それらの調査の結果を臨場感たっぷりに語ってくれます。そして最後に、警察も誰もたどり着けなかった事件の真相について得意げに教えてくれるのです。


 と、設定はなかなか面白いのですが……、各作品は推理物としてのレベルはそれほど高いものでは無く、事件の真相も単純なものが多いです。またトリックのキモが「超強引な変装」というものもあり、かなりムリが有る作品も少なくありません……


 さて、私はこの本の前に、創元推理文庫から発売されている「隅の老人の事件簿」(http://www.amazon.co.jp/dp/4488177018)を読んでおり、「事件簿」のおかげで「隅の老人」シリーズのファンになったのですが、今回「完全版」を読んで全作品を制覇してみて、このシリーズをかなり買い被っていた、という残酷な事実に気が付きました。というのも「事件簿」は傑作選というか、シリーズの中から質の高いものだけを収録しており、今回初めて読んだ「それ以外」の作品はイマイチな物ばかりだったのです。また全体の傾向として「登場人物は違うものの設定/展開は似たような事件」が多く、全38作品を通して読むと、印象に残る作品が全くありません。さらに「事件簿」は本の最後の「隅の老人最後の事件」が劇的な結末で強烈な印象を残しますが、「完全版」では律儀に発表順に並べてるので、そういうインパクトは皆無でした……、うーん、量がすごいという以外ほめるところが無い……



■総括

 正直、「隅の老人」という探偵の物語を楽しみたいなら創元推理文庫の「事件簿」で十分だと思います。前述の通り、「事件簿」は質の高い作品を厳選していますし、また本の最後が劇的に締めくくられるように構成されています。それに対して、「完全版」の価値は「読者が思い残す事の無いように全部翻訳しました」という事だけですね。まあマニアというものは「全てを手に入れたい」という気持ちで満ち溢れていますから、確かに翻訳してくれたのは有り難かったとは言えますけど、正直期待はずれだったなぁ。


■おまけ

 ところで、最後まで「主人公の婦人記者の名前はポリー・バートンでは?」と疑問で仕方なかったのですが、巻末の訳者の解説で漸く謎が解けました。実は「完全版」は初出の雑誌掲載バージョンを翻訳しているのですが、作者は作品を単行本に収録する際に大改定しており、そのときに主人公に初めて「ポリー・バートン」という名前が与えられたのだそうです。創元推理文庫版は単行本バージョンから翻訳されているのでポリーという名前がついていたのでした。ああ、スッキリした。


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■評価

(5段階評価の)3点。

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ISBN:978-4861824692:detail

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