感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン9」第15話「英雄に捧ぐ」

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■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン9 http://dlife.disney.co.jp/program/drama/xfile_s9.html
放送 Dlife。全20話。

【※以下ネタバレ】
 
※シーズン9の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら→「X-ファイル シーズン9」あらすじ・感想まとめ
 

第15話 英雄に捧ぐ JUMP THE SHARK

 

あらすじ

 お題は「生物兵器テロ」。

 カリブでモリス・フレッチャーという怪しげな男が捕まるが、モリスはドゲットとレイエスを指名して会いに来させる。モリスは元政府関係者で、二人にUFOや宇宙人の情報を提供するので引き換えに身の安全を保障してほしい、と取引を持ち掛けるが、ドゲットたちは無視して帰ろうとする。ところがモリスが「無敵兵士」の一人を知っているというので、話を聞くことにした。

 モリスの言う無敵兵士とはイブ・アデル・ハーロウという女性で、かつてローン・ガンメンの三人組と関わった事があった。以前にも三人組はモリスにイブ探しを頼まれて騙されたことがあり、今回の話も信用できないと疑うが、とりあえずドゲットたちに頼まれてイヴを探し始める。

 やがてイブが大学教授を殺害したことが判明するが、死体は胴体がえぐられており、体内に移植されていた何かの器官をイブが持ち去ったらしい。

 三人組はイブの二人目の殺人を寸前で止め、イブから事情を聴く。イブの父親は大富豪だがテロ組織を支援しており、テロリストがウイルスを仕込んだ特殊器官を体内に埋め込んでテロ攻撃を計画しているため、止めようとしていたという。モリスはイブの父親に雇われており、イブを見つけるため無敵兵士云々という嘘でX-ファイル課や三人組を動かしたのだった。

 三人はついに二人目のテロリストを見つけるが、体内の器官からウイルスが漏れ出る時間が迫り、もう止める方法が無かった。三人は非常用の防火扉を閉めテロリスト共々その中に閉じ込められる。こうしてウイルス流出は食い止められたものの三人は死亡した。三人はスキナーの計らいで、国家に貢献した人物が葬られるアーリントン国立墓地に埋葬された。


監督 クリフ・ボール
脚本 ヴィンス・ギリガン & ジョン・シバン & フランク・スポトニッツ


感想

 評価は○。

 シーズン1から登場し続けてきた名脇役の三人組ローン・ガンメンたちが、大勢の人々の命を救うため英雄的な死を遂げる、という衝撃エピソード。超常現象が一切関係せず、「X-ファイル」の名前を借りた別のドラマであることを気にしなければ、結構満足度は高かった。


 本エピソードは、冒頭から三人組の今までに全く見たことのない活躍映像が流れたり、三人組とモリス・フレッチャーという曲者キャラの確執が描写されたり、三人組がイブというキャラに入れ込んでいたり、ジミーという三人組のアシスタント的若者が登場したり、という未知の事柄が何の説明も無く「承前」的に展開されてしまい、視聴者には戸惑うことばかりだった。

 調べてみると、このエピソードは、三人組が主役を務めたスピンオフ番組「ローン・ガンメン」(The Lone Gunmen)の完結編をX-ファイルの枠で放送した的な、番外編というかスペシャル回というか、だったらしい。「ローン・ガンメン」は、X-ファイルのシーズン8と並行して、2001年3月から6月まで13回放送されたものの、視聴率不振で打ち切りになってしまっていた。今回のシナリオを書いた三人(ヴィンス・ギリガン & ジョン・シバン & フランク・スポトニッツ)は「ローン・ガンメン」のシナリオも担当しており、X-ファイル本編が終了するなら、「ローン・ガンメン」もけりをつけておこう、的にこの話を書いたものと思って間違いなさそうである。

 もっとも、FOXは「ローン・ガンメン」が低視聴率の不人気番組だったため、その主役だった三人をメインに据える話を作ることには批判的だったそうで、気持ちはよく解る、というか、スタッフはよくこの話を完成まで持ち込めたものだと感心する。


 今回登場したジミーもイブも「ローン・ガンメン」の登場キャラで、ジミーはアシスタント、イブは三人組を邪魔したり助けたりする謎の美女、という役回りだったとのこと。またモリスは第12話「All About Yves」のゲストで、劇中でも語られたように三人組にイブ探しを依頼する、という役回りで登場したらしい。

 もっと言えば、そもそもモリス・フレッチャーは、X-ファイル本編で先に登場したゲストキャラで、シーズン6・第4話「ドリームランド Part1」、第5話「同 Part2」、第20話「荒野の三人」、の三作に出演している。「ドリームランド」二部作では、オカルトマニアには有名な空軍基地「エリア51」の秘密を守るMIB(メン・イン・ブラック)として登場したが、その役目から受けるイメージとは裏腹のおちゃらけキャラで、つまらない仕事にも不仲の妻子にもうんざりしており、超常現象でモルダーと体が入れ替わったのを幸いに、新しい人生をエンジョイする、というコメディキャラとして活躍(?)した。今回も、嘘をつきまくったり、三人組を小ばかにしたりするものの、妙に憎めないキャラとして存在感を放っていた。


 「ローン・ガンメン」は本編のX-ファイルとは違い、超常現象ではなく三人組が大好きな「政府の陰謀」などのテーマを扱うコメディ系番組だったとのことで、今回全然超常現象がテーマでなかったのもそれで納得である。


 というような様々な前提知識が無いとフルに楽しめない特殊な回ではあったが、それらを知らなくても「こんな回なんだな」と割り切って視聴したので、結構楽しめたのも間違いない。


 劇中で、イヴに殺された大学教授の死体が生体発光している、という怪しげな手掛かりが提示され、すわこの大学教授こそ無敵兵士か? と身構えたものの、結局その話はどこかに消えてしまい、無かったことになってしまったのはいただけなかった。しかし、まあこの手の伏線の未消化はX-ファイルでは日常茶飯事なので、目をつぶって気にしないことにすれば問題は無いというところであろうか。


 三人組がネットでイブを探す際に「オズワルドの別のアナグラムを探そう」云々という台詞が飛び出した。その時には意味が全く理解できなかったが、これも「ローン・ガンメン」から来ているネタで、イブのフルネーム「イブ・アデル・ハーロウ」(Yves Adele Harlow)は、実はケネディ暗殺犯人「リー・ハーベイ・オズワルド」(Lee Harvey Oswald)のアナグラム(文字の入れ替え)なのである。だから別の組み合わせを試そうという話になったわけである。


 三人組がイブ探しに資金を使い果たして、新聞「ローン・ガンメン」を発行できなくなっていたり、パソコンその他の機器も全て売り払っていたり、と妙に寂しい空気が漂っていて特別な回という予感はあったが、あんなにカッコよく散っていくラストだとは思いもしなかった。そういえば長髪ラングリーが、モリスに向かって「英雄は永遠に生きる」とか力説していたのも、この結末に向けての伏線だったわけで、それに気が付くと妙にしんみりしてしまった。

 ラストで三人組が埋葬されたアーリントン国立墓地は、戦没者など国家に尽くした人間が埋葬される場所である。あの三人がこんなカッコいい結末を迎えるとは、シーズン1の頃には考えもしなかった。


一言メモ

 サブタイトルの原題「JUMP THE SHARK」とは、アメリカのスラング的なもの「jumping the shark」からきているそうで、意味は「視聴率が低下し始めたあと、それを元に戻そうと絶望的な試みをした番組」を示すらしい。X-ファイルは、シーズン9は評判が悪くて視聴率が急低下しており、このエピソードの放送時点で既にFOXから打ち切りを宣告されていた。つまり、このサブタイトルは、スタッフの強烈な自虐ネタだったわけである。裏事情を知ると、変な笑いを浮かべずにはいられない。

シーズン9の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら

「X-ファイル シーズン9」あらすじ・感想まとめ